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短編小説0014体罰の復活 1897文字 2分半読

「ゴツッ!」
宿題を忘れた者は廊下に立ってろ!

中学二年の亮太は昨日出された数学の宿題を忘れ、先生にげんこつを食らい、おまけに廊下に立たされた。

「いってー、鈴木のやろう・・・いつもいつもガンガン殴りやがって」

廊下に立たたされながら、亮太はふてくされていた。
たかが宿題を忘れたことが暴力を振るわれるほどの罪なのか?何で先生は生徒に暴力をふるっていいのだ?
グルグル考えていた。

『キーンコーンカーンコーン』

「おい山本!、今度忘れてきたら宿題二倍やらせるぞ。しっかりやる事はやれ!」
教室を出た数学教師は捨てゼリフのように亮太に浴びせた。

(ばっかやろー)
後ろ姿に声を出さずに口真似した。

「おい、亮太、何回同じ事やれば気が済むんだよ」
親友のヨシヤがニヤニヤ笑いながら亮太に近づいてくる。
「へっ、いつかやり返してやるよ」
「やめとけって、もっと酷い事になるぞ」
「いや、俺は間違っていない。だって暴力だぞ?先生と生徒の関係であったって暴力は暴力。犯罪だ」
「お前が宿題忘れてくるからだろ」
「じゃあ先生が何か忘れ物したら俺たちが先生にげんこつしてもいいって理屈だぞ?できんのかよお前」
「いや、それとこれとは違うだろ」
「違くない!」
「先生と生徒だから違うよ」
「お前おかしな理屈だよそれ。俺の理屈の方が筋が通ってる」
「まあまあ、変な気起こすなよ。お前はやりかねないからなあ」
「ふん、今に見てろよ先生ども・・・」

次の授業は体育。
今日は1500メートル走のタイムトライアル。
亮太は運動が得意だ。だから体育の時間ではだれにも負けたくない、という中二生らしい無駄な勝気を持っている。

「よーい、ドン」
勢いよく飛び出すが、すぐに違和感を感じる。あれ、いつもと違うぞ、ペースが落ちてきた。痛い。なんだ?ああ、靴の中に小石が入っている、痛くてしっかり走れない!

結局、不本意なタイムでゴールした。

亮太はへたり込んだ。

「ああ、くそ、悔しい。こんなの俺じゃねえ・・・」

悔しがる亮太に体育教師が追い打ちをかけた。

「おい、お前!なにちんたら走ってんだよ!山本!お前だよ!」

亮太は驚いた。何言ってんだこいつと思った。ちんたら走ってはいない。足が痛かっただけだ。

「足が痛かったから思うように走れなかったんですよ」
「ウソをつけ!」
「はい?ウソをつけだと?俺はいつもぶっちぎりで一位で走り切ってんだよ。今の結果は超ムカつくんだよ。俺の本当の力じゃない。ちんたら走ってんじゃねえぞだと?お前ら教師は生徒をなめてんのか!」

亮太は数学の授業での怒りと体育教師の理不尽な疑いに、思わず爆発した。
体育教師は亮太に詰め寄り平手打ちを三発食らわせた。

「教師に向かって何てこと言うんだ!」

亮太は完全に頭に血が上り体育教師に飛び掛かっていった。
まだ中学二年生の大人になり切れていない華奢な体だから、体育大学出身の体育教師には全く歯が立たない。
軽くいなされ、追加で五発程ビンタされた。

「ちくしょう!もう許さねえぞ!警察に言ってやる!裁判してやる!」
中学二年生の知りうる知識をひねり出し、どうにかこうにか対抗してやる思いを言葉にしたが、体育教師はひるまない。

「お前は問題児だな。よし、授業はもうやらなくていいからそこで立って見てろ。そして授業が終わったら職員室に来い」

亮太はグラウンドに突っ伏したまま、下から教師をにらみつけていた。体育教師のまたしても理不尽な命令を聞いて、もうやけっぱちになり、何か叫びながら体育着のまま走って家に帰ってしまった。

「グワーーーー!、バカ野郎!!!しねーこの野郎!!!」

その様子を職員室から校長と教頭が眺めていた。
「校長先生、どうですか。体罰を導入してから生徒たちが元気になってきたと思いますが」
「うん、そうだね。ああやって強い刺激を与えた方がいい影響を得られる生徒もいるんだ。与えた刺激の何倍かを跳ね返してくる」
「いやあ、素晴らしい。やはり百年前の教育は正しかったのですね」
「そうだよ。ここ百年間の教育は、ほめて伸ばす、長所を伸ばす、個性を伸ばすということだけに集中してきた。だから穏やかな人間、前向きな人間ばかりになったのはいいが、新しいことや冒険的なことに挑戦するものが極端にいなくなった。頑張らなくても皆理解してくれるからだ。お互いの尊重が最大化されてしまった。その結果婚姻率が激減し出生数が今や年間一万人しかいなくなってしまった。世界が穏やかになったのに皮肉なことだ。このままでは人類が滅亡してしまいますよ。そこで導入されたのが体罰教育推進法でした。なかなか元気のよい生徒が産まれてきてますね。ハハハ」


2090年の未来のおはなし。


おしまい

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