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口紅が売れない時代のバズリップ「KATE リップモンスター」から考える「バズる」ことよりも大切なこと~美容×SNSマーケティングコラム~

こんにちは。MimiTV編集部です。久しぶりのnote更新ですが、今回は今コスメ好きの間で最も話題になっているアイテムの1つ「KATE リップモンスター」のヒットについて解説していきます。

まず、最近MimiTVを知っていただいた方のために簡単にメディアの自己紹介をします。2015年にYouTubeからスタートした美容メディアで、スタートから3年間ほどはいわゆる「分散型動画メディア」という形で運営をしていました。2019年頃より生活者の情報収集トレンドの変化等を鑑みて、「SNS最適化(従来の分散型メディアのように、1つのコンテンツを複数のプラットフォームで配信するのではなく、Twitter・Instagram・YouTube等のそれぞれのソーシャルメディアやプラットフォームにおいてエンゲージメントを得やすいコンテンツを制作・配信すること)」に運営方針を切り替え、現在に至るまでフォロワー数もコンテンツに対するエンゲージメントも成長を続けることが出来ています。

またMimiTVの人員は、メディア事業に従事するにあたって「化粧品・消費財のマーケター視点を持つこと」が重要だと考えているので、コンテンツ制作やメディアタイアップの営業活動だけでなく、マーケティングメソッドの開発やその発信にもかなり力を入れています。このnoteでも過去に「SNSでのバズが起点となってヒットにつながったコスメ(=バズコスメ)」についてそのヒット要因を解説しているのと、定期的にウェビナーを開催して実際に口頭やプレゼン資料を用いて話してくれるような機会もあるので、興味があればぜひご注目していただけたらと思います。

さて、本題に入っていきたいと思います。

2021年最大のバズコスメ? 「KATE リップモンスター」

・ヒット起点はMimiTV

KATE リップモンスターは今年2021年5月1日にカネボウ化粧品から発売されたリップです。「ティントじゃないのに色落ちしにくい」とSNSで話題となり、コロナ禍になって最も売れなくなった商品の1つである口紅というカテゴリーにおいて、SNSを起点に久しぶりに欠品が続くほどの大ヒットとなりました。

これはドヤ顔をしたいのですが、SNSで一番最初にリップモンスターを取り上げ、バズの起点を作ったのがMimiTVです。編集部にプレスリリースが届いた際、コンテンツ制作メンバーが「トレンドを抑えた色味」と「色持ちの良さ」でまさにコロナ禍でのメイクにぴったりなアイテムだと惚れ込み、ユーザーの皆さんにリップモンスターの魅力を最大限伝えるための情報公開戦略を立て、「Twitter→YouTube→Instagram」の順番でコンテンツを公開していきました。

・Twitterはティザー、YouTubeで全貌公開、Instagramでダイジェスト

Twitterはリツイート機能があるため拡散性に優れており、一次情報やティザー的に情報を小出しにしていくことに優れています。なのでまず、最初に情報を出すプラットフォームとしてTwitterを選択しました。

発売1週間前にMimiTVのTwitterにて05のダークフィグというカラーを紹介。

全色ではなく1色のみを取り上げることにもこだわりました。近年、生活者はカラーメイクアップについて「今っぽいかどうか」「自分に似合うかどうか」を重視している傾向にあり、まだ評判が形成されていないアイテムは、カラーバリエーションが揃っていることよりも、トレンドやパーソナルカラー軸での訴求が有効な場面を多く見てきました。ここ半年はブラウンやベージュといった落ち着いた色味に注目が集まっていたので、最も注目度が集まりそうなカラーとして05をピックアップしています。

この投稿は6000いいねを超えるバズツイートになりました。(MimiTVのTwitter投稿は平均が1000いいね)

他のカラーも見たい!という要望がユーザーから上がったため、別の色も紹介。こちらも平均以上のエンゲージメントを記録しています。

あえてアイテムの全貌ではなく一部をティザー的に出していくことによって、「他の色も気になる」「本当に落ちないのだろうか」「全色をスウォッチで比較したコンテンツも見てみたい」というユーザーからの期待感を醸成することを狙いました。

Twitterでのティザー作戦が効いたタイミングでYouTubeでの全色スウォッチ動画を公開しました。YouTubeは言うまでもなく動画プラットフォームで、静止画やテキストを遥かに上回る情報量を伝えることが出来ます。MimiTVはYouTubeチャンネルはコスメの色味や質感を正確に伝えることを目指し、撮影方法や編集にかなりこだわって動画を制作・配信しており、特にリップモンスターの動画はアイテムの特徴を細かく伝えられるように照明の当て方や編集方法も変えたり、店頭には並ばないWEB限定色も取り上げるなど、とにかく情報量を詰め込みました。

コロナ禍でなくても不特定多数の人が触れる口紅のテスターを実際に唇に乗せることに抵抗がある人は多いので、発色や質感を正確に伝えられるコンテンツは需要が高いです。加えてTwitterで期待感の醸成に成功していたこともあり、MimiTVのYouTubeチャンネルは平均再生数が5万回ほどですが、リップモンスターの動画は40万回再生を突破することが出来ています。

InstagramはTwitterと比べると「拡散性」には欠けますが、「画像の画面占有率が高くビジュアル訴求に優れていること」、「1つのフィード投稿に10枚まで画像を投稿することが出来ること」「保存機能を活用し情報のストックツールとして用いるユーザーも多いこと」に注目をし、MimiTVのInstagramではTwitterとYouTubeで取り上げた情報をダイジェスト的にまとめるような投稿を行っています。リップモンスターにおいても、1枚目の最もユーザーから見られやすい画像はTwitter同様にトレンドを抑えたイチオシカラーを持ってきて、スワイプをしていくと詳しい質感や色味を静止画で見ることが出来るようなコンテンツになっています。

こちらもMimiTV Instagramコンテンツの平均いいね数は1000程度ですが、4000いいねと大きく上回るエンゲージメントを獲得することが出来ました。

発売前に美容関心層からの注目を集めることに成功した結果、発売後すぐにインフルエンサーの自主的なレビュー投稿が相次ぎ、そのフォロワーも投稿を見てリップモンスターを買ってクチコミを投稿し、店頭でもオンラインでも欠品が続くほどの大きな評判が生まれました。

「KATE リップモンスター」から考える「バズる」ことよりも大切なこと

・評判の起点や拡散のきっかけとなるSNSの「バズ」

SNSが生活者にとって重要な情報収集源であることはもはや常識ですが、近年においては企業やペイドのインフルエンサーの情報発信だけでなく、「リアルなクチコミ」によって「評判」が形成される場となっています。長らくコンテンツメディアの王者として君臨しつづけているテレビや雑誌といったマスメディアでさえ、視聴者や読者にSNSで拡散されることを鑑みてコンテンツ設計をしていることもあります。

前述したとおりMimiTVは、定期的に「SNSでのバズが起点となってヒットにつながったコスメ」について、そのヒット要因を分析してきましたが、化粧品が生活者から広く認知を得るまでに大きく分けて「評判形成」「拡散」「評判定着」の3つのフェーズがあると考えています。

評判定着プロセス

情報感度の高い人を起点に形成された評判が拡散され、大衆に定着する過程においてSNSのクチコミやバズは非常に有効なのは、過去にSNSを起点に人気コスメとなった事例を見ても明らかです。

・でも「バズっただけ」では売れる時代は終わった

MimiTVのプランナーも日常的にクライアントやウェビナーの参加者から「バズったら売れるのでとにかくバズらせたいです」「どうやったらバズりますか?」というご相談をいただきます。

「バズコスメ」という言葉を掲げていはいますが、MimiTVの回答は一貫しています。残念ながらバズに再現性はなく、バズったからと言って必ず売れるわけではありません

3~5年前までは、まだまだSNS上で美容情報のクチコミが少なかったこともあり、有名美容インフルエンサーに紹介されたり、「バズ構文(※)」で紹介されたアイテムが突然売れるようになるといったこともありましたが、近年は単発のバズではキャズム(認知の溝)を超えることが出来ずに評判形成に繋がりづらくなっています。美容YouTuber・ビュースタグラマー・Twitter美容垢などの発信者が日に日に増え、美容に関する情報が溢れかえっているので、特定のメディアやプラットフォームにだけに露出をしていても、評判が形成され立ち上がっていくことはなく、忘れ去られてしまいがちです。

キャズム掲載

※バズ構文…主にTwitterでコスメなどのアイテムを紹介する際に使用されるテンプレート文のようなもの。詳細にアイテム特徴を語るというよりは、ツイート主がエモーショナルに熱く語るような口調や語彙のものが多い

リップモンスターは「欠品して入手困難である」ことも手伝ってキャズムを超え広く評判を獲得することになりましたが、ここまで大きな話題化に成功することも稀ですし、欠品が起きることは顧客体験的にも流通的にも本来望ましいことではありません。

「同じようなバズを起こす」こと自体は難しいですがリップモンスターの事例には、化粧品のマーケティングのおいて、認知の溝を超え評判を形成するために、バズを起こすよりも本質的に重要なポイントを見出すことが出来ます。それは「情報の出し先とタイミング」の設計です。

・評判形成のために「バズ」よりも大切なこと

前述のMimiTVがバズの起点となったリップモンスターの事例はにおいて発売前後に大きな話題を作ることが出来た最大の要因は、プラットフォームでの公開のタイミングとその内容を戦略的に設計したことだと考えています。露出先を限定せず、「Twitterでティザー、YouTubeで全貌公開、Instagramでダイジェスト」と、各プラットフォームの特性に合わせてコンテンツを最適化しながら情報発信を行ったことにより、それぞれが良いシナジーとなり、「KATEから新商品が出る」ではなく、「KATEから出る新しいリップは、マスクでも落ちづらくて色もトレンドを抑えている」という厚みのある情報へと進化し、発売後すぐにUGCが大量発生する立体的な話題化に成功しました。

・キーワードは「網羅性」と「継続性」

網羅性

CM・雑誌・SNS・クチコミサイトなど、情報収集源が多様化している現代だからこそ、再現性がなく、必ずしも売れるとは限らない「バズ」に期待をするのではなく、メディアやプラットフォーム、露出時期を限定せず「網羅性と継続性」を意識してメディアコンテンツやSNS上のクチコミだけではなく、広告を組み合わせるようなプロモーションを設計することによって、売りに評判形成を目指すことが重要です。

まとめ

①2021年最大のバズコスメになりそうなKATEリップモンスターのヒットは「コンテンツのSNS最適化と公開タイミング」を戦略的に設計したMimiTVが起点となった
バズに再現性はなく、売りに繋がるとも限らない
③評判形成においては、広告とPRを組み合わせ、露出先を限定しない「継続性と網羅性」を意識したプロモーション設計が重要


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