拝啓 先生。
拝啓
晩秋の侯、麗らかな日も多い今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
先日、ふわりと香ってくる甘い匂いを辿って顔をやると、金木犀の花が咲きこぼれるかの如く橙を際立たせ…
又、柿の木は、今にも垂れんとして熟した実をつけ…
すっかり季節の移り変わりを感じます。
そういえば、あの日も山粧う頃でした。
放課後補習をサボり、『 CLOSE 』の札が下がっていたにも関わらず、施錠のされてない扉に、これ幸いと手を掛け こっそり忍び込んだ 図書室。
同じ様、職員会議をサボり、司書室の机に突っ伏して仮眠していた 先生。
お互い、居る筈の無い来客に目を丸くし…
そして、顔を見合せて苦笑しましたね。
それから、二人で、幾度となく図書室でサボる日を重ね…
いつか 先生は私に、弛緩した今に些か諦めに似た想いを 吐露してくださいました。
『 諦めないで!
私も諦めないから、先生も諦めないで! 』
思わず口を出た言葉に、先生は涙し…
そして
『 ありがとう 』
と、何度も何度も…
あれから数年
風の噂で、採用試験に合格され、念願の体育教師になられたと耳にし、胸がいっぱいになったのを憶えています。
『 秋の日は釣瓶落とし 』とは上手くいったもので、昏れるのも早くなりました。
朝晩は冷え込む日もあります故、お身体ご自愛ください。
敬具
︎︎◌追記
秋の匂いで、ふと 思い出した…
今も、どこかの高校で がんばってる先生へ。
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