アナザーワールド。
「 アナザーワールドって知ってる? 」
隣同士のブランコに腰掛けて ぐんと大きく漕ぎながら、彼女は、突拍子もないボールを投げてきた。
「 アナザーワールド? 」
「 そう。現実の世界から離れた、もう一つの世界。
例えばさ…
今 いるこの世界と全く同じ世界があって、その世界にも自分がいたとしたら… 」
「 そんな、夢みたいな話… 」
さっきより高くなった 彼女の背中を見ながら、私は思わず苦笑いをした。
非現実的ではあるが、相変わらず個性的でユニークな発想をする。
「 じゃあさ…
どっちが遠くまで漕げるかしない? 」
「 え、私はいいよ 」
ぞうさんの滑り台。
忘れ物であろう、赤いスコップがぽつんとある 砂場。
二人掛けのブランコが一つしかない、小さな公園。
そういえば、子供の頃は そんな事をやってたなと懐かしさを覚えながらも…
今の私は、羞恥心の方が勝って、深夜のブランコに座るのが精一杯だった。
「 じゃあさ…
靴の飛ばしっこしない? 」
「 いや、大丈夫 」
飛ばした後の靴の心配や、誰も居ないのに周囲の目を気にして、当たり障りなく断る。
『 いいよ 』や『 大丈夫 』とは、なんて体のいい断り方なんだろう。
「 色々 理由つけて、何にもしないくせに…
しないとは言わないんだね 」
そんな私を見透かしたように、今度は意地悪なボールをぶつけてくる。
彼女は、いつも 自由だ。
マイノリティでも孤独さは少しもなく、やりたいことに向かって、常に全力。
背中には綺麗な羽が生えていて、このまま、空だって飛べてしまいそうな気がした。
「 さっきの話だけど…
もう一つの世界の もう一人の私には、物書きになって欲しいな。
親とか先生の期待や、周りの目も評価も気にせず…
もっと、物怖じしないで自分の意見が言えて、傷ついたり失敗したり躓いても、立ち上がれる自信と強さがある人でいてほしい 」
思わず口を衝いたのは、理想の、成りたい自分。
『 もう一人の自分にばっかり、夢を負わせる( 追わせる ) の…
そろそろ やめなよ 』
街灯の下
最初から誰も座っていない 隣のブランコの鎖の錆た音が、キーコキーコと深夜の公園に響く。
それに伴って、私の影が ゆらゆらと揺れた。
◌ 補足
影が揺れた = 綺麗な羽が生えているのは、もう一人の自分。
本当は、今の自分だって、もっと自由に羽ばたけるよという自戒と、誰かの背中を押す話でした。
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