有栖川有栖さんと吉川トリコさんの優しさに包まれた夜。②
吉川トリコさんの『小説家のトリ説 初級編』(以下『トリ説』)刊行を記念して開催された有栖川有栖さんとの公開対談の様子をご紹介(前段はこちら)。トークの本編が始まり、いよいよ小説の書き方、新人賞応募の話題に。お二人の本音が炸裂する貴重な機会となった。
『トリ説』に掲載された「小説家になるには、やはり小説教室に通った方がいいのでしょうか? そういうところでアドバイスをもらうためには自分と同じワナビの作品を沢山読まなければいけないと思うと気が進みません」という何とも正直な質問。
どう思うか、お二人のご意見を伺った。
「この気持ちは分からなくもないです」と吉川さん。
「私は短大の創作ゼミで合評とかもしてました。ただ自分の読む力は信用してないし、的確なアドバイスを人にできるのか自分自身を疑ってます。あと、この方が誰かにアドバイスをされても、素直に聞くかな?と思ったんですよね。素直に聞くのも聞かないのも大事なことで、おんなじ位の分量でそれができたら一番いいんですけど。聞き過ぎてその人の持ち味がなくなるのも怖いし、聞かな過ぎるなら行く意味もないと思う」
確かに……。人の意見を鵜呑みにし過ぎるのも違うけれど、聞く気がないなら一人で書くのとそこまで変わらないのかもしれない。
有栖川さんは「小説教室の意味はあると思う」と、ご自身でやられている「創作塾」を例にして効果を説明して下さった。
「私のやっている塾では初めて小説を書く人から、もう新人賞の最終に残る人まで、色々なレベルの作品を一緒に合評します。一緒くたでいいのか? 私はそれがいい状態だと思う。ビギナーの人に『こういうところを読者は読みたいですよね。そこが抜けてます』と言うのは、デビューの手前まで行っている人からすると『分かってるよ』かもしれないけれど、分かっていても頭から抜けたりするかもしれない。再確認してもらえたらいいと思う。
それと、はっきり言って小説って読むだけでうまくなります。何をどう読んでるかでもう差がついている。他の人の作品を読んでいるからこそ、うまくなると確信しています。これは一人でやっていたんじゃできないので、小説教室に通うことにも意味はあると思う」
「ただし」と前置きして有栖川さんは続けた。
「昔の文学サークルとか同人サークルみたいに厳しいことを言って傷つけ合うのは駄目だと思う。小説書く人はみんなヘタレなんで、貶されたらもうやめるってなってしまう。きついこと言われたら私だって書く気なくしますよ」
人気作家の本音に思わず笑ってしまったけれど、それはそうですよね。みんな貶されるより褒められたいに決まっている。
作家志望の方とお話しすると小説教室で全然納得の行かない方向の修正を提案されたり、酷評されたりした経験を聞くことがある。有栖川さんの仰る通りで、貶すよりも良いところを伸ばしていく形が理想的だと思う。それと、誰かにとって良い場所でも、そこが自分に合う場とは限らないので、しっくり来るところを探すのも大事なのかもしれない。
✴︎
そして続いて『トリ説』から紹介したのは、「新人賞の最終選考で落ちた作品を手直しして他の賞に送ってはいけないのでしょうか?」という質問。「あまりよくないと聞くのですが、その理由が分からずモヤモヤしてます」という相談だった。
吉川さんは「ちょいちょいtwitter(現X)とかで論争になってますよね。私は落選しても別に他の賞に出してもいいんじゃないかと思う。やめておいた方がいいという理由がよく分からないので、『トリ説』では推測で答えてますけど。ただ、それを送ると同時に新しい作品もじゃんじゃん書けばいいのではないでしょうか」というお答えだった。
有栖川さんははっきりと「送っても構わないと思います」と答えられた。
「シャーロック・ホームズだってハリー・ポッターだって何回もボツをくらっている。最初に読んだ人は相性が悪かったけれど、相性が合う人に巡り会えたら本が出て世界中でヒットした。小説書くってすごい手間かかってるじゃないですか。おんなじもので10回も20回もチャレンジしてたら流石に止めるけれど、2社、3社ならむしろやるべきだと思ってます」
との熱いメッセージ。吉川さんも、
「私の送ってた賞は枚数が短かったからじゃんじゃん書けばと思ってたけど、確かに300枚とか400枚の作品を一次で落とされて他に送っちゃいけないとされるとキツいですね!」
と頷いた。
「私は結局新人賞をもらっていないので、どうやったら賞をとれるの?と思う人たちの気持ちが分かる。賞の選考は何十回もやっているけれど、たまに妙な気分になることがあります。かつての自分は最終選考に残ったこともない。だから、ものすごく大切なことを任されていると思ってます」
そう語る有栖川さん。
こんなに真摯に応募作に向き合ってもらえたら素敵だなとしみじみ感じた。(ちなみに有栖川さんは「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」の選考委員をされています。※2024年1月現在)
有栖川さんは経験談として、新人賞によっては他社の賞に落ちた作品の応募をNGとする場合もあるということを共有して下さったので、まずは募集要項をチェックですね!
まだまだ盛り沢山のトークだったのだが、全然まとめきれない……。音声を書き起こそうとする度に私まで毎回聴き入ってしまうからかもしれない……。
ここまでお二人の普段の雰囲気が伝わるトークも珍しいと思うし、小説を書かれる方のご参考になる貴重なアドバイスが満載なので、ぜひ実際の音声をお聴きいただけたら嬉しい。まだまだアーカイブを公開中です。
当日のスペースの音声は下記からお聴きいただけます。
『小説家のトリ説 初級編』刊行記念スペース・アリスとトリコの小説講座・ゲスト有栖川有栖さん
『小説家のトリ説 初級編』の詳細はこちら。