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お粥やの物語番外編 第2章4-3 謙太の呟きと神さんたちの内緒話

【賢者の名言】
「人と人の間に絆を築くことができる唯一のものがあります。それは感謝です」

シャルル・ド・モンテスキュー

【謙太の呟き】
感謝の気持ちがあっても、「ありがとう」の一言が、なかなか口から出ません。言いなれない言葉に、照れがあるのは事実です。
それなら、何度も言い、恥ずかしさを追い出せばよいのですが、口下手な僕にはとても難しいことで……。
でも、「どうも」や「すみません」という曖昧な言葉より、「ありがとう」と言ったほうが、相手に伝わるのはわかります。
僕だって、「ありがとう」と言われたら嬉しい。

【神さんたちの内緒話】
「感謝の気持ちを持てば、幸せを意識する機会は増えます。感謝は幸せを感じたお礼ですから」
「それなら、山さんは、俺に『ありがとう』と言い続けなければいけない」
「解せぬことを言いますね。その言葉そっくり、河さんにお返ししますよ」
「なんでだよ。山さんは、俺がいるから幸せなんだぞ。もし、俺がいなくなったら、すぐに野垂れ死んでしまう」
「河さんがいなくても、私は死にませんよ。不幸にもなりません」
「強がり言いおって、寂しがり屋のくせに」

山さんは大きな咳払いしてから、話を再開した。
「話を戻しますが、感謝の気持ちは人に対するものだけではありません。遠足の日に天気が良かったとか、空気が美味しいとか、野良猫に摺り寄られたとか、幸せな気持ちになれたら、それらすべてに感謝です」
「俺が、街中で女の子に微笑まれたとか、女の人に親切に道を教えてもらったとかも、おばあちゃんに飴玉を貰ったことにも感謝だな」

「そうですね。慈愛に満ちた女性たちに感謝してください。でも、感謝する心が薄れることはありませんか」
「そんなこと、俺にはないぞ」
「女性の話以外ではどうですか。たとえば病気から回復したとき、健康のありがたみがわかり、健康であることに感謝する気持ちになるでしょ。でも、健康が続くと、その気持ちは薄れ、忘れてしまいませんか」
「言われてみればそうだな。人は慣れてしまうと、感謝する気持ちを忘れてしまう生き物なんだろう。その代表例は山さんだ。俺に対する態度は酷いものだから」
「どうしても、そこに話を戻したいんですね」
「当然だろう」

胸を張る河さんを一瞥し、やれやれと首を振る山さんでした。


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