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全国リビングラボネットワーク会議の開催に向けて


 大牟田リビングラボチームのポニポニCoデザで、2022年3月14日(月)開催の第4回全国リビングラボネットワーク会議を主催することになりました。”会議”とつくので研究者の集まり!?と思われるかもしれませんが、企業や自治体で共創に取り組もうとする方、取り組まれている方が多く参加されるイベントです。できるかぎりインタラクティブで開かれた会にしたいと思っていますが、規模も大きい会なので、事前に感想やフィードバックをいただくために、このページで問題意識や対話で深めたいことを書いてみたいと思います。

連携・共創の仕組み(リビングラボ)に対するニーズの変化  

 日本の中で活動は増えつつあるものの、多くの人にとっては「リビングラボ」という言葉はまだ広まっていないように思います。しかし、言葉は知らなくても、SDGs・ウェルビーイング・サスティナビリティ・COVID-19の影響などにより新たな価値観が生まれてきたことで、これまでの「連携」の難しさを感じている人や、それとは違う「共創」のあり方を実践している人が増えてきています。

 たとえば、A社の技術を活用しB社が新たなサービスに仕立てるような企業間連携は、実現する価値よりも、そこで使われるリソース(技術)を組み合わせた手段の実現性に主眼が置かれたプロセスです。しかし、SDGsの「誰ひとり取り残さない社会」のように実現する価値が念頭に置かれる場合、それぞれの役割を組み合わせて連携できることは限定的です。一度、役割を横に置いて、価値の実現のためにどんな手段が必要なのかをゼロから考える「共創」が必要になります。

リビングラボの”これまで”

 リビングラボはもともとICT技術の検証のためにはじまりましたが、その概念に欧州の参加型デザインの実践が交わり,生活者と提供者が長期的に関わり合いを持ちながらデザインを進める仕組みが主題になってきました[1]。 
 日本では2010年ごろからイノベーション施策の一環として海外のリビングラボ事例が紹介され、最近では、経産省、厚労省、大阪・関西万博をはじめとして、60以上のプロジェクトがリビングラボの知見を活用しはじめています[2]
 その流れを受けて2018年より、日本各地で協働・共創に取り組む関係者が一堂に会し、共創の仕組みであるリビングラボについて知見交流やネットワーキングをする機会として、「全国リビングラボネットワーク会議」が始まりました。

・第1回テーマ:「持続可能なリビングラボの発展に向けて~共創の仕組みを考える」
・第2回テーマ:「日本版リビングラボの確立へ向けて~リビングラボの質を高めるには~」
・第3回テーマ:「日本ならではの風土・文化や地域の特性に合った「共創」の質を高めるためのリビングラボの方法論確立に向けて」

全国リビングラボネットワーク会議のテーマ一覧

 これまでは「リビングラボ」の仕組みの理解や、日本の特性に合った実践のあり方がテーマとなってきましたが、一方で、先ほど述べたように、連携・共創の仕組みに対するニーズの変化を受けて、単純な連携では突破できない状況が生まれつつあります。新たな価値観や目的に対して、どのような形であればそれが実現できるのかを、個人や組織をまたがって試行錯誤する。そのような形の共創が注目を集めています。そして、リビングラボの方法論も、人々の価値観や共創の目的が大きく移り変わりつつある中で、捉えなおされるタイミングがきていると考えています。

”これから”のテーマ「社会変革を実現するリビングラボ」

 そこで、第4回となる今回は「社会変革を実現するリビングラボ」をテーマとしてみました。
 社会変革と書くとたいそうな響きがあり、自分とは関係ないと思う人もいるかもしれません。しかし、その一方で、「共創活動をやっているけど、意味があるのか?」、「地域が変わっていけているのか?」、「企業として社会に貢献できているのか?」などの悩みを抱えながら、という人も少なくありません。 

 仮説検証型リビングラボ・仮説探索型リビングラボといういい方もありますが、仮説を検証する・エビデンスを収集するアプローチと、あらたな仮説を探索的に見い出すアプローチでは方法論が異なります。
 社会課題解決の文脈でいえば、わかっているシステム(系)の中でサービス開発に取り組むのか、そのシステムの外との連環も含めて全体性のあるシステムと捉えて活動するのか、では、システムの性質が異なるため違った方法論が必要です。
 また、価値が多くの人と共有できている既存の意味の領域で取り組むのか、価値が明示的になっていない新しい意味に向けて活動するのか、でもめざす価値の性質が異なるため、異なる方法論[3]が提案されています。

 そこで、方法論の狙いの違いを明確する意図で、以下の類型を作ってみました。リビングラボの類型には、主体を軸にしたLeminenの類型[4]や活動内容を軸にしたSchuurmanの類型[5]が提案されていますが、今回は、目指すシステム・価値の性質を軸に類型しています。

図:リビングラボの類型

 そして、今回の会議では「社会変革を実現するリビングラボ」をテーマに、右上の領域を意識した実践をされている方々を登壇者としてお呼びし、対話を深めていけたらと考えています。

「社会変革を実現するリビングラボ」について語る6人の登壇者

 長くなってきたので、一旦、登壇者や基調講演・対話セッションのテーマを紹介して締めたいと思います。

■第一部 基調講演 「これからの社会デザインに向けた日本の共創アプローチ」
 公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会、一般社団法人 Studio Policy Design 羽端大氏
■第二部 対話セッション
【対話セッション1】事業やサービスを通じて社会変革を実現するために
(ショートトーク)
 ・Jessie Jeongju Seo氏(Eisai Korea Inc.)
 ・水野恵理子氏(株式会社エヌ・ティ・ティ・データ)
(対話セッション)
 ・モデレータ:木村篤信氏(株式会社 地域創生Coデザイン研究所)
 ・パネリスト:羽端大氏、Jessie Jeongju Seo氏、水野恵理子氏 

【対話セッション2】社会変革を実現する地域と企業の協働のあり方
(ショートトーク) 
 ・原口悠氏(一般社団法人 大牟田未来共創センター)
 ・今林知柔氏(Co-Studio株式会社)
 ・松浦克太氏(株式会社 地域創生Coデザイン研究所)
(対話セッション)
 ・モデレータ:原口悠氏
 ・パネリスト:今林知柔氏、松浦克太氏

 基調講演では、「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」をコンセプトとして活動されている大阪・関西万博協会から羽端さんに、政策デザインの文脈も踏まえながら、構造転換に向かうための共創のあり方についてお伺いします。
 対話セッション1では、Eisai KoreaのJessieさんとNTTデータの水野さんから、企業という手段を活用しながら社会変革をめざす実践についてお伺いしつつ、その難しさや仲間づくりについて深堀りできたらと思います。
 そして、最後の対話セッション2では、大牟田リビングラボで協働したことのあるCo-Studioの今林さんとCoデの松浦さんとともに、ポニポニの原口さんのモデレートで、地域と企業の協働のリアリティや乗り越え方についてお話していただく予定です。

 ここまで駆け足で、問題意識や今回のセミナーのテーマについて書いてきました。開催まで時間がありますので、気になることや、当日登壇者に聞きたいこと、対話で深めてほしいトピックがありましたら、お気軽に感想やフィードバックをいただけるとありがたいです。

[参考文献]
[1]木村ら(2018)社会課題解決に向けたリビングラボの効果と課題, サービソロジー5巻 3号,pp.4-11.
[2]木村(2021)リビングラボの可能性と日本における構造的課題, 調査資料2020-6 国立国会図書館調査及び立法考査局.
[3]Verganti,R. 2009(2012) Design Driven Innovation, Boston: Harvard Business Press, (ベルガンティ, R. 「デザイン・ドリブン・イノベーション」佐藤ら訳 同友館)
[4]Leminen, S. et al.(2012) Living Labs as open-innovation networks, Technology Innovation Management Review, Vol.2 No.9,pp.6-11.[5]Schuurman,D. et al.(2013) A fourfold typology of living labs: An empirical investigation amongst the ENoLL community, 2013 ICE & ITMC, pp.1-11.


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