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共感ではなく哲学から始める:商品開発におけるワークショップデザイン論

年々、ワークショップを活用した企業の商品開発の案件が増え、現在もリアルタイムでいくつかのプロジェクトが動いています。複数回のワークショップを主軸にしながらも、ユーザー調査(定性・定量・ミックス法)や事例調査などを組み合わせながら、数ヶ月〜1年ほどかけて、外部パートナーとコラボレーションしながら最終的なデザインアウトプットまで落とし込んでいきます。

企業によって抱えている課題はさまざまで、依然として技術主導で商品開発を行っており、ユーザーに対するリアリティが持てていないケースもあれば、ユーザー調査は繰り返しており、人間中心(市場主導)の商品開発に取り組んでいるにも関わらず、いまいち良いアイデアがでない..というケースもあります。デザイン思考の実践者に言わせれば、前者は早くデザイン思考を導入しましょう、後者はもっと定性調査をしっかりして、ユーザーニーズの背後にある本質的な課題を洞察しましょう(つまり、デザイン思考の第一のステップである”共感”のフェーズをしっかりやりましょう)、ということになるのかもしれません。しかし私の考えでは、ユーザーに対する「共感」のステップから始めてしまうと、プロジェクトがうまくいかないケースが多いように感じています。正確にいえば、ユーザー調査を足がかりに、アイデアの種はたくさん出てくるのだけれど、どれもいまいちピンとこない。どれがよいアイデアなのかが判断がつかない。あるいは、どれもよいアイデアにみえるけど、誰も実行に移さない。といったような状況になりがちだと感じています。

では、どうすればよいのか。僕もまだ試行錯誤の段階ではありますが、暫定解としては、第一のステップを「哲学」から始めることが有効だと感じています。哲学から始めるとは、そもそもの企業理念を問い直し、これからつくる商品(もしくは商品カテゴリ)によって生活者に対してどのような価値を生み出し、どのような世界を創りたいのかについて対話することです。既存の商品やカテゴリを取り巻いている価値や文脈を可視化し、それ自体の意義を問いながら部分的に破壊し、新たな価値を探るような活動です。歴史のある企業の場合は、これまでの企業の歩みや、過去の製品群を丁寧にレビューすることで見失っていた哲学が浮かびあがってくることもあります。組織ビジョンを考える以外にも、たとえば「良いアイデアが出なくて困っている」のであれば、「自社における”良いアイデア”とは何か」について対話することで、プロジェクトの軸が見える場合もあります。あるいは新しい「シャンプー」を開発するプロジェクトであれば、「そもそも人はなぜ髪を洗うのか」「シャンプーという商品カテゴリは、ユーザーの何をケアし、何を与えている」から問い直してみることで、商品やカテゴリの意義を再検討する、といった具合です。スタートアップベンチャーであればこのような検討は日常的に行っていると思いますが、大手の技術メーカーなどになると、日々の業務から抜け落ちている場合が多いように感じます。ポイントは、視座を上位に引きあげて、短期的なプロジェクトでは見失われがちな暗黙の前提を問い直し、その外側の可能性を探索する運動を、プロジェクトの最初に組み込んでおくことと、できれば社内のメンバーだけで実施するのではなく、外部から多様な専門性を持ったゲストを招き入れることです。

こうして暗黙の前提となっていた固定観念を揺さぶり、新たな軸を可視化しておけば、「共感」のフェーズ(私は、”市場の解釈”と呼んでいます)に進んでも、ユーザーの欲求を鵜呑みにするのではなく、生活者の置かれた文化や背景を批判的に解釈することが可能になります。また、プロジェクトの後半で複数のアイデアが生まれた場合においても、初期に検討した哲学に立ち戻ることで、アイデアを評価し、優先順位をつけて選別することが可能になります。アイデアが「どれもいまいちピンとこない」場合であっても、なぜピンとこないかについて哲学に基づいて検討することができるので、アイデアを一段深いものにブラッシュアップさせることも可能です。

弊社のアプローチでは、商品開発プロジェクトのフェーズを(1)哲学の解釈(2)市場の解釈(3)発想の跳躍(4)仕様の実装、と4段階にわけて、それぞれのフェーズで異なるデザインのワークショップや調査を実施する方法をとっています。今年度から商品開発の方法論をテーマにした産学連携の3年間の共同研究もスタートしているので、こういったイノベーション領域におけるワークショップデザイン論の知見も少しずつアウトプットしていければと考えています。

※安斎勇樹ブログの過去記事を改変

(安斎 勇樹 / 代表取締役)

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