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留学のための準備とは

クラシック音楽を学んでいる人なら誰しも、留学については一度は頭をよぎったことがあると思います。

ここで多くの人が勘違いしていることがあります。それは、留学さえすれば演奏が上手になる。海外で暮らせば語学もなんとかなる。ということです。残念ながらそれは希望的観測に過ぎません。

海外留学さえできれば良い、という人であれば、とりあえず行って思い出づくりをするのも良いかもしれません。その場合は、レッスン代や授業料を払ってくれるお客様のような扱いをされて、日常会話ができるくらいの簡単な語学を身につけて、2〜3年で帰国する、というのがよくあるパターンです。

『新しい場所に行くとき、それが大学進学や海外留学であったとしても、その場に行って対等な立場でいられるだけの実力を身につけて行かなければ、行く意味はない。』

これはイリヤンがいつも生徒さんたちに言っていることです。これはあくまで、留学を通じて自分自身が成長していきたい、その後の仕事や演奏活動に繋げていきたいと願っている場合です。

そのために必要な準備とは、演奏技術や語学はもちろん、コミュニケーションスキル、マインドセットまで多岐に渡ります。

『君は留学をして一体何を学んできたんだい?』

これもイリヤンがよく生徒に言っていることです。今までに海外で音楽を学んだ経験のある生徒さんたちをたくさん見てきましたが、音楽家として自立できるまでの学びを経験してきていない人がほとんどでした。

たとえ有名大学に進学しようとも、どこかに属しているというだけで演奏が上達するということはありません。一度大学に進学してしまえば、基礎を丁寧に取り組むような時間はありません。次から次へと課題が与えられて、それをこなすだけで精一杯です。

教える側にとっても、基礎を教えるということは、膨大な時間と労力を要します。それだけのエネルギーと時間をかけてくれる先生は大学にはいません。大学や大学院に入ってしまえば、基礎はできているという前提で話しは進んでいくのです。

ここで言う基礎とは、様々な音楽表現を可能にするための技術のことです。彩り豊かなサウンド、アーティキュレーション、ダイナミクス、ソルフェージュ能力まで、全てです。

準備ができていないままに留学してしまうと、大きなコンプレックスを抱えてしまうことになります。周りの人たちへ対する羨望が膨らみ、自信が失われ、自分を見失うことだってあります。

『日本人としての精神を大切にしなさい。海外に行って言動までその国に染まってしまうようではみっともない。日本人であることに誇りを持ちなさい。』

これもイリヤンの言葉です。海外に対する憧れから、周りの人たちが凄い人に見えて、自分なんてと萎縮してしまう人もたくさんいます。そうならないためにも、演奏の技術を習得した上で、健やかな自信と共に新天地へ行くということが大事なのです。

自己肯定感が低いと、必ずどこかで壁にぶつかります。ある一定のレベルまではいけても、そこから先へは進めなくなります。

日本で流されるままに、周りに合わせて言われたことをやってきた人たちにとっては、マインドセットを変えなければ、海外で学ぶことも演奏をしていくことも難しいでしょう。その先へ行くためには、心のあり方を点検するように、日々自分と向き合っていかなくてはいけません。

一方的に教えてもらおうという受け身な姿勢でいたり、内向的でコミュニケーションがとれないとなると、教えてくれる先生を見つけることも難しいでしょう。

コミュニケーションに必要なツールである言語については、数年かけて準備しておくことも大事です。語学は積み重ねです。留学して語学が伸びていく人というのは、それ以前の積み重ねをしてきた人です。

ただ海外留学というものを経験さえできれば良いのか。それとも海外留学を通じて、国際的に活躍できるような人になっていきたいのか。目的によっても準備の仕方は変わってくると思います。


私自身の話をすると、語学の勉強は大学4年間続けていました。けれども、演奏の基礎技術であったり、コミュニケーションスキル、マインドセットなどについては準備不足でした。それらの必要性にも気づいていませんでした。

結局留学はしたものの、大学院では自分の器の限界もあって、多くを受け取ることはできませんでした。

私の場合はそこで諦めて帰国するのではなく、自分と向き合ったり、良い先生との出会いを求めて行動したことで、なんとか道が開けました。けれどもその分、時間がかかってしまいました。

だからこそもっと早くに、大学では基礎技術を学べないという事実や、マインドセットの重要性に気づけていれば、無駄な時間を過ごさずに済んだな、とも思うのです。

とは言っても、人間誰しも困難に直面しなければ、本気で学ぼうとは思えないものです。早めにその大切さに気づいて準備を始められればいいですが、なかなかそのスイッチが入らない人は、困って初めて、やるしかない!と一念発起するのも良いと思います。

いずれにしても、留学生活を有意義なものにするためには、相当な準備が必要不可欠だということです。


最後まで読んでくださってありがとうございます。

今日も良い1日を😊

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