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#それでもスポーツで生きていく・#24

~各論【第2章】
スポーツの『自治』から『自主経営』へ

限界に至るスポーツ界の『自治』とこれから

こんばんは、スポーツエッセイスト・岡田浩志です。

今回は、主にアマチュアスポーツの環境にフォーカスして、文章を綴ってまいります。

プロ・アマチュアという概念の難しさ

スポーツの世界では、長らく議論になっているプロとアマチュアという概念ですが、これに関する正確な定義は、実はなされていません。ゆえに、この言葉を使う人により、ニュアンスが大きく変動する概念だったりもします。

特に、プロ=優れている、アマチュア=劣っている、というバイアスを持っている人を相手に、プロ・アマ論を議論するのはとても難しいです。

僕自身は、プロフェッショナル=それを本業でやっている、アマチュア=本業の傍らでやっている、という考えを元に、この後の話を進めていきます。

アマチュア精神とボランティア精神により成り立ってきたスポーツ界

当連載の最初の投稿でも書いた通りですが、長らくスポーツ界は、アマチュアリズムとボランティア精神を基礎に成立してきました。

実はこれは、スポーツという言葉の定義にも関わる話です。

sports スポーツの語源

「sports スポーツ」の語源はラテン語の「deportare デポルターレ」にさかのぼるとされ、「ある物を別の場所に運び去る」が転じて「憂いを持ち去る」という意味、あるいはportare「荷を担う」の否定形「荷を担わない、働かない」という語感の語である。これが古フランス語の「desporter」「(仕事や義務でない)気晴らしをする、楽しむ」となり、英語の「sport」になったと考えられている -Wikipediaより

「スポーツ」の語源を辿ると、スポーツは、仕事や義務でない「気晴らし」さらに言えば「余暇」となります。

これが、スポーツに関わるものの在り方として、「本業を別に持ちながら」という姿勢が推奨されてきた根拠にもなってきています。

「スポーツの自治」の限界が露呈する昨今

ここ数年、スポーツ界での不祥事が次々に明るみになり、特にアマチュアスポーツにおける組織の統治体制に疑問符が投げ掛けられる機会が増えています。

2018年だけでも、日本ボクシング連盟の助成金不正流用問題、日本レスリング協会のパワーハラスメント問題、日大アメリカンフットボール部の危険タックル問題など、様々なガバナンスの問題が明るみになりました。

「スポーツ界の自治、独立は守られるべきで、極力、国の関与がない方がいいと思っている」話していた鈴木大地スポーツ庁長官でしたが、令和元年6月には、スポーツ庁スポーツ審議会での議論を経て、「スポーツ団体ガバナンスコード」が長官決定されるに至りました。

ガバナンス問題発生の背景について

令和元年6月10日に報道発表された「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」のなかで、こうしたスポーツ組織のガバナンス問題発生の背景が以下の文章にて整理されています。

NF(中央競技団体、筆者補足) を含めたスポーツ団体における様々な不祥事の要因は個々の事案によって異なるが,共通する一つの背景としては,多くのスポーツ団体は,人的・財政的基盤が脆弱である中,スポーツを愛好する人々の自発的な努力によって支えられてきたことが挙げられる。

NF においても役員等が無報酬である例は多く,また,現場においても,指導者が無償又は低い報酬で,自己負担により遠征や合宿に参加している例もある。

スポーツを愛好する人々の善意やボランティア精神に支えられた組織運営は,自主性・自律性を育み,我が国のスポーツの多様な発展に貢献してきたが,一方で,組織運営に係る責任の所在を曖昧にし,コンプライアンス意識が徹底されず,組織運営上の問題が見過ごされがちになるなど,ガバナンスの確保がおざなりになってきた面があると考えられる。

また,スポーツ団体が,そのスポーツに関わる,いわば「身内」のみによって運営されることにより,法令遵守よりも組織内の慣習や人間関係への配慮が優先され,時として,「身内」には通用しても社会一般からは到底理解を得られないような組織運営に陥るケースも見られる。

《 論点整理 》

1. 多くのスポーツ団体は、人的・財政的基盤が脆弱である
2. スポーツ愛好家の善意とボランティア精神による組織運営は、責任所在を曖昧にしがち
3. そのスポーツに関わる「身内」で運営され、組織内慣習や人間関係への配慮が優先されるケースも

上記3つの論点のうち、1.が最も重要な背景と思われますが、一般の企業体に比べてスポーツ団体は、人的にも財政的にも小規模な体制で運営されている、ということ。

全国規模で大きな組織として運営されている割には、無報酬の役員が多かったり、事務局機能も数人のパート職員で切り盛りしているケースが多いのです。

スポーツ庁がここで問題視しているNF(中央競技団体)ですら、このような状況整理ですので、全国に散らばる地方の競技団体は、尚更厳しい環境下で団体運営を行っています。

ガバナンスコードによる統治が決め手?

今回策定されたガバナンスコードは、競技団体の日本スポーツ協会(旧日本体育協会)やJOCの加盟条件となるほか、各団体を4年に一度認証する仕組みとして導入されます。

しかしながら、本業の傍らで協会としての日常業務に翻弄もされる各団体の環境整備も整わぬまま、世間一般の組織運営基準に追い付くべく、さらにこのガバナンスコードに関わる業務が増すことになります。

根本解決すべきは、この競技団体の労働環境に関わる整備が第一なのではないでしょうか。

本業で学んだ一般社会の規律をスポーツ界に

今回はプロスポーツ側の視点を一切持ち込まずに、アマチュアスポーツの環境について論じているのですが、アマチュアスポーツ界で働く方々には、スポーツ業界とは異なる本業で培ってきた一般社会での労務経験が豊富に備わっているはずなのです。

スポーツ団体のなかで、職員として求められている職務をこなすだけでなく、それぞれの職員の方々が人生をかけて培われてきたすべての経験(全体性:ホールネス)を、スポーツ界の自治の危機を乗り越え、そしてこれからを作るために、機動すべき時が来ているように、僕は思うのです。

この「全体性:ホールネス」という概念も、この連載の第2章の章題に挙げている『自主経営』という概念も、ともに『ティール組織』の根幹をなす概念ですが、今後の投稿では、この『ティール組織』について考えを深めていく文章を書いてゆく所存です。

引き続きご愛読、宜しくお願いいたします。

スポーツエッセイスト
岡田浩志

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