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【レポ】舞台 キングダム「どっちの信・嬴政がいいの?」「史実だとどうなの?」

ここ最近は舞台版のキングダムに何度か行ってきていますが、だんだんもう公演ツアーも終わりになりかけているところで、ようやくレポをしていきたいと思います。


はじめに:キングダムとこのレポの概要

キングダムとは週刊ヤングジャンプで連載されている原泰久先生による下僕出身の少年信の成り上がりチャイナドリームと、始皇帝・嬴政の中華統一を描く青年漫画の皮をかぶった少年漫画です。
※青年漫画のくせに基本が友情、努力、勝利で出来ています

キングダムは何度かアニメ化・映画化もされていて、こちらも馴染みがある方も多いでしょう。

キングダムで特筆すべきポイントとしては、かなりの頻度で有能だが暴君として描かれる(項羽と劉邦の物語が人気があるせいで)ことの多い始皇帝を、英達な名君として描いていることです。ほかにも司馬遷による「史記」の内容を広く解釈して大河ドラマとして補完していることも大きな特徴だと言えます。
ちなみに始皇帝は本国中国の大河ドラマでも大半は邪知暴虐なイメージで描かれることも多いです。近年は結構いいやつ化してはいますが…。

この度キングダムは舞台にもなり、帝国劇場や梅田芸術劇場で公演が行われることとなりました。
舞台では、一番最初の嬴政の弟である成蟜の乱のストーリーを描いています(映画版の1作目と同じですね)。

このレポでは
・史実の観点からみたときの感想や知っておくと面白い史実の紹介
・どっちの信・嬴政がいいのか
をメインに見ていきたいと思います。

1.始皇帝(嬴政)が作った中華皇帝という文化

キングダムのもう一人の主人公、嬴政は皆さんご存知の通り、秦の始皇帝です。歴史の教科書でよく出てくるアレ。
嬴政が秦の皇帝(秦始皇)となってから、清王朝の愛新覚羅溥儀(宣統帝)に至るまで中華皇帝はおよそ550名存在し、2200年近くもその文化と制度が存在していました。ちなみに溥儀が亡くなったのは1960年代のことですからつい60年前まで中華皇帝が生きていた…ということになります。すごい世界ですよね。
また、嬴政の存在はなぜか、皇帝という制度が廃止された中華人民共和国にて、毛沢東による政治闘争・文化大革命においても焚書坑儒になぞらえた批林批孔運動(という名の政敵批判)の場でも重要なキーワードとして登場します。そんなことある??

中華皇帝を語るだけで卒論が完成してしまいますので省略しますが、嬴政の中華統一によっていままで国ごとで違った貨幣・言語・単位等が統一され、今まで主流だった封建制から郡県制へと変わり、中国の文化そのものを変え、現代に至る中華文明の基礎を築いていくことになります。
統一王朝の皇帝となれば栄華を極める者も少なくなく、漢の武帝、唐の太宗、明の永楽帝、清の康熙帝・雍正帝・乾隆帝はその代表です。

2.春秋戦国時代って結構自由な時代

キングダムの主人公は信です。信は戦災によって孤児となり下僕の身分となった少年です。その信が天下の大将軍となることが目標だと言うわけですが、そんなこと出来るわけがないと昌文君と壁に言われます。

ただ、春秋戦国時代は外国人(秦から見たら楚や趙などの他の戦国七雄出身の者)の登用やスカウトに積極的で、特に秦は外国人人材の登用に積極的な国のため、外国人には特に寛容だとされています。また、再雇用などにも寛容です。
例えば、舞台キングダムにも出てくる昌文君は楚の王族ですし、呂不韋も韓か衛の出身だと言われています。

ただ、やはり横の身分(外国人か否か)には寛容ではあるものの縦の身分(貴族・士族・庶民・下僕など)は早々変えられないものだったそうです。

とはいえ、秦はセリフに出てくる穆公の影響もあってかなり外国人や身分には寛容な実力主義の国だったようです。
穆公は西戎の覇者(穆公は春秋五覇の一人です)とも呼ばれ、西戎(チベット・テュルク系西方異民族)の支配・運営、西戎の人材や軍隊を採用する等のことをやっています。
また、穆公は仕えた国が滅んでしまい、下僕の身分に落ちてしまった賢人、百里奚を宰相にしたりしています。信の目指す天下の大将軍とは反対に文官の最高位ですね。

そんなこんなで人材登用には自由な感性を持ち実力主義的な文化の中、信は立身出世を目指していくわけです。

3.舞台のセリフやキーワードから見る史実の世界

キングダムでアクションがすごいとか、信や嬴政がかっこいいとかほかの方が嫌っちゅうほど申し上げているし、私もそれ以外の語彙がひりだせないので、ここでは舞台だけ見ているとわけわからないような言葉を解説したいと思います。軽く。

①成蟜「王族の母を持つ俺に対して、アイツの母は舞子だというではないか!!」

まさしくその通りで、嬴政の母(キングダムでは太后と呼ばれています)は、趙の国で踊り子(豪族の娘とも言われています)をしていたといわれ、政の父の異人(荘襄王)に見初められて、当時交際していた呂不韋が今後のことを考えて彼女を差し出し、荘襄王と結ばれ、嬴政を生みます(嫌々だけど)
とはいえ、成蟜の母も史実でははっきりと王族とは分かっていなく韓の国出身の女性ということしかわかりません。

②嬴政「呂不韋は俺の庇護者となってその後ろ盾となった…」

呂不韋が政の庇護者になったというには、その話は「奇貨居くべし」という故事成語からさかのぼる必要があり、その話は政の父である荘襄王がまだ趙で人質生活をしている王子時代にさかのぼることになります。
荘襄王をここで面倒を見ておけば後々大きなリターンが得られるだろうと考えた呂不韋は、彼のスポンサーとなることを決心します。それからも、嬴政の祖父にあたる孝文王の寵姫に取り入って異人を養子にしてもらい王位継承者として立ててもらう等の工作を行います。そんなこんなあって呂不韋は政の父の後ろ盾となり、彼が崩御してからは幼い嬴政の後ろ盾にもなった…という経緯です(大分端折っています)
というか、紫夏とのストーリーも含めすべて「奇貨居くべし」の故事成語と元ネタの呂不韋を調べると非常に話がクリアに見えてきます。

③嬴政「穆公はまれにみる名君だった」

先ほどちょこっと名前を出しましたが、秦の王であった穆公は春秋五覇にも数えられるほどの覇王でもあります。

西戎と呼ばれるチベット系の異民族から外国出身の奴隷まで多くの人材を登用し、有能なブレーンたちに支えられて晋の国を巧みに操る外交政策や対外政策を断行し、秦を辺境の国から西方の大国まで押し上げた君主でもあります。


また、臣下にも大変慕われて、そのせいで穆公が崩御した際には当時の風習とは言えども170名以上の家臣たちが殉死したそうです(そのせいで秦には暗黒時代がやってきます)

④紫夏「全速力で国境を抜ける!趙の騎馬隊は早いぞ!」

趙の騎馬隊が早いのはなんで?となるわけですが、趙の国は国境の北側を北狄という遊牧民族と接していて長城を築いては時々紛争を起こしていました。

燕と秦の間にあるのが趙です。

この時代の北狄と言えば匈奴(モンゴル系の騎馬民族)となりますが、騎馬隊を利用した機動力・作戦はとてもではありませんが、中国の内地の民が敵うものではありません。なんせ中国人は昔から北方騎馬民族に弱いです、冒頓単于と劉邦、金王朝、元王朝、清王朝をみれば火を見るより明らかです。
このような屈強な遊牧民族と日夜抗争を繰り広げている趙の騎馬隊は韓、魏、楚などに比べればかなり訓練されている方であることは想像に難くはありません。

4.史実から見た感想

舞台そのものではなく、キングダムそのものの感想となってしまいますが、この舞台を見るたびに、特に山の民に自分の目指す天下像を語る嬴政を見ると、嬴政の目指した中華統一の世界は15年の天下なんだよなぁとちょっと切なくなってしまいます。嬴政が亡き後はボンクラ息子胡亥と宦官の趙高が天下をひっかきまわし、陳勝・呉広の乱、項羽と劉邦の叛乱が起きて天下は乱れに乱れ戦乱の世になるわけですから。そして都の咸陽は漢の時代には少し南にある長安になり、そこが唐の時代まで歴代中華王朝の古都となってしまいます。

穆公のことを調べていると、舞台版で山の民と盟約を結ぶ嬴政や下僕の信と親しげに話す嬴政は、穆公がモデルなのではとも思えてくるほどです。山の民は秦の国の外にある西方の山々にある…ということで、地理的には今の中華人民共和国チベット自治区に非常に近いのではと思います。
そのため、彼らは西戎と呼ばれる異民族ではないかとも思い、穆公の西戎の覇者ともリンクしてくるなとも感じます。
信については百里奚の話を思い起こします。百里奚は仕えた国が滅んで下僕となったため、戦災孤児の信と似ているなとも思います。

舞台や原作本編では、天下統一後の嬴政が描かれていないため、まだ英達で徳のある王に見えますが、焚書坑儒とかやるんだよなとも思ったり…。舞台でも汚い部分の嬴政をいつか見たいですね。

5.信と嬴政はどっちがいいの?

ここにきてやっと舞台のレポらしいレポに入ります。舞台版のキングダムでは、ロングランかつアクションもハードなためかダブルキャスト制度になっています。

主人公の信、嬴政(漂)の他、河了貂、楊端和、成蟜、壁、紫夏がダブルキャストで、一つの役につき二人の役者さんが昼公演・夜公演、日ごとに交互で演じています。
信と嬴政以外はどの方を見ても結構お勧めなのと、多分そこまで語る脳みその体力がないので省略します。

信(李信)

戦災孤児の下僕の少年、信は、直情的で純粋な野生児です。荒々しいというかおバカというか可愛くて憎めない感じのザ少年漫画の主人公です。
信は史実(かなり話が進むと原作でも)では、李信と呼ばれている人物です。
史実の信はかなり嬴政に気に入られていたようで、秦の統一戦争の時に楚を攻めたときに20万の大軍を率いるのですが、ボロボロのメタメタにやられても嬴政から何かお咎めがあったという形跡がないのです。実は子孫の李広こそが天下の大将軍(クラスの地位)になっていたり、別の子孫が前漢の丞相になっていたり、一説には唐王朝の創始者の李靖も子孫だとか、まあなんかすごい。

・三浦宏規くん
お顔がめっちゃかわいらしい信です。前方席で見ると結構ガタイがいいんですけど、顔がかわいい(笑)

彼の演じる信は、アニメや原作と異なり緊張感があってほんのり賢そうです。賢いといっても高校の偏差値だったら50は切りますけど、寺子屋みたいな場所で毎日10時間以上勉学に励めば下級役人くらいにはなれそうですね。
アクションも結構踊るような感じで、キングダムのキャラで言うなら羌瘣ちゃんみたいな感じ(伝わってほしいです)。
みう信の見どころは、漂が昌文君に宮仕えのスカウト(という名の影武者スカウト)を受けているところを家の外から覗いているときの表情がコロコロ変わるところです。一喜一憂しているのがなんとも面白いです。双眼鏡があったら是非見てください!
あまりテレビや配信系では見ない舞台メインの子なので、舞台的なオーバーでクサいお芝居をするなと思います。
舞台は映像みたいに顔のズームアップやフェードアウトが自在に出来ないですから、ちょっとクサい芝居の方が大正解だと思います。
その点では、「舞台の信」という感じで、舞台好き向けかなと感じます。
アニメや原作の信を求めると少し違う気がしますが、舞台のお芝居が好きな人にはお勧めしたいなと思います。

・高野洸くん
シュッとしたアジアンな感じなせいか、彼の方が信としてのビジュアルは近いのかなと思います。飛信隊で千人将をしてそうなビジュアルです。

アクションは結構荒々しい感じで、信としてはグッドだと思います。
この子の信を見た時には、「そこに信がいる」と思いました。アニメや原作のイメージと非常に近しく、声もアニメの信に近いのでそう感じるのかなと思っています。
また、彼の演じる信は、三浦くんの信と異なり、原作通りに緊張感がなく「こいつは見たまんまのバカですよ・・・」とちゃんと言われそうでいいですね。ちゃんとジャンプの主人公という感じが出ていて楽観的な信かなと思います。
アニメを見てから彼の信を見ることをお勧めします。アニメ版のキングダムが好きなので、めちゃくちゃそのままの信で感動しました。
アニメや原作が好きな人向けの信かなと思います。したがって、舞台を普段見ない人にもおすすめしたいなと思います。

信はどっちがいい?
→アニメの信に近い高野洸くんの信です!

嬴政・漂

散々語りましたが、嬴政は始皇帝です。漂は嬴政にそっくりな信の親友で下僕仲間の少年です。漂が影武者としてスカウトされ、成蟜の仕向けた刺客に殺されたことをきっかけにして嬴政は信と出会います。
嬴政の史実は呂不韋との権力争いが前半のメイン、後半は秦の統一戦争です。キングダムでは、有能だが暴君である従来のイメージを塗り替えるように英達な若き君主として描かれています。
舞台もそうですが、アニメや原作の嬴政からはとても史実の冷徹なイメージは想像はつきません。
ちなみに嬴って姓は今の中国ではめっちゃ珍しい苗字らしい。日本で言う勅使河原さんみたいなものか?

・小関裕太くん
「来世ではちゃんとします」とかのイメージしかなかったので、こんなクールな役をやるんだととびっくりしました。

小関くんは、漂の明るくて賢い優しい兄ちゃんの演技と嬴政の冷静沈着な賢い王の演じ分けが非常に巧みで、演じているときの目が漂と嬴政の時とは異なります。
ビジュアルも演技の雰囲気もアニメの嬴政に近いか、と言われるとそうではないのですが、中国の大河ドラマに出てくる史実の嬴政という感じがします。キングダムだと呂不韋との権力闘争と秦の統一戦争を行う嬴政に近いと思います。
とはいえ、史実通りに太后の不倫でできた二人の子供をあっさり処刑しそうですし、呂不韋のことを普通に蜀の地に流罪にしそうなのがいいですね。史実通りの汚い部分もちょっとイメージが湧きます。
とにもかくにも演技は信・嬴政のキャストの4人の中で一番演技が上手いです。
ちなみに、演劇を学んでいた友人も絶賛していました。
原作やアニメが好きだとちょっと違うかなと思うかもしれませんが、そこを演技でカバーしていると思います。

・牧島輝くん
ビジュアルはアニメの嬴政に近く、声もアニメに近い?かなと思います。声はゴン太なのになんかとてつもなく爽やかな感じがして、原作通りに民草を思い、天下統一後の理想を描く英達な王そのものです。
なんというか、ピンポイントすぎてアレかもしれませんが、合従軍に攻め込まれた蕞の国を守りに親征し、民兵たちを鼓舞するあの嬴政って感じがして頼もしいですね。

どうやら牧島くん本人はキングダムも原作も好きみたいで、気合はめっちゃ入っているのが伝わってきます。
彼のお勧めのシーンは、ランカイの戦いで一時的に気を失った信に嬴政の幻影が励ましに来るシーンです。信との友情を感じさせてくれます。
漂と嬴政の演じ分け、演技というと小関くんに軍配は上がりますが、牧島くんの爽やかでパワフルな感じはキングダムの原作に近くて適役だなと思います。

・どっちの嬴政・漂がいいの?
→演技力のパワーで小関くんの嬴政・漂です!

おすすめのキャスティング

これらからまとめますと、私個人のおすすめの信・嬴政の組み合わせは、「高野くん・小関くんペア」です。
三浦くんも牧島くんも全然いいですし、組み合わせによって化学反応は異なりますので個人の好みになってくるかと思います。
ただ、この高野くんと小関くんの組み合わせは、アニメや原作が好き、普段舞台を見ないような層にとって一番見やすくて受け入れやすいのかなとは思います。

大阪で観てきました。お客さんも渋くて演劇見に来ました感が出てました。

実は2023年5月11の夜の札幌公演がキングダムの大千穐楽となるのですが、その時の信・嬴政のペアが高野くんと小関君となります。
また、この公演はストリーミングサービスで配信されるので見てみてはいかがでしょうか。


6.おわりに

このレポ書いているうちにキングダムの公演ももうラストスパートに入っています。
中国史が元々好きなのとアニメも好きなので見ていて楽しいです。
帝国劇場でやるのもなんだかいいですね。
キングダムの役者さんのファンの中には推しが帝国劇場に立っていて感無量になって泣いている人がいましたね。

やはり、舞台俳優の子たちにとっては帝国劇場に立つことは憧れで目標であるようです。
※小関くんは映像メインなせいかそこまで憧れっていう感じのオーラは出してなさそうです

私の隣の席に座っていた人が高野くんのファンだったようで最後のカーテンコールで号泣していたので、高野くんよかったですとだけお伝えしておきました(笑)
私はまあこのキャストの中のオタクですが、結構冷静に演目自体を楽しんでいました。薄情と思われるかもしれませんが、「おお。。。」ぐらいでした。

とりあえずかなりハードな演目なので無事に大千穐楽まで突っ走れますように。

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