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ことばのぬりえ

小さい頃、ぬりえはあまり好きじゃなかった。

なんていうか、下絵が決まっていると『発想力』に乏しい私は、ありきたりなもの、しかつくれない。


木なら緑と茶色、空なら青で、太陽は黄色。

この絵柄にはこの色だろう、って一般的に思われる色をのせていくだけ。

枠からはみ出さないようにまず輪郭の内側をなぞって、中をそれぞれに合った色で埋めていく。丁寧にすき間がないように塗る。

たまにうすく色を重ねてみたりする。冒険と言えばその程度。


器用だからそれなりに綺麗に塗れていて、出来上がりを褒められはする。

でも、つまらなかった。


これは芸術では、ない。

私が生み出したなにか、とはいえない。

誰にでもできる、ただの絵描きのまねごと、だから。

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こどもが生まれてしばらくして、いろんなことができるようになって、あれやこれやと一緒に遊ばされる(あえてこう言いたい)ことが増えて、私は気づいた。


ぬりえ、お人形さんごっこ、おままごと。


こどもが要求してくる遊びはみんな、まねごとなのだ。

大人のすることを見て、真似て、やってみて、いろんなことがだんだんできるようになる。


そうか、こどもというのは、身近な大人がすることを真似しながら、それを吸収して大きくなっていくものだ。

だとしたら、身近な大人がつまらない人間だったら、こどももつまらないひとになっていくだけじゃないか。

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ぬりえというのはたいてい、表紙に完成された絵がすでに描いてある。


「ママー、かつぶしまんって、なにいろのおようふくなの?」

「え?かつぶしまん??って、どんなだっけ?」


はっとした。

娘はすでに、見本がないと色を塗るのに戸惑うようになっている。

これじゃ、だめなんだ。


それから私は、ぬりえをわざとへんてこりんな色で塗るようになった。


かつぶしまんが、水玉の着物着てたっていいじゃないか。

空はむらさき、山はピンク、海はオレンジのしましま。


でたらめな色を塗っていると、めんどくさかっただけのぬりえが、どんどん面白くなった。


「えー!ママ、なんでアンパンマンのおかおがピンクなの?」

「ジャムおじさんがまちがえて、いちご味になっちゃったんだよー!」


何色だっていい。

線がないところに勝手に書き足したっていいし、はみ出したら無理やりズボンをスカートに塗り変えちゃってもいい。

そうやって好き勝手なぬりえのやり方を見つけたら、逆に元の絵があるからこそ活きてくるアイデアもたくさんあって、こどもとぬりえをするのが楽しくなった。


大きくなった今も、うちの子はぬりえが好きみたい。

たまに静かだな…と部屋を覗いてみると、『大人の塗り絵』というやつを延々と、ものすごい集中力で塗っていることがある。そうしてできたものを見せてもらうと、とても美しい色彩で細かく塗り込んであって、すぐに肩が凝って塗るのを諦めてしまう私には、とてもこんな風にはできないなと感心してしまう。

「ママ、ここ何色で塗ったら良いと思う?」と聞かれることは、もうない。

あの頃わざと変な色で塗ったぬりえは、『なんでもあなたの思ったとおりにやってもいいんだよ』ということを、ちゃんとこどもに伝えてくれたのかもしれない。

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昨日、ひとつの物語をここにあげた。

大好きな曲からイメージした、とあるふたりの物語。


音楽、というのは絵画にどことなく似ている。

ことばの選び方が独特でものすごくインパクトのある油絵みたいな曲もあれば、ふわっと優しい色合いの水彩画みたいな、聴く側の想像に任せて余韻を残すような曲まで、それはつくるひとによって様々だ。

もうどこにも入る余地のないようなそのひと丸ごとが出ている主張の強い曲や、完璧な世界観が出来上がっていてまるで一本の映画を観たように感じられる曲も、もちろんいい。外国語で何を言っているかはさっぱり分からないけど、メロディーがとても美しくてなぜか惹かれる曲というのも、なくはない。


けれど私は、もともとことばが好きな人間だ。

だから私にも分かるように日本語で唄われていて、歌詞がふわりと心に落ちてくるような曲が特に好きだ。

この曲いいな、と思って何度も聴く歌には、いつもメロディーに寄り添うように、心に響くことばが乗せられている。


下絵が描いてあって色は薄くついているけど、でも聴くひとが好きなようにさらに色をのせてもいいんだよ、と言われているような。


まるでぬりえみたいだと思った。


辛いことがあった時、やるせない気持ちに飲み込まれそうな時、私を掬ってくれたのはいつも音楽だった。描かれている情景や心情に自分を重ねて、どこにも吐き出せない気持ちを代弁してくれているかのような曲に救われたことが、何度もある。

あの頃、どこへもやれなかった気持ちに静かに寄り添ってくれた音楽たち。


そんな曲に、色をつけてみるのはどうだろう。

ふと、そんなことを思いついた。


そして生まれたのが、この物語。

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これは、私にとって『ことばのぬりえ』だ。

私に見えた景色を、ことばという色を足して、元の絵とは違うかもしれないけど、自分だけの素敵な作品として完成させたい。そんな密かな願望を、叶えてやろう。

そう決めたら不思議と、すらすら塗りたいことばが出てきた。


どんな色を、のせようか。

ここ、はみ出していないかな。


何度も何度も曲を聴き返し、元の色や輪郭を確かめる。


私なら、何色で塗りたいかな。

あのひとは、どうしてこの色にしたのかな。

気づいてなかったけど、こんなところに意外な色が隠れていたんだな。


何度も何度も塗り直す。

よし、いい色になった。



聴いていても、書いていても、心がわくわくする。

すごく、すごく、楽しい。

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いざできてみると、その絵をどうするか、少し戸惑った。


ひとの作ったものに勝手に色を塗ったりしても良いのかな。

しかも、こうしてnoteに公開までして。


みんなになんて思われるかな。

下手くそだなって、思われないかな。


つまらない優等生でいた頃の自分が、顔を出した。


それと同時に、あの、幼かった娘に『あなたの好きなようにしていいんだよ』と伝えたかった私を、思い出した。


そうだ、私はもう、昔の私じゃない。

なんと思われてもいいや、だってここは私の世界だから。


少し勇ましくなった私に背中を押されて、えいやっ、と公開してみた。

実はずっと書いてみたかった #金曜ビター倶楽部 のタグも一緒に添えて。

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#ことばのぬりえ

☆やり方☆

・自分の好きな曲を選ぶ

・曲をしっかり隅々まで聴く

・歌詞から浮かんだイメージに合わせて自分だけの物語をつくる

・文字数は特に問わない

※個人的にはテーマとなる曲を流しながら、その曲が終わるまでに読めるくらいの文字数がいいかなと思うけど、それだってなんでもいいのだ。だってあなただけのぬりえだから。


これを読んでもしも、なんか面白そうだなと思ったひとがいたら、ぜひやってみることをおすすめしたい。


とにかく、とっても楽しいから。

すでに好きな曲を、何倍も何十倍も、また好きになれるから。


そして、イメージを膨らませるために何度も聴き返す、塗りたいことばを探して選ぶ、色を重ねて自分だけの絵が完成する、その贅沢な時間が何よりも自分への贈り物になるから。


あなたもことばのぬりえ、やってみませんか。



良かったらタグ使ってみてください。

#ことばのぬりえ




サポートというかたちの愛が嬉しいです。素直に受け取って、大切なひとや届けたい気持ちのために、循環させてもらいますね。読んでくださったあなたに、幸ありますよう。