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理系研究者におススメしたい「ローマ人の物語」

コロナ禍になって読み始めた「ローマ人の物語」をようやく読み終えました.塩野七生さんが書いた歴史小説で,文庫本にして 43 巻!という超大作です.その名の通り古代ローマの誕生から発展,そして衰退の歴史が描かれています.

この本を理系の研究者におススメしたい理由は以下の3点です.

1. 秀逸なイントロダクション

まず,イントロダクションの書き方がとても勉強になります.新しい話が始まるときに(文庫本では2~3巻ごとに)読者へのイントロダクションがあるのですが,まさに続きを読みたいと思わせる,研究論文なら理想的なイントロだと思います.

紀元前三世紀とは、偶然にしろ、地球の東と西で大規模な土木工事が始まった時代でもある。
東方では、万里の長城——前三世紀までの秦の始皇帝時代に建設された長城だけでなく、十六世紀の明の時代の建設の長城まで加えると、その全長は五千キロにもおよぶ。
西方では、ローマ街道網——前三世紀から後二世紀までの五百年間にローマ人が敷設した道の全長は、幹線だけでも八万キロ、支線まで加えれば十五万キロに達した。
なぜ、支那とローマは、国家規模の大土木事業を始めるのに際し、一方は長城の建設を、他の一方は街道の建設を選択したのであろうか。

ローマ人の物語 27 すべての道はローマに通ず [上]

ローマの歴史は,今を生きる私達にとっても重要な示唆に富んでいます.組織をいかに発展させるのか,そのために人をどのように使うのがいいのか,などなど.イントロダクションには,この先を読むことで私達が何を学ぶことができるのかが端的に述べられています.
もしかしたら,塩野さんは「現代の課題にも通じる」ということを意識的に書いているのかもしれないと感じました.

論文のイントロで苦労している研究者は自分だけではないと思っています.(自分が良いイントロをかけるようになったかはさておき)イントロダクションを学ぶという目的だけでも読んでみる価値はあると思います.

2. 合理的思考

もちろんイントロだけでなく,内容もとても興味深いです.特に勉強になると感じたのが,ローマ人の合理的思考です.

道路自体ならば、ローマ人の発明ではない。しかし、そのネットワーク化は、しかも常にメンテナンスを忘れないようにしてのネットワーク化は、まったくのローマ人の独創である。そして、ネットワーク化による機能の飛躍的な向上に着目したこと自体が、ローマ人を現実的で合理的な民族に育てていくことにもなった。

ローマ人の物語 27 すべての道はローマに通ず [上]

既存の技術をフル活用して最大限の効果を発揮させる.AI,通信など様々な技術開発で遅れをとってしまったと言われる現在の日本にとって参考になる考え方だと思います.

街道に代表されるインフラ整備だけでなく,「戦争は軍を一挙に投入して短期間で終結させる」,「敗者を支配するのではなくローマと同化させる」など,至るところに合理的な考え方が出てきます.これらを学ぶことは,きっと研究生活を豊かにしてくれると思います.知らんけど

この合理的思考は,塩野さんの著作の一つのテーマなのかなと思っています.もう少し時代が下った『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年』や『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』などでも何度も出てきます.

3. 論理的な文章構成

たまたま手に取った文庫本 27 巻から 2 箇所を引用しましたが、どうでしょうか?

確かに,決して簡単に読める文章ではないと思います.文構造が分からなくなって同じ文を読み直すこともありました.
が,非常に論理的な文章だと思います(研究者にとってはむしろ親近感が湧くのではないでしょうか).
複雑な内容を,複雑ではあっても論理的に組み立てて説明しなくてはいけない研究者にとって,格好の勉強材料になると思います.

補足

ちなみに,超大作ではありますが,文庫本で 2~3 巻ごとに話が区切られるので,ある程度ブランクが空いても途中から再開しやすい作りになっています.自分も1か月くらい読まなかった期間もあります.
あと,個人的にぐいぐい引き込まれていったのは,文庫本で 8 巻目の「ユリウス・カエサル」の登場あたりからです.もしこの記事を読んで興味を持ってくれた方がいたら,(中断しながらでも)まずはここまでを目指して頂ければと思います.

*この記事の執筆には,一部 ChatGPT の力を借りました.内容は筆者が責任をもって確認したつもりです.


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