君は、
君は、
* * *
まんまる、大きな黒い目。耳は他の人よりもおおきめで、シュッとしたフェイスライン。左右で白と黒に分かれた髭が、特徴的だった。
正面から見た君もとても美しく、可愛かったが
横から見た君が1番綺麗だと、思う。彼女の大きな瞳を何度も羨ましく思い、なんども母に問いかけた。
「な〜なんで○○ってこんなにおめめくりくりで可愛いんやと思う?」
「それはな、短い人生をうんと愛してもらえるようにやろ。」
間髪なくでたその答え。
そうか、そうなのかもしれない。その時の少しの納得は、今の深い頷きになった。
* * *
小学校4年生。たぶん
彼女を愛知県から家族へ迎え入れた、まだ4人家族だった時。覚えている、車の中でケージに入った小さな君。
お家に連れて帰る途中、わたしが誤って耳を挟んでしまって、「キャンッ」と小型犬のような高い鳴き声が響いたのを今でも覚えている。あの時はごめんね。
彼女は、すくすくと大きくなった。
1番懐いていたのは兄で、リビングの横の兄の部屋がもはや彼女の部屋だった。まあ、ずっと室内でケージなしに過ごしていたので実質全部屋彼女のものと言えそうだが。
彼女は、あの家で。
たくさんの時を一緒に過ごした。
わたしが人生で1番辛かった時、
母が辛かった時、歯を食いしばった時。
兄が、悔しかった時。
父が、出て行った時。
兄と父が家を出て、母とわたしと彼女で暮らした時。
わたしも家を出て、母と彼女の二人暮らしが始まった時。
長く、長く。時間を過ごした、もう13年になるんだな。わたしの人生の半分を、彼女は過ごしたんだな。
* * *
自分勝手で、甘えん坊で、気分屋で。
俗に言う、犬っぽいイメージとは少し違う、まるで人間のような犬だった。悪く言えば太々しいという感じ。
そんな君は、
歳をとって、おばあちゃんになった。顔の皺も増えた。
当たり前だ、13年だもの。
耳が遠くなって、鳴き声が大きくなった。
当たり前だ、自分の声も聞こえないんだろう。
足腰が弱って、外の景色を見る時間が減った。
当たり前だ、コーギーの君が立つこと自体、負担が大きいんだ。
それに加えて君はぽっちゃりだし。(まあ仕方ないよな、あんな生活だもの。ごめんね)
そう、そんな君は。
人間よりも、私たちよりも。7倍くらいの速度で歳をとって、老いていく。置いていく。
少しずつ段差が登れなくなって。
少しずつ起きている時間が短くなって。
少しずつ反応が薄くなって。
少しずつ、でも確実に。君は、歩をすすめている。歩みを止めることはできない、そんなことはわかっているんだけれど、やっぱり悲しいな。
まだ、わたしの頭の中にはあの日、もう今はない裏の空き地でぐるぐると走り回る君の姿が思い浮かぶ。さすが放牧犬、と思ったもんだ。
* * *
君は、
これから先も、年老いていく。できないことが増えて行って、眠る時間ばかりが増えて。
病院にも通うだろう、薬の量も増えるだろう。
それでも、君は。
あの日、初めて見た時からずっと変わらない。ただの可愛い、1匹のコーギー。
あの日、うちに来てくれてありがとう。
あれから、わたしを、母を。家族を支えてくれてありがとう。
今も、母を1人にしないでくれて、ありがとう。
君が目を瞑る、その瞬間まで。君を大切にするよ。うちに来てくれてありがとう、まだもう少し一緒にいてね。
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