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相手の“ペース”をつかみ、合わせるのが大事。_INTERVIEW ABOUT INTERVIEW Vol. 2 松田紀子さん(前編)

はじめに

日本全体が自粛モードにつつまれていた2020年5月14日。全3回のインタビュー特化型ライター養成講座「THE INTERVIEW」の3期がスタートし、私も鹿児島から参加しました。

講師はフリーランスライターの宮本恵理子さんです。そのお名前は、毎日のようにチェックするNewsPicksなどのWEBメディアでお見かけしていました。「いい記事だったなぁ、やる気が出てきた!」と感じる記事には、たいてい宮本さんのお名前がありました。その宮本さんがインタビュー術に焦点をあてたライター講座をオンラインで開催されると聞き、迷わず申し込んだのです。

この講座は2020年1月にスタートし、すでに4期を数えます(2020年7月13日現在)。宮本さんのインタビュー術を学んだ卒業生が増えるにつれ、「宮本さんのインタビューの現場を見てみたい!」という声がどんどん寄せられるようになっていったそうです。

そこで企画されたのが、インタビューのコツをインタビューするオンライン勉強会「INTERVIEW ABOUT INTERVIEW」です。

宮本さんが「あの人のインタビュー術を聴きたい! 知りたい!」と注目するゲストをお招きし、その極意を聴いていきます。ゲストへの質問もでき、宮本さんのインタビューの現場も見ることができます。

私のようなフリーランスのライターにとって、他のライターさんがどんなふうにインタビューをされているのか、知る機会はあまりありません。その意味で、「INTERVIEW ABOUT INTERVIEW」はとても贅沢で貴重な勉強会だと感じています。

勉強会は現在、月1ペースで開催中。「THE INTERVIEW」の受講生・卒業生は無料で、一般の方は有料で聴講できます。時間の都合がつかない方のための録画チケットもありますので、ご興味のある方は、次回からぜひ!

■Vol. 2のゲストは松田紀子さん

このnoteでは、6月20日に開催されたVol. 2勉強会の様子をご紹介します。今回はその前編です。

ゲストは、松田紀子さん。(株)ファンベースカンパニーのファンベースディレクターであり、2016年〜2019年まで料理雑誌『レタスクラブ』の編集長もつとめた方です。

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インタビュイー(話し手)/松田 紀子(まつだ・のりこ)
1973年長崎県生まれ。97年リクルート九州支社に入社し、旅行雑誌「じゃらん」の編集に3年間携わったのち上京、2000年メディアファクトリーに入社。11年メディアファクトリーが子会社化、のち合併され、「コミックエッセイ編集グループ」編集長に。16年「レタスクラブ」の編集長も兼任。18年には同誌が料理・レシピカテゴリの雑誌で売上1位を記録する実績を残した。19年9月にKADOKAWAを退社、(株)ファンベースカンパニーに合流。編集力を生かした〈ファンベースディレクター〉として様々な分野の起案・企画に伴走。実姉は漫画家の松田奈緒子。著書『悩んでも10秒 〜考えすぎず、まず手が動く! 突破型編集者の仕事術〜』(集英社)。

聞き手は「THE INTERVIEW」講師、宮本恵理子さん。

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インタビュアー(聞き手)/宮本 恵理子(みやもと・えりこ)
1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP)に入社し、「日経WOMAN」や新雑誌開発などを担当。2009年末にフリーランスとして独立。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。一般のビジネスパーソン、文化人、経営者、女優・アーティストなど、18年間で1万人超を取材。ブックライティング実績は年間10冊以上。経営者の社内外向け執筆のサポートも行う。主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』『新しい子育て』など。担当するインタビューシリーズに、「僕らの子育て」(日経ビジネス)「夫婦ふたり道」(日経ARIA)「ミライノツクリテ」(Business Insider)「シゴテツ(仕事の哲人)」(NewsPicks)など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。

それでは、Vol. 2勉強会(前編)スタートです!


■編集者時代の経験が今の仕事に活きている

──勉強会を企画した時から、松田さんには絶対に出ていただこうと決めていたんです。

ありがとうございます(笑)

──松田さんは、シリーズ累計300万部のメガヒットとなったコミックエッセイ『ダーリンは外国人』の担当編集さんとしてみなさんご存じだと思います。『レタスクラブ』編集長としては、雑誌の売り上げ部数をV字回復にもっていかれて、その復活劇がさまざまなメディアに取り上げられました。

編集部のメンバーの必死の努力があって、この雑誌不振の時代に3号連続完売も達成できて。非常に充実した3年間でしたね。

──2019年10月にKADOKAWAを退社、いまはファンベースカンパニーでお仕事をされています。編集者時代といまとではインタビューのお相手がちがうと思いますが、松田さんはこれまで一貫して人の魅力を見つけて引き出すインタビュー力をお仕事で発揮されてきました。今日はぜひ、その秘密を知りたいなと。

よろしくお願いします。インタビューの回数としては、出版社にいるときより今のほうが圧倒的に多いですね。ただ、編集者時代は作家さんと濃い関係性を築くために、その方のお話をじっくり聴く経験を長年してきました。ふり返ってみると、その編集者時代の経験が今に活きているなと思います。

■人にはそれぞれ、心地よくしゃべれる“ペース”がある

──それでは、編集者時代のお話からうかがっていきましょうか。出版社におつとめのときは、担当する作家さんとコミュニケーションをとるためのインタビューが主だったと思います。私が松田さんの著書『悩んでも10秒』を取材・構成させていただいたときに印象的だったのが、作家さんに安心して書いていただくために「自己開示」と「不安解消」を心がけていた、というお話です。

↓松田さんの著書『悩んでも10秒』。ブックライティングは宮本さん

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そういう話をしましたね。編集者側の自己開示は大事です。ただ、初めてごいっしょする作家さんの場合、まずは相手の話をよく聴くことが重要ですね。基本的に私、初対面では怖い人と思われているんですよ。「こちらの話は聞かずに一方的に言いくるめられて、契約書にハンコ押させられる!」みたいなイメージをお持ちの方が多いみたいで(笑)

──あはは。松田さんはエネルギーの塊だから(笑)

それでも相手の話をじっくり聴くと安心していただける。そこから作家さんとの関係性がゆっくりと始まっていくことが多かったですね。

──なるほど。作家さんのなかには自分の思いを言葉にするのが得意ではない方もいらっしゃるとうかがいました。そのときはどうされますか?

言葉が出るのがゆっくりな方や内気な方でも、その方が心地よくしゃべれる“ペース”というのがあるんです。そのペースをつかんで、こちらがそれに合わせていきます。

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──具体的には、話す速度とかでしょうか?

そうそう。相手の話す速度、リズムに合わせるように心がけます。

──話す内容の前に、ペースが大事なんですね。

すごく大事です。相手のペースに合わせながら空気を読むようなこともします。相手をよく見て話を聴いて、「この話をすると表情が曇るな」「これ以上踏み込んだらまずそうだな」と感じたら、もうちょっと関係性が深まってから聞こうと思って話題を変えます。でも、そのとき聴かなかったことはメモっときますね。私、すぐ忘れちゃうので。

■先に「自己開示」することで作家に“自分ごと化”してもらう

──お仕事が始まると、いよいよ作家さんと作品をつくるためのマンツーマンの作業になっていきますよね。その時、自己開示と不安解消が重要なポイントになってくるのでしょうか?

そうですね。本を作るときはテーマと、なぜそのテーマなのかという自分なりの仮説を必ず用意しておくんです。その仮説に対する自分の意見をまず作家さんに伝え、自己開示します。

具体的にはテーマをお伝えして「私の場合はこうなんです」と自分の状況や過去の体験をまずワーッと話すんです。すると作家さんも「あ、なるほど。私もそういうところあるかも」という感じでだんだん“自分ごと化”してくださいます。こちらが率先して自己開示することで、テーマに即した作家さんご自身の記憶や感情を思い起こしていただく感じでしょうか。それがうまくいくと、作家さんは勝手にそのテーマに向かって走り出していかれます。

──松田さんとお仕事なさった作家の方が、「自分では掘り起こせなかったけれど、松田さんがこれでもかと自己開示してくださるから、自分のなかに眠っていたテーマを見つけられた。描けそうだという自信を与えてもらった」っておっしゃっていました。

それはうれしいですね。

──ええ。松田さんの手がける作品っておもしろくて楽しいものなんだけど、その作品の核になるものは人間の“毒”や“闇”といったドロドロした部分だったりしますよね。

そうそう。そういうの大好きなの(笑)

──表面的なお付き合いじゃ、人間の素や裏の部分を見せるような作品はなかなか生まれないと思うんですよ。そこに松田さんの自己開示が効いてくる。世の中の多くの人がぼんやりと感じているんだけれども、まだ世間ではっきりと認識されていないテーマやメッセージが盛り込まれている。そんな名作が生まれる過程には、松田さんが自己開示をして、そこで作家さんからポロッと出てきたものをしっかり受け止めて、いっしょにこねて、混ぜて、ふくらませて、という作業がある。そんなイメージが浮かびました。

うんうん。その感覚、すごく近いと思います。コミックエッセイは作家さんの自伝的側面がどうしても強くなります。自分の人生や私生活を明かして描いてもらうには、こちらも自分を出さないと心を開いてもらえない。だからこそ、心を開いていただいて土台となる信頼関係を構築できた作家さんとは、人生をともに歩むような関係性に発展していきますね。女性の作家さんが多いから結婚や出産、子育てといった人生のイベントもいっしょに味わいながら、喜び合って支え合って10年、20年のお付き合いになっていきます。

■「不安解消」は安心して作品づくりに向き合うための環境づくり

──長いお付き合いになるからこそ、その時々での不安解消が必要になるわけですね。『悩んでも10秒』の取材のとき「作家さんに不安なことがあれば具体的に解消する」「安心して作品づくりに向き合える環境をつくる」と松田さんがおっしゃっていたのを思い出しました。

編集者としては、その作家さんの人生を背負っているような感覚があります。だから、絶対に作品でコケられない!というプレッシャーもすごくあるんです。作家さんがバッシングを受けないために、時にはいろんなところに手を回すみたいなこともしますね。

──「不安なことはありませんか?」と聴いて、いっしょに解決していくのでしょうか?

そうですね。最初から不安を口に出す方はいらっしゃらないのですが、話したくなったらいつでも安心して話せる雰囲気はつくっておくようにしています。筆がなかなか進まないときは不安や迷いを抱えている場合がほとんどです。「ただひたすら待つ」タイプの編集者さんもいるようですが、私はすぐに聴き出すタイプ。原因がわかれば、一つひとつ手を打っていきます。

──具体的にはどういう不安をを抱えていることが多いんですか?

多いのは「家族との関係」ですね。たとえば夫婦のお話を描く場合、夫側の承諾が得られるかどうかという不安が常につきまとうんですよ。黙って描いちゃうパターンもあるけど、ヒットすればするほどバレる可能性が高くなる。そのときに「どうやって夫に隠しておこう?」と作家さんに気をつかわせるのは不本意なので。旦那様にいっしょにお会いして事情を説明したり、執筆のお許しを得るために手紙を送ったりします。心配ごともうかがって、表現を変えたり削ったりすることもあります。

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──では、ここまでのお話に関して、参加者の方からの質問にも答えていただきましょう。「バッシングを受けないようにいろんなところに手を回すとおっしゃっていましたが、具体的にどんなことをされたのでしょうか?」

インパクトのある作品をめざそうとするほど、賛否両論の嵐に巻き込まれる可能性が高くなります。その話をおもしろがる人もいれば、眉をひそめる人もいる。だからといって、不快に感じる人のためにおもしろいところを削ると作品が成り立たなくなってしまう。

だから賞賛と同じくらい、非難も起こりそうだなと思ったら、事前に作家さんに話をしておきますね。「Amazonのレビューが荒れると思うけど気にしないでね」「こういうこともあると思うけど大丈夫」と。実際、あまりにもひどい書き込みがあったらAmazonに削除依頼を出すこともします。

──作家さんは心強いでしょうね。起こり得るリスクを事前に想定して、共有しておく。実際に事が起こってしまったら対処もしてくださるわけですから、安心感があると思います。

出版後、バッシングを受けたときに編集者が何のフォローもしなかったら、作家さんは悲しいと思うんですよ。だから、おそらくこうなると仮説を立てておいて、「もしこうなったらこうしましょうね」「いっしょに乗り越えようね」とおたがい確認して対応を話しておく。

何かあっても私がフォローできれば、次の作品にも安心してとりかかれる。何もなければ、「よかったね!」で終わります。「私たちは仲間だ。バッシングがあっても見捨てたりしない、いっしょに乗り越えよう」という姿勢を見せることはとても大事です。 (前編終わり)


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【おしらせ】

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事前登録をしていただくと、第5期の日程の先行案内があります。受講生には「INTERVIEW ABOUT INTERVIEW」への無料招待特典も。


うれしいです!
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鹿児島生まれ、鹿児島在住。会社員を経て独立。書籍やWEB記事のライティングをしています。仕事のことや本の感想など、日々のあれこれを書きつけます。上阪徹のブックライター塾第3期修了。