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お粥やの物語番外編 第2章1-3 謙太の呟きと神さんたちの内緒話

【賢者の言葉】
「優柔不断ほど疲れることはない。そして、これほど大きなエネルギーの無駄もない」

バートランド・ラッセル

【謙太の呟き】
いざ、何かを選ぼうとすると、いつも悩んでしまいます。
自分が優柔不断な性格なのは知っています。それは子供の頃からです。
デートしたとき、遊園地か映画館かで丸三日悩み、いざ、出掛ければ、どの店でご飯を食べたらよいのか決められず、一時間以上歩き続け、それで彼女に愛想をつかされたこともありました。

そんな性格を変えるべきだとわかっていても、簡単にはでない……。
いまの最悪の状況も、優柔不断が原因なのかもしれません。
会社の仕事でも、その性格はいかんなく発揮され、上司からはどやされ、同僚や後輩からは冷たい視線を浴びせられました。

口から零れた溜息は、熱いような冷たいような……。
はっきりしないのは僕の性格を表しているようです。

【神さんたちの内緒話】
「煮え切らない奴を見ているとイライラする。パーといってズバット決めればいいんだ」
「パーとズバットだけでは、人は生きて行けません」
「そんなことはない。俺を見てみろ。元気溌剌で暮らしているじゃないか」
「河さんが元気なのは認めますが……」

「何だよ、その含み笑いは。気持ち悪い奴だな」
「河さんの元気って、若い女の子と話すから生まれたのか、それとも、女の子と話したいという願望が生み出したのか、どちらなのかと思いましてね」
「俺のパワーは女子とは関係ない」
「そんなはずはないでしょ。声をかけても連戦連敗のときなんて、夏の陽射しに焼かれた朝顔の花みたいに萎れていたじゃないですか」
「あのときは、軽い熱中症になっただけだ」

「そう言えば、そのとき、河さんも煮え切らないことをしましたよね」
「俺は、いつも煮え切っているぞ」
「そうですか……。好みの二人の女の子を見かけて、どちらに声をかけようかと悩んでいる間に、二人に逃げられたじゃないですか」
「あれは、煮え切って、煮え過ぎて、疲れてしまったんだ」
「年寄りから、煮え切って疲れたと言われると、煮込み過ぎた煮物のようで、何か悲しい響きがありますね」
「煮物は火に掛ける時間が長いほうが、味が沁み込んで美味しくなるものだ」
「煮込み過ぎるとしょっぱいだけですよ。塩分多めは身体によくない。何事にも、適度というものがあります」

山さんは、コホンと小さく咳をしてから話を続けた。
「それに思うんですが、優柔不断がいつも悪いとは思えません。すぐに決められないのは、慎重な性格だからとも言えるでしょ」
「物は言いようだな」
「それに、選ぶという行為が楽しい場合もあるじゃないですか」
「それは否定しないが……」
「いま、女の子のことを考えたでしょ」

河さんは、ふんと鼻を鳴らしたが、頬は緩んだままだった。


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