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言語化できない私の性質に答えをくれる。「楽よりも素敵を。自由を。」

「楽よりも素敵を。自由を。」

「楽よりも素敵を。自由を。」(「リデルハウスの子どもたち」『河出書房新社』佐原ひかり(2023年4月))

良いことばだ、好きなことばだ、と思った。これは、河出書房新社の雑誌『スピン』の第3号、佐原ひかり「リデルハウスの子どもたち」で、主人公・アモニカが心の中で思ったフレーズだ。

『スピン』は、河出書房新社創業140周年カウントダウン企画として、2026年まで計16号出版する新雑誌である。紙にこだわった雑誌で、毎号異なる紙が使われているのも、紙好きの私には嬉しいポイント。

本が売れないと言われる時代に、重版がかかり、書店で売り切れてしまうこともある程の人気ぶり。だから私は年間定期購読をしている。

さて、「リデルハウスの子どもたち」は、創刊号から連載されている小説で、身寄りのない主人公・アモニカが、謎の篤志家・フライデーの援助により、名門校「リデルハウス」に通うことになったところから物語が始まる。

新しい環境に胸を高鳴らせるアモニカだが、唯一毎週金曜日だけは憂鬱な日であった。金曜日にフライデーへの手紙を書くことが援助の条件であり、「ラヴ」と呼ばれる特別な才能を持った子たちだけが集まるクラスに関する情報を伝えなくてはならないのだ。

世界名作劇場あたりで見たことのある設定かと思いきや、「ラヴ」という謎の生徒集団という+‪αの要素もある。また、 アモニカの視点だけでなく、「ラヴ」の生徒の視点、「フライデー」の視点でも物語が進行するから面白い。読者だけが、この世界のすべてを知っていて、主人公たちの箱庭のような世界を、息を殺して上からそっと覗き込んでいるようで。

余談だが、私が幼少の頃にテレビで『あしながおじさん』の再放送がされていて、毎回楽しみにしていた。いつしか両親もハマりだし、レンタルビデオ屋さんに駆け込み、ラストまで一気見した記憶がある。

さて話を戻そう。アモニカは、とても真っ直ぐで素直な性格の女の子だ。その眩しいほど真っ直ぐな性格が故に第3号では、「ラヴ」の生徒の情報をフライデーに伝えることはせっかく仲良くなれた友人を売っていることになるのではないか、でも身寄りのない自分を学校に通わせてくれた恩人に不誠実ではないか、と葛藤する。そしてアモニカがその葛藤に決着をつけた時、心に思ったフレーズが、「楽よりも素敵を。自由を。」だった。

「素敵」だから挑戦したい

よくある言い回しに「迷ったら、困難な道を選べ」というのがある。正直いうと、私はこのことばが苦手だ。自分の好きな方でも、魅力的な方でもなく「困難な道」だからという理由で、選択をしているのではないか、と思う。ただの格好つけではないか、なんて思ったりする。でも「楽よりも素敵を。自由を。」は、自分の気持ちを大事にしている感じがする。だから好きなことばだと思った。

人からストイックだと言われる。「なんでそんなに忙しくするの?」って。ただでさえ大学が忙しいのに、加えて委員会活動やサークル活動、バイト、時間があれば講演会やセミナーに参加したり…と、予定を詰め詰めにしてしまう。常に暇な時間はないし、疲れ果ててしまうこともある。でも、それらのことが魅力的に感じるのだ。挑戦したいと思ってしまうのだ。直観で「面白い」「好きだ」と思ったら、自分が飛び込んでみる以外の選択肢はない。決して、困難そうだから選ぶのではない、「素敵」だと思うから選ぶのである。つい忙しくしてしまうのは何故なのか、言語化できない私の性質に答えをくれたのが、「楽より素敵を。自由を。」だった。

目が回りそうな日々の中で、今日も私は「楽よりも素敵」を選ぶ。

↓『スピン』(河出書房新社)の公式Twitter
第4号は、6/27発売予定。

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