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絵本が読めるこども食堂るるごはん

#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門

第一話 みるく紅茶色のうさぎ
第二話 あじさい色のカエル
第三話 なつぞら色の羽 

第三話 なつぞら色の羽

作 Sumiyo

さくらみる町に夏がやってきました。
桜の木には濃い緑の葉が繁って
夏の香りをふりまき
きらめく川面には
油蝉(あぶらぜみ)の吐く
ジーウ、ジーウ
という音が響いています。

『絵本が読めるこども食堂るるごはん』の
窓の外側には何本もの細長い木を並べた
町屋らしい格子がありますが、
それは長い時を経て
深みのある焦茶色になっていました。

店長さんが朝顔の鉢をいくつもこの下に置いて
育てているので、蔓は格子に沿って
くるりくるり巻きながら這いのぼっていき、
真夏になると点々と咲き始めた
海色の花は窓の飾りのようでした。

絵本喫茶室で
好きな絵本をテーブルに開いて
窓外を見ると、
格子には朝顔と風鈴。
その隙間から見えるのは輝く川です。
この風景は
夏のお客様にとても好評です。

この季節とくに注文が多いのは、
薄切りオレンジを浮かべた冷たい紅茶
「アイスオレンジティー」と
「ひやしあめ」です。
ひやしあめは
「麦芽水あめ」という
茶色い水あめを溶いた湯に
しぼった生姜汁を加えて冷やした
べっ甲色の甘くて爽やかな飲み物です。

るるごはんではひやしあめを
分厚いグラスに氷を入れて注ぐので
グラスを動かすたび、
りるりりん、
と風鈴と似た音がしました。

るるごはんの店長さんは
小学校の給食センターで働くずっと前、
都会の有名洋食店でシェフをしていました。

ひやしあめはそのとき一緒に
仕事をしていたひとに作り方を
教えてもらったそうです。

るるごはんのこども食堂は、
朝ごはんと夕ごはんだけの営業です。

絵本喫茶室もランチタイムは
忙しいのですが

昼下がりのひとときは、
店長さんもウォルナッツも忙しさから開放され、
少しだけ自由な時間を過ごせました。

今日も店長さんは、
厨房のパイプ椅子に腰かけてひと休み。

窓の風鈴が、
風でりるりりんと鳴り、
店長さんもそれに合わせるように、

氷を入れたグラスにひやしあめを注いで
音をたてます。

静かな午後でした。

いま絵本喫茶室にいるお客様は、
パサついた白髪頭のおじいさんひとり。
冷たいひやしあめを飲みながら
のんびり絵本の頁をめくっています。
洗濯しすぎて襟がのびたTシャツは
痩せた体をより細く見せました。

おじいさんは毎日午後二時にやって来ます。
そして、たった一杯だけ
飲み物を注文するお客様です。

他のたくさんのお客様と同じく、
絵本喫茶室の売り上げに少しでも
貢献することが、
こども食堂の応援に
なることを知っているからでしょう。

おじいさんのペットの鳥が
きれいな空色の羽を閉じて
絵本をのぞき込んでいます。

おじいさんの指や頬をくちばしで
つつく様子はかわいらしいのですが

おじいさんが子供の頃から飼っていた
そうですから、驚くほどお年寄りの鳥です。

おじいさんは、いつも同じ絵本作家の絵本を
読んでいました。
店長さんは、
もう何回も同じ質問をしたのですが、
今日もまた聞いてみました。
「その絵本、お好きですね」
「うん。こむぎまるおはね、親友なの」
やっぱり、いつもと同じ答えです。

絵本の作者は「こむぎまるお先生」といって、
たくさん絵本を出版している有名な絵本作家で
「駄菓子屋の野ねずみ」や「ジュゴンの住む海」など
古き良き暮らしや風景を描き、
テレビにもよく出演しておられます。

とくに『まるお先生の絵本るうむ』という
早朝のテレビ番組は人気で、
店長さんやまめちゃんはもちろん、
こぐまのウォルナッツでさえ、
顔や名前を知っている偉い作家さんなのです。
「あんな有名人とおともだちなんて、すごいですねえ」
店長さんはきのうと同じ感想を言い、
小さいワッフルをのせた小皿を
これサービスです、とテーブルに置くと
おじいさんはきのうと同じように
誇らしげに微笑みました。

おじいさんの日常はこうです。
毎日お昼すぎに鳥を連れて
商店街のお惣菜屋さんへ行き、
おにぎりや揚げ物、ポテトサラダなど
夕飯の買い物を済ませ、
きっかり午後二時に
絵本喫茶室へやってきます。

テーブルに置いた
白いビニール袋から
コロッケのパックに貼られた
50円引の割引シールが
透けて見えていて
決してお金持ちではないのだと
いうことはよくわかります。
それでもるるごはんのために
一杯だけ飲み物を注文してくださる。
店長さんは心から
いつもありがとうございますと
心の中で思いました。

絵本作家さんの話だけでなく、
「昔はジャズピアノ弾きでね、
全国で演奏したよ」
など、たくさんの自慢話をしますが
「どこまでが作り話?」
などと聞くお客様はいません。
「すごいですね、おじいさん」
と、みんなにこにこして聞いています。
まめちゃんが冗談でも嘘をついたときは
めちゃくちゃ叱る店長さんでさえ
まったく怒りません。
それどころか、
「たとえおじいさんの自慢話が
ぜんぶ作り話だとしても、
その話は誰も傷つけないでしょう?
誰にも迷惑かけてないのなら
このお店の中だけでは
楽しく聞いてあげましょう」
と、言いました。

「絵本は空想の扉だから好きな絵本を
開くとき何歳にでもなれるし、
知らない国へも遊びに行ける。
だから、るるごはんの絵本喫茶室
の中だけでは、
夢のある自慢話ならたとえ空想でも
作り話でも、お客様の好きに
話していいと決めているのよ」

あるとき、絵本喫茶室で
鳥がウォルナッツに話しかけました。
「すまぬな、ウォルナッツ」
「どうかなさいましたか?」

おじいさんは自分のすぐ近くで、
まさか鳥とこぐまが会話しているなんて
夢にも思わず黙って絵本を読んでいます。

鳥は、
「ブンイチ殿の話を飽きもせず、
ちゃんと聞いてくれて
まことに感謝しておる・・・。
一度、お礼を言っておかなくては
と思っておった。
店長さんにもよろしく申し上げておくれ」
と、頼みました。
「いいえ、わたくしなど、
まったく大丈夫でございますよ。
お話、楽しく聞かせていただいております。
しかし店長さんには、ご自分でお伝えになれば
よろしいのに・・・」
ウォルナッツが言いました。
鳥は人間の言葉でお話しするのが実は上手なのです。
「むろん、われわれは、
人間の言葉を話すことなど容易である。
英語であろうとフランス語であろうとな。
だが軽々しく話しかけることが
よいことだとも限らんぞ。
人間と普通に会話できることが
おおやけになれば、
朝から晩まで飼い主殿に本当か作り話か
わからぬ自慢話を聞かされ、
夜中までその話相手をさせられることに
なるやもしれぬ」
鳥は羽を広げて言いました。
ウォルナッツは感心して、
「なるほど。だから人間の前ではピピピ、
としかおっしゃらないのですね。
さすがは長く生きておられるだけの
ことはあります。
思慮深いことでございます」
と、頭を下げました。
「ウォルナッツよ。自慢話ばかりする人間はな、
孤独なのだ。そう覚えておくとよい。
自分に注目を集めたくて、偉く見せたくて、
ついそうなってしまうだけなのだ。
さびしいひとびとなのである」
「はい、承知しております。店長さんもよく
そのようにおっしゃいますから」
「けれどもウォルナッツ。『こむぎまるお氏が親友』
というのは嘘には違いないが、会ったことがある
というのは、ほんの少し本当なのだ」
「ほんの少し・・・?」
「ブンイチ殿が小学一年の夏のことである。
たったふた月ほどだったが、
こむぎまるお氏がこの町に引っ越して来られてな。
隣のクラスであった。
まあそれだけのことだが。
六十年以上前の話だ。
夏が終わるとまたすぐ引っ越して遠い学校へ
転校されたので、それからは一度も会っておらず
連絡もとっておらぬ」
「隣のクラスにおられたのは二ヶ月だけで、
その後は六十年以上、一度も会われてないので
ございますか?」
「そう。会ってないどころか、この六十年間、
手紙も電話も一度たりともやりとりしたことがない。
そんなのは親友とも、ともだちとも言わんだろう?
だがなウォルナッツよ。
人間というのは一度でも会ったことのある
有名人のことは決して忘れない。
相手がまったく覚えてなくても、
なぜか親しいような気がしてしまう。
その上、まるお氏はしょっちゅうテレビに
出ておられるのだから、
こちらは親友のような気になる。
しかし、相手が何ひとつ覚えてないことは
誰よりも自分が一番よくわかっているものだ」
「そうでしたか」
ウォルナッツは深くうなずいて、
(これからもおじいさんには
気持ちよく自慢話をしていただこう。
たとえ作り話だとしても。
るるごはんの絵本喫茶室ではよいのです。
そういうあたたかい場所なのですから)
と、るるごはんを誇らしく思いました。

一週間後、るるごはんは大忙しです。
朝、テレビ局から連絡があり、
お昼過ぎに三十分ほど店内を撮影に
使わせてほしいと頼まれたからです。
どうやら予定されていた本屋さんの隣で
工事が始まり、音がうるさくて撮影できないと
昨夜遅く判断されたからのようでした。
るるごはんでテレビ局の撮影なんて初めてで
それに急すぎて、店長さんは
少し悩みましたが、
テレビ局で雇われているディレクターさんに
さらに雇われている若いスタッフさんが
とても困っている様子だったので、
「三十分くらいならいいですよ」
と、内容もよく確かめずに
引き受けてしまったのです。

撮影は午後二時からで、
こむぎまるお先生の新作絵本の発売記者会見
であることが直前になってわかりました。
まるお先生は、新しい絵本が完成すると
必ずどこかの本屋さんで
新作絵本のインタビューを受けるのです。
「えっ。あの有名な先生が
午後二時にいらっしゃるですって!?」
本来ならお店にとって光栄で、
うきうきするようなお話なのですが、
店長さん、まめちゃん、ウォルナッツは
顔を見合わせ青ざめました。
なぜなら午後二時といえば、
おじいさんがやってくる時間で
はありませんか!

おじいさんが先生と会ってしまう・・・。

そんなことになったら、
先生がおじいさんのことを
まったく覚えてないことを、
つまりまるお先生とは親友でも、
ともだちでもないことが
みんなにバレてしまう・・・。

いいえ。

そんなことは、はじめからみんな知っています。
でもおじいさんは、みんなの前で
きっと恥ずかしい思いをするにちがいありません。
もう絵本喫茶室には二度と
来なくなってしまうかもしれない・・・。
「おじいさんを守らねば!」
ウォルナッツが焦って言うと
「ふたりが会わないようにする方法は?!」
まめちゃんが腕組みして考えました。

しかしすでに午後二時近くになっていて、
撮影スタッフさんたちが
絵本喫茶室に入ってきました。
カメラや照明機材を入れるため、
戸は開けっ放しになっています。
「本日は、よろしくおねがいしまーす」
スタッフさんたちは明るくあいさつすると、
てきぱきと撮影準備をはじめました。

店長さんは大声で、
「きょうは急にお店がお休みになったと、
おじいさんに伝えてきて!」
と、まめちゃんに叫びました。
考えているヒマはありません。
そろそろおじいさんが来る時間なのです。
たぶん、もう近くまで来ているはず。
「わかった! 急ごう、ウォルナッツ」
まめちゃんとウォルナッツは
スタッフさんたちの間をすり抜けて
大きく開いた戸口から勢いよく外へ出ました。
店の外には磨き上げられた黒い車が止めてあり、
運転手さんがまず下りて恭(うやうや)しくドアを開けると
中から悠然とまるお先生が降りました。
専属の運転手さんがいるなんて
さすがは有名人ですね。
まるお先生はゆったり歩いて絵本喫茶室に入りました。
テレビで見る印象と変わらず
ふっくらとしており、上品なスーツを着て
見るからに裕福そうなお年寄りです。

きょうもよいお天気です。
桜の木々の青葉一枚一枚に陽射しが反射して
目が痛くなるほどまぶしく、
山では半透明の青もみじが繁って
風が吹くたび
優雅にざわめいています。

川沿いの道を、くたびれたシャツを着た
おじいさんがやってきました。
夏のさくらみる町の素晴らしい風景と香りを
体全体で味わうように、
ときおり腕を伸ばしたり
深呼吸したりしながら歩いています。
鳥はその前を、
とと、とと、ととと。
楽しげに散歩中。
あと少しで
『絵本が読めるこども食堂るるごはん』に
到着します。

(お惣菜屋のコロッケが売り切れだなんて
きょうは珍しい日だなあ)
そんなことをのんびり考えていたとき、
まめちゃんとウォルナッツが緊張した顔で
絵本喫茶室から走り出てくるのが見えました。
「ふたりして、どうした?」
「おじいさん!きょうは絵本喫茶室はお休みなんですっ!」
まめちゃんの額に汗が吹き出します。
「えっ、お休み?そりゃまた珍しい」
おじいさんが立ち止まりました。
けれども鳥は、
とと、とと、ととと。
マイペースな早足のまま
開け放した入り口から
するりと店内へ。
「あ、待て。こら、待て。待て・・・」
おじいさんも、まめちゃんとウォルナッツの間を抜けて
絵本喫茶室に入ってしまいました。
「わーっ。お店に入っちゃった! どうしようウォルナッツ」
まめちゃんが両手で頬を抑えると、
ウォルナッツは、
「わたくし、このウォルナッツが、いますぐ外に出るよう
説得してまいります! おまかせください、ぼっちゃま」
そう言って走ってお店に戻りました。
絵本喫茶室のテーブルに先生が着席して
自分の新しい絵本を手に持ち、撮影用の照明で
おでこがつるりと光っています。
インタビューする記者さんも用意ができて、
さあ、いまからカメラスタート、
というタイミングで鳥が入ってきました。
それをよれよれシャツのおじいさんが
追いかけて入ってきます。
その後ろにはウォルナッツとまめちゃんが。

鳥?
おじいさん?
そして・・・
えっ!くま?!
小学生?
スタッフさんたちは手を止めました。
店長さんはあわてて
「みなさーん、大丈夫です!鳥はお客様のペットです。
そしてこぐまはうちの店員です。ご安心ください~」
と叫びました。
鳥を追いかけるおじいさんの肩を
いちばん若いスタッフがつかみました。
「あのォすみませんっ、これからこむぎまるお先生の
撮影なんです。鳥をつかまえたら和室の奥へ行ってください。
カメラに映らないようおねがいしますっ」
と、言いました。
「えっ、こむぎまるお?!」
おじいさんはぴたりと足を止め、
絵本喫茶室に座っている先生に、
ようやく気づきました。
急速に頬がこわばりくちびるが白く乾き、
両手で顔を隠すと痩せた体をますます小さくして、
「い・・・いや、わしはあの・・・
鳥をつかまえたらすぐ出ていきますんで
申し訳ないことです」
若いスタッフさんに
すみません、すみません、
と小声で言いながら白髪頭を下げ、
撮影機材の後ろへそっと移動して、
できるだけ先生から見えないよう
絵本喫茶室のすみっこに体を縮めました。

まるお先生とは六十年以上会ってない、
親友どころかともだちですらない、
ということは誰よりも
ブンイチおじいさん本人が一番わかっているのです。
おじいさんは背中を丸め、耳を赤くして、
本当に恥ずかしそうです。
ウォルナッツとまめちゃん、店長さんは
胸がしめつけられるようなせつない気持ちで
おじいさんの痩せた背中を見つめました。
とにかく一秒でも早く、
お店の外に出してあげなければ・・・。

とと、ととと。
床を右へ左へ走っていた鳥は、
羽を広げて飛び上がり、
なんとまるお先生の薄くなった頭の上に
着陸しようとしました。
「うわっ、やめろっ」
若いスタッフがあわてて追い払おうと
駆け寄りましたが、先生は落ち着いていて、
慣れた手つきで鳥を手に乗せ、
美しい空色の羽をなでました。
それからすっと立ち上がって
飼い主を目で探し、
絵本喫茶室のすみっこでうずくまっている
おじいさんを見つけて、
「ブンちゃん!」
と、大きな声で呼びかけました。

緊張して固まった空気を溶かすように、
開け放した戸口から
夏の風が川音と一緒にざあと入ってきました。
「まるおちゃん・・・」
おじいさんが顔を上げ、ゆっくり立ち上がり
先生を見つめました。
先生はおじいさんに歩みよると
鳥を返して微笑みました。
「お・・覚えてたの? ぼくのこと。まるおちゃん」
「あたりまえだよ。これ、ブンちゃんの鳥だもの。
なつぞら色の羽、こんなきれいな羽の鳥、
忘れるわけない。
さくらみる町でこの鳥を飼っているっていったら
ブンちゃんしかいないじゃないか」

撮影が無事終わってスタッフさんたちが
帰ってからも、先生とおじいさんは
絵本喫茶室のテーブルで長いこと
楽しそうにおしゃべりしました。
「ちょっとの間だったけど、
よくそこの川で遊んだねえ。ブンちゃん」
「うん。まるおちゃんはいつも絵を描いていたよね。
絵が上手だったもんねえ」
「ブンちゃんの鳥は、さくらみる町の歌が
上手だったよね。あんなに歌のうまい鳥はいないよ。
あの歌声に感動してたくさん鳥を飼ったけど、
やっぱりブンちゃんの鳥がいちばんうまかったなあ。
こんどあの曲をオルゴールにして鳥にプレゼントするね。
そうそう新しい絵本はブンちゃんにプレゼント」
先生は新しい絵本をおじいさんに手渡しました。
絵本の表紙には
鮮やかな空色の鳥が描かれています。
タイトルは
『川のある町で聴いたなつぞら色の鳥のうた』
まるお先生がこの町で過ごした短い夏を
描いた絵本でした。
だから、この町の本屋さんで
撮影したかったのですね。
おじいさん同様、先生にとっても、
さくらみる町で暮らした美しい夏は
忘れられない思い出なのでした。

宝物のような楽しい記憶を
お互いたいせつに持っていたならば、
毎日おしゃべりしなくても、
たとえ何年離れて暮らしても、
会うとたちまちあの頃のおともだちに
戻れるものです。

「絵本が読めるこども食堂るるごはん特製コロッケ定食をどうぞ。
店長さんからのサービスです」
まめちゃんとウォルナッツが、二人分の定食を運んできました。
おじいさんが商店街で買う値引品のくたっとしおれた
コロッケではありません。
揚げたてサクサク、牛肉とじゃがいもたっぷりの
まあるいコロッケです。
ごはんと野沢菜のわさび漬け、
豆腐とわかめのお味噌汁ときんぴらごぼう付き。
濃いめの緑茶はウォルナッツが心をこめて入れました。
鳥がまめちゃんとウォルナッツにだけ
聞こえる小さな声で
まるお先生の想い出の歌を歌ってくれました。
繊細で透明感のある歌声です。
「長生きするって、りっぱなことでございますね」
ウォルナッツは鳥にそう言うと、
やさしい気持ちでふたりのお年寄りを眺めました。

第三話 おわり

第一話 みるく紅茶色のうさぎ
第二話 あじさい色のカエル
第三話 なつぞら色の羽