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#2~序章~悪夢のゴールデンウィーク

落ちるところまで落ちた私も、いい意味で開き直ることができ、
一度死んだつもりで働くことにしました。

銀座店にはランチが無く、夜のみの営業です。
17時にオープンして、閉店は26時でした。

ランチが無いのでだいぶ楽そうですが、とんでもありませんでした。
最初は余裕だと思ってましたが、
ランチが無い分仕込みの量はすさまじかったです。

とにかくキッチンが以上に狭いです。
若い子は他の人が来る前にオーブンを使い終わらないと行けないので、
7時とかに出勤してました。

冷蔵庫も少なく、食材をしまうだけでもかなり時間がとられます。

つまり席数に対して調理場の設備が十分ではないので
大変ということになります。

シェフも昔ながらの方で、設備が整っていないからといって
料理を合理的に考えたりしません。

繁盛店ということもあり、なんとか1日を終えるのに精一杯でした。
ただ一緒に働くスタッフには恵まれました。
落ちこぼれの私を温かく迎えていただきとてもやさしくしてくれました。

完全に自信を失っていた私もなんとか働くことができました。

あっという間に4月も終わり、ゴールデンウィークを迎えます。
大型連休は業者も休みになるので仕込みの段取りをうまくやらないと、
大変なことになります。

お店は日曜日が休みということもあり、
ゴールデンウィークは暇だと言われました。

しかしよく食材を切らしてしまい怒られていた私は、
とても慎重になっております。

万が一ここでミスを犯してしまったら、
せっかくリセットされた信用をまた失うことになります。
それだけはなんとしても避けなければなりません。

なので私は暇だと言われましたが、多めに準備をしようとしました。
以前の私なら考えもしない発想です。

だがシェフにそんなに用意しなくてもいいと言われました。
ロスになるからと。

ロスになれば原価率が上がってしまい、
シェフも困るので言い分はわかります。

しかしこちらも慎重になっているので安全にいきたいので、
用意させてくれと交渉しました。

最初は笑っていたシェフも私がしつこく用意したほうがいいと交渉していたら、だんだん機嫌が悪くなって来ました。
空気も悪くなってきたので私も引き下がり、
シェフの指示にしたがうことにしました。

ゴールデンウィーク初日を迎えました。
予約も半分ほどしか入っていなくて、たしかに言われた通り暇でした。
もしかしたら早く帰れるかもと浮かれていました。

営業が始まると悲劇が起こります。
何故か予約なしのお客がどんどん来るんです。

あれよあれよと席は埋まりました。
当然準備はしていません。

なので料理が全く出なくなりました。
私は心の中で「だから言ったじゃん」と思ってました。
私の言った通りにしておけばもっとスムーズに出せた訳で、
暇だとかとんだデマです。

もう準備していたものはなくなり、
食材を保管庫まで取りにいかなければ足りない状況になりました。

そろそろシェフも手伝ってくれよと思っていたところ、
予想だにしない展開となります。

「なんで準備してないんだよ?」
え?

いやお前がするなと言ったのでは?
まさかの責任なすりつけです。

言い返したいところですが、シェフの血走った眼を見たら、
「すいません」としか言えません。
ちなみに前回の空手シェフもなかなかでしたが、
今回のシェフはそれ以上の武闘派です。

精神的には中学生のヤンキーなので、こうなると会話できません。
というか反抗すれば、無条件で殴られます。
とても怖いです。

完全に逆切れですが、私は胸ぐらをつかまれ料理を早く出せと
凄まれました。

胸ぐらをつかまれた状態では調理は不可能ですが。

この時に私には人権がなく、どんな理不尽も
受け入れなければいけないと悟りました。

翌日からは大量に準備して営業に臨んだことはいうまでもありません。

こうして正式に奴隷ということを認識して働くことになりました。




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