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有吉佐和子『女二人のニューギニア』河出文庫

有吉佐和子というと、ずっとベテラン作家のイメージだった。『恍惚の人』という高齢化社会を先取りしたような作品も書いた、切れる人。「笑っていいとも」のテレフォンショッキングを乗っ取ってみんなを唖然とさせたのも強烈だった(実は演出だったらしい)。なので、あの有吉佐和子がニューギニアに行った?!と驚いたのだが、これは彼女がまだ30代だったときの話。ニューギニアで文化人類学の研究をしている友人から誘われて、ごく軽い気持ちでニューギニアに行ったときの話だ。何が起きるのか、まったく内容が想像できない本で、面白く読んだ。

最初の、そして最大の苦難は、迎えにきてもらった空港の町から、友人畑中さんが住む小さな村までの3日間の徒歩での旅である。それなりのいでたちで出かけたのに、山やら原始林やらを歩くうちにたちまち音を上げた有吉さん。ついには現地人に助けてもらってこんな格好で運ばれることになってしまった。


やっと畑中さんの住む家に着いたが、足の指の爪がはがれかけて動けなくなってしまう。何の役にも立たず、畑中さんの足手まといになっていることを気にして、やっと彼女が考えついた仕事は「パンツを縫う」ことだった。現地人は服を着ていない。パンツを縫って、ご褒美に使用人たちにプレゼントするのだ。(その結果、パンツをはくようになった者がだんだん態度が大きくなり、以前のように働かなくなったというのは皮肉な話だ。)

この村の滞在でも驚くような記述が続く。現地人の料理人を雇った畑中さんは根気よく「調理の前には手を洗え」とおしえる。しかし、有吉さんが覗いてみると、彼は手を洗った水をそのままやかんに入れて沸かして、それで紅茶を入れて出しているのだった…。でもそれを知っても有吉さんも畑中さんもその紅茶を飲んでしまう。もうそこまで度胸がついているのであった。茶色の川の水をそのまま飲んだり、大蛇を食べたり、ニューギニアでのワイルドな暮らしぶりがたっぷり味わえる。これから先進国の文化や経済が入ってきて、彼らがどう変化してしまうのかを案じる下りもある。

最後に有吉さんはどうやって空港のある町まで帰れたのか。その偶然のあっけなさにもびっくりした。(ヒント:歩いて帰るのではない。)さらに驚くのは日本に無事に帰国してからのこと。マラリアを発症するのである…。これはまったく予想外のエンディングだった。

ニューギニアにいる間、若い有吉さんはとにかく日本に帰りたい、子どもに会いたいと願う。そういう有吉佐和子がわたしには意外で新鮮だった。エキセントリックな人(「笑っていいとも」のおかげ)という、持っていた印象があっけなく消えた。今ではわたしにとっての有吉さんは「黙々とパンツを縫う人」である。


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