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SF創作講座6期 第4回実作の感想

「今、自分が暮らしている都市の物語を書いてください」

今回も古川さんが感想を分担するくじ引きを作って下さったので、その担当分の3作と、裏SF創作講座で投票した3作について感想を書かせていただきます。

くじ引き担当分

向田 眞郵「あさくさ・ふらぐめんたる」

舞台は東京浅草。景色がズレて二重に見えるようになった男の話。昭和のレトロな雰囲気と人工的な怪異が生み出す不気味さが印象的で忘れがたい余韻があります。
冒頭のズレが1.85mmという妙な正確さから、時計、人形の手、地図といった人工物のアイテムが提示されていくところが効果的。後半、ズレの症状の明確化、過去の視界のオーバーラップ、男の登場と、短い文字数の中で物語の展開も作り込まれています。
ラストの意味を読み取れなかったのですが、祖父が人形である可能性、そして語り手の藤崎もそうである可能性を示唆しているのでしょうか? また、東京の大地震が関東大震災の史実(大正十二年)とことなる昭和初期に起きていますが、並行世界のような設定を意味するのでしょうか?

大庭繭「光に向かって泳ぐ銀の背」

舞台は東京都立川市、立川駅周辺。水繭に包まれ水没した風景が幻想的。語り手はモノレールの車両自身、それなのに車両内を第三者的に描写されていて離人症的なものを感じて面白い。いっぽうで思考が人間的すぎる気もして、そこは残念な気がしました。水繭がなんなのか、外の世界はどうなっているか、とくに答えは明示されませんが、想像力を刺激するところがあります。
舞台を知っている者としては、立川南駅-北駅間(この区間は乗ったことが無い)から、水底のJR中央線を見たいと思いました。また繭の南端は多摩川に届きそうなのですが、もし河川に繭がかぶさった場合、川の流れはどうなってしまうのか気になりました。

難波 行「河内音頭にのせまして」

舞台は大阪府。夏祭りの少年少女たちの姿から、河内音頭の輪の中に入ると一転して宇宙的展開が待っている振り切れかたが楽しいです。日常から非日常への切り替えが鮮やか。過去から未来まで、複数の時間の輪がいくつも重なっていて、子供も老人も踊りつづける。
SF映画のCG使ったループする時間の輪なんかだと、すごくスピーディにくるくると映像が変わりそうなのですが、ここでは河内音頭のゆっくりしたテンポのままで回りつづけるのだと思われ、その時間の流れ方がいいですね。

裏SF創作講座投稿分

中野 伶理「紅化粧奇譚(くれないけしょうきたん)」

舞台は東京都豊島区池袋、サンシャインシティ。サンシャイン60が建てられたのは半世紀ほど昔になりますが、そこは巣鴨プリズンの跡地でした。その歴史を踏まえてゴーストストーリーのようにはじまるタイムスリップもので、なにより化粧の場面の、視覚と触覚のエロスを満たしてくれる文章が読み応えあります。語り手の女性と囚人の男の双方に時間の経過による人生の変化があり、ドラマがあるのもうまいです。
読み返してちょっと気になったのが、囚人が西暦での年代(元号が変わった説明を省くためと思いますが)と横文字の地名を違和感なく受け止めているところでしょうか。巣鴨プリズンの囚人くらいになると、英語能力(というほどではないが)もあるのでしょうか。
この作品がなにより良かったのは、中野さんが普段書かれている短編の個性をそのまま持ったフラッシュフィクションになっているところです。2000字という短さのため、アイデア一発の話や描写や語りのみに特化した提出作品も見られるのですが、この作品は世界観、キャラクター、ストーリー、文体のいずれも普段の魅力が維持されている。4期の講義で、たしか藤井太洋さんだったと思いますが、フラッシュフィクションを「海外でも名刺がわりに配るのにちょうどよい」ものだと言われていました。この作品は、中野さんの短〜中篇のエッセンスがつまった、名刺がわりになる一作だと思いました。

八代七歩「甲羅の上に」

舞台は東京都江東区亀戸。ブレないウサギSFですね。主人公がウサギであることについて堂々とした書きっぷりで、もはやそのナンセンスさやリアリティの無さを云々することが、無粋であるという域に達しつつあるあります。人間が他の生き物の姿で生まれてくるようになったという世界観に、説得力しかありません。ウサギとカメであることの自然な語りがよい。
ウサギ以外の小説も読んでみたい気はするものの、1年間ウサギで通したら凄いことになっているのではという畏れを抱きつつあります。

牧野大寧「アワビ洗浄」

舞台は宮城県、南三陸町。三陸海岸のアワビの密漁についての話。チンピラたちの密漁の手際の良さと思わぬ落とし穴までが、具体的かつテンポよく語られて、読んでいて気持ち良いです。
ラストの逮捕されることへの諦めの良さが、ちょっと気になりました。仲間たちも含め、いい子すぎる気がして。懲役何年くらいになるのか、初犯で執行猶予つくつのか分かりませんが、個人的な好みとしては、すぐ出所してまたいい思いしてやるくらいのふてぶてしさがあってもよいのではと思いました。

以上。

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