見出し画像

短編小説0009怖くて不思議な話話#004 サカキさんの恋愛相談 5133文字 6分半読

 youtubeで朗読してます。こちらも聞いて下さい!
https://youtu.be/dFR4zWiepBs


「ヤマモトリョウタの人生ラジオ!」
 
「チャンチャンチャンチャン」
毎日、夜0時から番組が始まる、個人でやっているインターネットラジオ放送だ。放送局は自分のアパートの一室。
登録者数が千人以上、ライブ視聴ユーザーは常時数百人以上、この業界ではかなり人気のある番組といってもいい。
今の時代はやろうと思えば誰でも個人で配信ができる。例え有名人でなくともやりようによっては、普通の一般人がスターになる事ができる。
ヤマモトリョウタは都内に住む会社員だ。本名はサカイカブト。何となく始めたインターネット放送だったが徐々にファンが付いてきて、一年も経つとこのアプリ内でも人気上位にランクされるほどになった。ヤマモトリョウタは適当につけた名前だ。
 
番組はリスナーからの投稿に回答する形のスタイルがメインだ。
軽さの中にも温かさと、的確なアドバイスを鋭く発言するので、特に十代から二十代の若者に人気がある。
 
「さあ、今日も始まりましたー。ヤマモトリョウタの人生ラジオでーす。みなさんお疲れ様でーす。今日はサカキさんからの投稿です。えー、いつもリョウタさんの番組を聞いて元気になっています。リョウタさんに相談です。彼氏が全然かまってくれません。スマホに夢中になって、私が話しかけても上の空です。どうしたらいいでしょうか?
・・・というご相談です。そうですか、この彼氏はスマホに夢中で彼女はあまり興味がない様子ですか。なんてやつだ。ちょっと露出の高い服装で彼に迫ってみたらいかがでしょうかね。ネットの二次元ばかりみていないで本物の三次元の私も見てーってね。ちょっとねやってみてください。少しは改善するかもしれません。劇的な変化はないだろうから徐々にだね。だからね、ちょっと続きを教えてほしいな。進捗をぜひ教えてくださいね。
はい次のご投稿は・・・・。
 
 
次の日、いつもと変わらず0時から放送を始める。
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。今日も投稿たくさんありがとうございます。おっ昨日のサカキさんから来てる。うわー連続で嬉しいな。どうなった彼氏と?えー読みますね。リョウタさん読んでくれてありがとうございました。ちょっと恥ずかしいけどリョウタさんの言うとおりにしてみましたが、彼は私をちらっと見ただけですぐスマホに視線が戻ってしまいました。もう全然興味ないみたいです。次はどんな作戦がいいでしょうか・・・。
っていうことなんですが。そうですか、彼氏どうしたのかね。もう興味ないのサカキさんに。ひどいなあ。じゃあちゃんと面と向かって話してみた方がいいかもね。ちゃんと心を込めて二人の時間を大事にしようってね。言ってみて下さい」
 
次の日、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。おっサカキさん今日も投稿ありがとう。どうだったかな?読みますね。リョウタさん聞いて下さい、彼ひどいんです。ちゃんと正面に座って話したんです。スマホやめてお話をしようと言っても、このまま話しはできるだろうって。片手間で私の顔を見ないではなしをするんです。もうめんどくさそうになって空返事ばかりなんです。酷いですよね。これじゃあ恋人なのか何なのかわからなくなります。もうどうしよう。
・・・ってことなんですが、ちょっと彼氏ダメだよこれは。ちゃんと誠意をもって受け止めないとね。リスナーからも応援メッセージが届き始めているよ」
 
『そんな彼氏は別れて俺と付き合おう』
『彼氏なんてみんなそんなもんでしょ』
『もっと厳しくいった方がいい!』
『しばらく無視しとけば』
 
「もうみんな、色々勝手なアドバイスばっかり。ははは。これじゃあサカキさんも悩んじゃうね。ところでさあサカキさんは彼とどうしたいのかな?結婚とかさ。彼もサカキさんのことどう思っているのかな?どの程度の深さと本気度なのか、まだその時期じゃないのか?色々と二人の温度差みたいなものがあるように思えるよね。ただの性格の問題かもしれないけど。そこをしっかり伝えて、そして聞いてみるといいかもしれないね」
 
次の日、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。さあもうメインコーナー化しております、サカキさんのコーナーです!たくさんメッセージもいただいてます。さてサカキさん、どうでしょう今日は。読みますね。えーっと、彼と改めて膝を突き合わせて話しをしました。最初は面倒くさそうにスマホから目を離さないので、強く話を聞いてと言ったらしぶしぶ対応してくれました。私と一緒の時はちゃんと私を見て、話を聞いてと言いました。そしたしばらくうつむいて、やるせない顔で別れて欲しいと言われました。もう死にたいです。
・・・えーっそんなあ。マジかよ。死んだりしないでね。サカキさん。でも彼氏は何で別れたいのかな?そこんとこしっかり聞こうよ」
 
次の日、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。サカキさんからの投稿今日もありがとうございます。
えーっと、昨日は死にたいとか言ってごめんなさい。御心配おかけしました。あれから色々考えました。彼がどうして私と別れたいのか考えました。私が彼との時間を大事にしたいと思っていることが彼にとっては息苦しいみたいです。重いみたいです。でも私は間違っていないと思います。もう少し話してみようと思います。
・・・頑張れ!サカキさん!」
 
次の日、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。サカキさんからの投稿今日もありがとうございます。
えーっと、ダメです。全然話しを聞いてくれません。どうしてでしょうか?私がこんなに誠意をもって話を聞いて欲しいと言っているのになぜ受け止めてくれないのでしょうか?
・・・もう彼氏は話しもしてくれないのか。うーんちょっと時間と距離を置いた方がいいかもね」
 
 
 
 
一か月後、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。おっサカキさんからの投稿久しぶりだなあ、どうもありがとうございます。
えーっと、リョウタさんの言う通り彼としばらく時間と距離を置いてみました。一か月我慢しました。その間彼は私に何の連絡もしてくれませんでした。私からも連絡しないで我慢しました。そしたら先日、彼が私の知らない女と手を繋いで歩いているところを見たんです。私はその場で彼に問い詰めました。一体どういう事って。でも全く対応しないんです。まるで私がいないかのように無視するんです。おかしいですよね。どう考えても。私は別れているつもりはありませんし、ましてや別の女と付き合っているなんて酷すぎます。頭が混乱しています。どうしたらいいでしょうか?
・・・いやあ、結構な修羅場だなあ。時間を置いた方がいいって言った僕にも責任があるかもしれないね。彼氏がもう既に新しい彼女を作っていたか・・・。もう諦めた方がいいかも知れないね。サカキさんには厳しいかも知れないけど、話し合いをしっかりしないまま別の女に乗り換える男なんてもうやめた方がいいよ。サカキさんには辛いかもしれないけど。マジでそう思うよ」
 
次の日、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。サカキさんからの投稿今日もありがとうございます。
今日はどうかな、サカキさん?元気を出してほしいな。
えーっと、リョウタさん昨日は重い投稿でごめんなさい(笑)。リョウタさんの言う通りもう諦めます。あんな軽薄な男を何で好きだったのか考えれば考える程馬鹿馬鹿しくなってきました。辛くなくはないけど頑張って乗り越えます。大好きですリョウタさん。
・・・あー、もう、俺ホッとしたよ。サカキさん傷ついているのに前を向いている。俺全力で応援するからね」
 
次の日、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。サカキさんからの投稿今日もありがとうございます。
えーっと、リョウタさんに応援してもらえるなんて感激です。早く新しい彼氏見つけるぞ(笑)。寒い日が続きますが、リョウタさんお体、腕とかお大事にしてください。
・・・そうだそうだ、元気出して!」
 
次の日、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。サカキさんからの投稿今日もありがとうございます。
えーっと、お陰様で元気が出てきました。黙っているだけでは彼氏はできないので、何かを始めようと思いました。つきなみですが料理をやってみたいと思います。ショウガのきいた豚丼頑張って作るぞ!
・・・おっほほほ、俺大好物なんだよね。ショウガたっぷりの豚丼。いつか俺にも作って欲しいなあ」
 
次の日、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。サカキさんからの投稿今日もありがとうございます。
えーっと、リョウタさんのお母さまはお元気ですか?私は一年位実家に帰っていないのでそろそろ帰りたいと思っています。子どもの顔を見せるだけで親孝行ですからね。なんて。でも交通費が痛い(笑)。足が悪いみたいだから心配です。
・・・そうかあ、お母さまお体心配ですね。でもね、できるだけ顔見せてあげれば喜ぶよきっと」
 
次の日、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。サカキさんからの投稿今日もありがとうございます。
えーっと、明日は横浜です。プレゼン資料もばっちり作りました。あとはリハーサル通りやるだけです。ガンバロー!
・・・あれ、サカキさんも横浜なの?偶然だね、俺も明日横浜で仕事だよ。みんな頑張ってんなー。俺もみんなのお陰で頑張れます」
 
次の日、
「はい今日も皆さんお疲れ様でーす。サカキさんからの投稿今日もありがとうございます。
えーっと、今日の夕飯はラーメンでしたね。お昼はコンビニのサンドウィッチ。ちゃんとしっかりしたもの食べないとだめですよ。
・・・って、えっこれどういうこと?俺も同じもの食べた。はは偶然かな」
 
次の日、
「えーっと、夜十時以降はお菓子食べちゃだめですよ。コンソメポテチ二百グラムメガ盛を一晩で食べるなんて!明日リョウタさんの家に行きますね。ショウガたっぷりの焼き豚丼作ってあげる!
・・・おい、おい、なんで知ってるんだ?・・・俺んちにくる?」
 
リョウタは気味が悪くなりサカキさんの投稿をブロック設定にした。
 
次の日、俺はちょっとビビりながらも放送をスタート
した。
「・・・ハイ、今日も聞いてくれてありがとうございました。また明日!」
リョウタはホッとした。サカキさんからの投稿はなかった。
よかったよかった。またいつもの放送ができるぞ。
風呂に入ってサッパリした、ビールを飲もうと冷蔵庫を開けると電話が鳴った。こんな夜更けに誰だろう・・・。
「もしもし」
「なんでブロックするのよ!」
いきなり大声で叫ばれた。びっくりして耳からスマホを離し、落っことしそうになった。
「な、な、何だよいきなり!」
「それはこっちのセリフよ」
「誰だよお前は!」
「サカキよ!あんたの言う通りやったのよ。何でブロックするの!」
リョウタは血の気が引いた。なぜ俺の電話番号を知っている?
リョウタは電話を切ろうとした。でもボタンがきかない、というより電源が入っていない?スマホの画面が真っ暗だ・・・。スピーカーから音が聞こえてくる。耳に密着しなくても聞こえるぐらい大きい。リョウタは思わずスマホをベッドの上に放り投げた。
「リョウタさんに時間と距離を置くと言われたから、そのつもりで彼と話し合ったのよ。そしたら即別れたいと言われた。時間も距離も置くまでもないと」
リョウタはなぜか体が動かない。部屋を出ていきたいのに動けない。声も出せない。
「それで私ちょっと取り乱したの。彼に飛び掛かって殴りかかったの。そしたら逆に彼につき飛ばされてから記憶がないの」
リョウタは耳をふさぎたいし、早く逃げたいがこのサカキさんの言葉を止められない。
「何だかよくわからないけど、ふと気づいたら頭に穴が開いててずっと血が流れ続けてるのよ。それであれ以来全く眠くならないの。ずっと起きてるのよ。もう1ヶ月以上かしら?ふふふ。でも彼氏はリョウタさんのお陰できっぱり忘れる事ができたわ。それなのになんでリョウタさんはブロックするのよ!」
リョウタは恐怖で涙が出てきた。
そういえば思い出してきた・・・。二か月前に会社で高いところの資料を取るため脚立を利用した時に落ちて腕をケガしたこと。ショウガたっぷり豚丼が好物のこと。母の足が悪いこと、仕事のこと、俺の食べたもの・・・。サカキさんがなぜ知っていたのか?
「リョウタさん。ごめんなさい。リョウタさんに私救われたのに、こんな大声だしちゃって・・・。そんなつもりじゃなかったんです。お礼のつもりでショウガたっぷりの豚丼作ってきたのに、これじゃお詫びですね。へへ。」
「いい、いらない・・・。」
リョウタは少し声が出せるようになってきた。
「いらない?またあ、そんな遠慮しないでよ。私もう家の中にいるんだから。リョウタさんの『う・し・ろ』にいますよ。ふふふ。」


おしまい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?