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【恋愛小説】㊷最初の恋人 最後の恋人 〜守りたい~

「もし、本当に愛情がないなら、別れた後の彼氏のことなんて、心配しないと思うよ。それより、自分が悪者にならないように、いかに上手く別れるかって考えると思う。別れた彼氏に恨まれて、ある事ない事言われたらいやだもん。」

達也の母が昌人の目をみて言った。
「昌人くん、アンタ、めちゃくちゃ彼女さんに愛されてるの、気付いてないの?
彼女さん、友達に別れろって言われた時も、達也が嘘ついたときも、今の話も「昌人くんのため」しか言ってないでしょ。妹が言ったみたいに自分がどう思われるかとか、考えてないと思う。それって愛情以外の何者でもないよ。」

昌人は達也の母の言葉に驚いていた。
「でも、前ほどは好きじゃないって・・・」
「確かに前はもっと好きだったんだと思う。じゃなかったら、友達に言われた時点で即別れてるよ。昌人くんが思う以上に彼女さんはあなたの事が好きだったのよ。だから、金銭トラブルから昌人くんを守り、昌人くんの気持ちを考えて、達也との友情を考えて、全部一人で背負って・・・。なのに、その昌人くんは自分を信じてくれなくて・・・。そりゃ疲れるわ。心折れるわ。別れるって言われても無理ないわよ。」
達也の母は指先で涙を拭った。

昌人は、達也の母の言葉で、もう、美々の気持ちを取り戻すのは無理なのかもしれない、と落ち込んでいた。

そんな昌人の姿を見た達也の母は、強い口調で昌人に言った。
「だからね、ぜっ・・・たい、別れちゃ駄目よ。そこまであなたの事を考えてくれる人、そうは現れないからね。彼女さんは友達に何を言われても、あなたを守ったの。例え彼女さんに嫌われても、今度はあなたが守りなさい。今回の騒動はお金の貸し借りから始まってるでしょ。お金は借りても貸してもリスクがあるの。だから、貸さない勇気も必要なんよ。昌人くんはもっと強く、しっかりしなきゃ駄目。優しいだけじゃ大切な人は守れないよ。」




達也が話し終わると昌人が美々に言った。
「おばちゃん、泣いてたんだ。美々の気持ちを考えると涙が出るって。
美々、美々がオレの事、好きじゃなくても構わない。
美々が守ってくれた分、今度はオレが守れるよう、オレ、変わるから。
変わったオレをもう一度好きになってもらえるよう、努力するよ。
出来れば彼女としてそばにいてほしいけど、彼女としてじゃなくてもいい。そばにいてくれないか?」



あれから30年が経とうとしていた。
写真を眺めている美々。
そこにはウェディングドレスを着た若かりし美々の姿があった。
無事に親にウェディングドレス姿を見せることができたのだ。
ドレス姿の美々の横にはタキシード姿の昌人が立っていた。

あの時、信じて良かった。
あの時、本音で話して良かった。
あの時、いっぱい悩んで良かった。
いっぱいいっぱい泣いて、その分、守ってもらえた。
私の居場所を作ってくれた。

この人で本当に良かった。

うっすら出来たシミをファンデーションで隠し、優しい目尻にシワが増えた昌人と銀婚式ディナーへ向かった。



Fin

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