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君色に染まるために髪を染めた

 初めて好きになったアイドルは、青色担当だった。当時小学生だった私はメンバーカラーなんていう概念がわからず、「青色を担当するの…?どういうこと…?」なんて思っていたのだが、しばらくするとその「メンバーカラー」という概念にどっぷり浸かることになる。
 メンバーカラーは、そのアイドルのもうひとつの化身みたいなものだと思っている。1番手っ取り早く、かつ激しく主張しすぎないで、「この人が好きです」と周りに示せるものがメンバーカラーだ。ライブ会場で、推しの顔を全身に纏わなくても、少し、自分の担当カラーを入れるだけで、「あの人は〇〇さんが好きなんだな」と思わせることができる。
 また、色には不思議な力があると思っていて、リーダー的存在には赤、知的な存在には青、元気な存在には黄色、大人っぽい存在には紫、みたいなイメージが人によってあると思う。メンバーに担当カラーが振り分けられた時、その色はただの絵の具チューブから出した赤でも、パソコンのフォント変換で出てくるカラーチャートの青でもない、メンバーの人柄や、キャラクターなどまでも包括した色になっていくのだ。

 そこから私の持ち物は全てが青色になっていった。新しく買ったワンピースも青、新しく買った鞄も青、ヘアアクセも青、ハンカチも青、スマホケースや手帳に至るまで全てが青かった。でもそれは単なる「青」ではなくて、「彼の全てを包括した色」として私の中で機能していた。

 だから髪を染めようと思った時、私はいつも大好きな彼のメンバーカラーを思い浮かべていた。
 髪に綺麗に青色を入れるためには、ブリーチを2回はしないといけない。私はそのためにお金を貯めて、地毛の黒髪を活かしつつイヤリングカラー(耳の後ろの髪の毛だけカラーすること)をした。ブリーチをするのは髪の毛が痛むと分かっていながらも、そうしてでも青色にしたかった。
 ブリーチしている間、若干の頭皮のヒリつきを感じながら、もうすぐ青くなれる、とワクワクしたのを覚えている。真っ青なカラー剤を美容師さんが持ってきた時、彼の色に染まれると恍惚したのを覚えている。体の一部を彼の色に染めるということは、彼に身を捧げる1番ライトな方法だと思っていた。

 髪が青くなった。耳の後ろだけ青くて、髪をかきあげると青い髪が見える。まるで彼が後ろからずっと見守ってくれてるかのような、耳元で時々囁いてくれているかのような、そんな安心感とときめきで心がドキドキした。友人に、「やっぱり青が似合う」と言われた時、「彼にお似合いだよ」と言われているみたいでとても嬉しかった。

 今は色が落ちてエメラルドグリーンのような色になっている。次に青を入れるときは、残っている青色も相まってきっともっと青色が濃くなる。
 もっと君に近づく。もっと君色に染まるんだ。

#髪を染めた日

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