小指

あなたがロボットやアンドロイドの類でない限り、体の不調を経験したことは一度や二度では済まないと思う。

では「こういう時に決まってこうなる」という不調の出方は経験したことはあるだろうか。
例えば「目が疲れると肩凝りする」などはよく聞く話だが、「アルコールを摂り過ぎると下痢になる」とか、「運動し過ぎると頭痛がする」というような、あまりマジョリティとは言えない、因果関係もはっきりしないような「マイ体の決まり事」がある人も少なからずいると思う。

それが俺の場合、
「ストレスが溜まると右手小指に水疱ができる」なのである。

きっかけは5年ほど前に遡る。
おでこ全体に原因不明のニキビのような赤い疱疹がたくさん出た。
最初はニキビの亜種、ぐらいに思っていたが、横の疱疹と繋がって帯のような痛ましいビッグ疱疹になるわ、化膿した後前髪を巻き込んでかさぶた作ろうとはするわ、でどうしようもなくなり皮膚科に行くことにした。

しかし、この疱疹の原因がいつまで経っても分からない。
ニキビではないことはすぐに分かったのだが、内科系の診察をしても異常なし、血液検査も問題なし。
セカンドオピニオンで行った病院でも分からずじまいだった。

最終的に総合病院に行き、アレルギー検査をしてみたものの、特に自覚していた以上のアレルギーを持っている訳ではなかった。
(重度の花粉症持ちだと思っていたのに実は違ったことだけが判明した)

結局その症状とは数ヶ月の間付き合うことになってしまったのだが、何段階か塗り薬を強くしていき、最終的にステロイド入りの薬に頼ることによってそれは終焉を迎えた。

これで終わればちゃんちゃん、といったところなのだが、数ヶ月後今度は小指に水疱ができたのである。

実はおでこに赤い疱疹が出ていた時も、おでこだけではなく体のいくつかの部位に皮膚の異常が出ていた。
「いくつか」と濁したのは、「全体的に満遍なく」ではなく、出るところと出ないところがはっきりしていたのだ。
今となってはどこにどんな症状が出ていたか詳細に思い出すことはできないのだが、「小指に水疱」は確かに出現していたことは記憶している。

そこから、今日にまで続く小指の水疱との長い戦いが始まったわけである。

まずひたすらに痒い。
そして一つだけならつゆ知らず狭い小指の中に三つも四つも水疱が出来る。
さらに知らない間に水疱は破れ、水が出て皮膚の中が剥き出しになる。
こうなると「痒い」が「痛い」にグレードアップし、いろんなものに当たって地獄を見る。
意外と右手の小指って使ってるんだなと否応なしに知らしめられることになる。

そんな症状が治っては出て、治っては出てを繰り返し、おおよそ5年に及ぶ付き合いを経て、自分に出ているそれは「汗疱」、そしてそれが破れたものは「汗疱状湿疹」と呼ぶものであることがわかった。
(ネットの情報で診断するのはあまりよろしくないのだが、あまりにも症状が合致しすぎる)

メカニズムとしては、
「皮膚に汗が溜まることで汗腺の穴を塞ぎ、分泌できなくなった汗が炎症を起こし水疱になり、そしてそれが破れて湿疹になる。ほっといても二、三週間で治る」
ということらしい。

厄介なのは「なぜ出来るか詳細は不明」ということである。
ネット記事によると主に三つの原因が考えられているとのことで、一つめは多汗症説、二つめはアレルギー説だ。ただ、そこまで汗はかかないし、アレルギーも前述の通りである。

となると、浮かび上がってきた最後の説が「自律神経不調、ストレス説」である。

確かにずっと水疱が出ている訳ではなく、自分のプランが上手くいかなかった時や、仕事が立て込んできた時、睡眠がうまく取れなかった時など、決まって右手小指が疼き出し、痒みを感じていた。
そして気がつくといつの間にかぷっくりと水疱ができているのだ。

ストレスのせいで、体に痒みや痛みを伴うってさらにストレスを増やしてどうする自分の体よ。
そう思うと悲しいようなもどかしいような、どうしようもない気持ちになってやるせなくなってくる。

そして問題は、その症状のマイノリティさである。
ネットの記事に出てくるぐらいなので、もちろん自分だけがなっているわけではないことは事実なのだが、あまりにも周囲で聞いたことがない。

あとビジュアル面の問題もある。
おでこに疱疹ができていた時は、その痛々しい見た目からかなり周りから心配された。
半休を取って病院に行く時も「全休じゃなくて大丈夫!?」「また診断結果教えて!!」と、様々な方から言葉の親心を承った。

しかし、小指。
右半身の端っこにだけ現れるその症状は、あまりにも訴求性が弱い。

まず辛さが伝わりにくいし、自分の中では理解していても「ストレスによって出来る」というのは他者からするとめちゃくちゃに信憑性が薄い。しまいには「なんで右手小指だけなんだよ」と言われる始末。
まあその点に関しては自分でもそう思う。なんで右手小指だけなんだよ。

今も人知れずストレスを抱えては右手小指に痒みと痛みを覚えながらも、それで休む訳にもいかず必死に耐えて生きている男がこの日本にいる。

この記事を読んだあなただけは、その事実を知った責任として、汗疱状湿疹患者に優しく接する心を持ってもらえないだろうか。

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