小説A 003話

2年2組教室に入ると,宣言通り電子黒板がばっちり準備されていた。

僕はiPadを取り出し,ケーブルを差し込む。

すぐに電子黒板に僕のiPadの画面が映し出される。

どこかの国で教師がダウンロードしていたアダルト動画が授業中に流れてしまったというニュースを見たことがある。

だから,授業中に使用するiPadには余計な画像や動画を入れないようにしている。

そんなこんなでチャイムと同時に授業が始まる。

「Hello, everyone.」

「Hello, Mr. 〇〇〇〇.」

現代の英語の授業は全てを英語で行う。

高校に入学した当初は「無理無理,絶対無理」を連発していた生徒たちも,今となっては楽しそうに英語を使っている。

これまでの日本の英語教育は明らかに間違えていた。

言語というものは,本来使いながら学んでいくものだ。

間違えたら,その都度学ぶチャンスがある。

しかし,日本の英語教育では恐ろしいほど正確さを重視してきたことで,正しい英語表現を使えるようになるまで自由に使ってはいけないかのような雰囲気を作り上げていた。

そもそも,途中で「〇〇さん,そのplayはsを付けてplaysにするのが正しい」と指摘してくる奴との会話など,こちらからノーセンキューだ。

授業の最初は,簡単に英語でやり取りをする。

「What did you do yesterday?」

今日は週初めの月曜日。

つまり,日曜日に何をしたのかと尋ねてみる。

何人かが挙手して視線を交わす。

僕の授業では,挙手,指名,発言という流れを取り払い,挙手した生徒たち自身でどのように発言するかを決められるようにしている。

目配せの中で,最初の発言者が決まる。

生徒B男だ。

「I went to my friend's house. We first played a game.」

「You went to your friend's house and played a game with … him? her?」

houseという英単語を耳にして,先程1組で話していた生徒の顔が頭に浮かぶ。

周りの生徒がニヤニヤする中,彼はハッとして「him!」と言い切った。

ガールフレンドとの自宅デートを期待していたクラスメイトたちは残念という顔をした。

その雰囲気の中に「Any questions?」を放り込んでみた。

生徒B女がすぐに質問した。

「What game did you play?」

「We played …… あれ,なんだっけ?」

教室内が笑いで溢れた。

英語の授業はいつもこのような感じで,楽しく明るく行われている。

高校に入ってくるまでは,文法を延々と説明され,英単語を覚えさせられ,英語を日本語に訳すだけの授業を受けてきた生徒たち。

彼らにとって,僕の英語の授業は全くの別物なのだろう。

僕は僕で,生徒たちの英語力が着実に伸びていることを良いタイミングで実感させる等の工夫を欠かさない。

こう見えて,生徒の英語学習に対するモチベーションを高める授業を展開するのは非常に得意だ。

さて,次の生徒C男が発言するようだ。

「I went to a bookstore in 〇〇.」

僕はハッとした。

彼が行った書店は,昨日僕も行った書店だった。

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