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「パターソン」:夫婦のちょうどいい距離感

小さな町に住むバスの運転手の毎日を描いた話。パターソン(主人公)の毎日は規則正しい。しかし、妻や日々出会う人々がさまざまな感情を運んでくる。たまに理不尽な事故のような出来事も起きる。

目目覚めると妻にキスして起き、シリアルを食べて仕事に出かける。バスの乗客の会話に耳を傾け、仕事の合間にノートに詩を書き留めるのが彼の楽しみだ。仕事の後は妻と夕食を取り、犬と散歩がてら行きつけのバーで一杯のビールを飲む。その毎日には妻の存在が大きい。

この映画で印象に残ったのは夫婦のほどよい距離感だ。それほど気が合っているようにも見えないけど、温かい関係。パターソンが帰宅すると、妻は独特な柄のカーテンを作っている。彼は少し驚くが「いいね」と言う。妻が趣味のギターを練習しているときは小さな上達を喜こび、妻の自作のカップケーキが市場で完売したときは「すごいじゃないか!」と称賛する。

妻も同じような温度と距離感でパターソンに接する。パターソンが詩を書き留めた秘密のノートを犬がバリバリに破いてしまったとき、落ち込んでいる夫に妻は「一人になりたかったら私、出かけようか」と声をかけたシーンが印象的だった。

二人とも自分の思いを押し付けたり、相手にこうしてほしい、ああしてほしいと言わない。相手を否定したり、変えようとしない。もともと根が優しい二人なんだ。もっとも、お互いに小さな不満あるはずなんだけど、踏み込まない。そのことが少しさびしいような、他人行儀なような気がする。

しかし、長い目でみれば、それでいいのかもしれない。夫婦といっても他人と他人なのだから。本当は家の外で人に気を遣うより、身近な人にさえ優しくできたらいい。それが難しいのだけれど。


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