愛しい人よ、ずっとおでこにキスをして

何年かぶりに前髪を伸ばしている。
今の長さは少し鼻の先につくくらいだろうか。
元々顔立ちが幼いので、大人に見られたくて伸ばしているという理由が一応ある。

23歳くらいの頃、髪の毛の色が真っ黒で前髪が短いときがあった。その日は休日だったので、スナック菓子とお酒を買うと決めていた。履き古したジーンズとやっすいTシャツで近くのコンビニに行き、ハイボールの缶とポテトチップスをカゴに入れてレジに向かった。
すると、店員さんがお酒のバーコードを読み込もうとした瞬間にわたしのことをものすごい速さで二度見し、「免許証などの年齢を確認できるものはお持ちですか?」と聞いてきたのだ。
当然成人している。聞かれた瞬間、情けないような恥ずかしいような。とにかく今すぐここから逃げだしたい気持ちになった。免許証は顔写真があるから嫌なので、保険証を見せてそそくさと店を出た。コンビニで年齢確認をされたのはこれで二回目だった。

今までの人生、嫌でも幼い顔立ちをしているのだということを自覚させられる出来事が多かったので、そろそろ自分がそういう風に周りに見られているということは理解してきた。
別に若く見られること自体は嫌なわけじゃないけど、なんだか悔しい。
おそらくわたしがまだ20代だからなのだろうか。


正直、前髪は切りたい。切ってしまいたい。
似合っている気がしないし、なんせセットの仕方が難しい。最近は韓国の"ヨシンモリ"というのが流行っているらしく、ネットで動画を見ながらカーラーを巻いてやってみたが、わたしの髪の毛は他人よりすごく、いやものすごく扱いづらいのであまりうまくいかなかった。

それでもわたしの恋人は前髪が長い方がいいと言う。そんなことを言われたら、伸ばしておこうかな?なんてことを思うじゃないか。
前髪を伸ばしておでこを出すようになってから、恋人がおでこにたくさんキスをしてくれるようになった。わたしはこのキスがたまらなく愛おしい。おでこにされるのって、なんだかとても愛されている気分になる。満たされる。

あぁ。前髪を切ってしまうと、もうおでこにキスをしてくれなくなるのかな。そんなことを考える。
だからわたしは今日も、邪魔な前髪を伸ばしている。



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