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SF創作講座6期 第3回梗概の感想(1)

ここまでのあらすじ

第3回課題の梗概提出者は受講生44名中、43名でした。以前受講していた第4期の3回目では、既に提出率は8割を切ってましたので、今期参加者のやる気が分かるというものです。
でも、40本を超えると梗概の感想を全部書くのも中々大変だし、逆に一部だけ書くことにも躊躇う人もいらっしゃるかもしれません。
そこで、受講生の古川さんのリードで、梗概の感想を複数人で分けて書くことにしました。厳正なるあみだくじの結果が、このTweetの分担です。

ということで、まずは担当の8作品の感想から。

担当分の感想(8作品)

柊 悠里 「ナツメッグとシナモンを間違えただけなのに!」

勘違いからはじまるエスカレーション。ナツメグとシナモンの容器が間違いやすい、という些細なところに着目したのは面白いと思いました。
そこからたしかに物語は拡がっていくのですが、巻き込まれ型で流されているだけのように思えます。拡がり自体が、最初の嘘とは無関係に出てくる宇宙人の存在だったりするので、ただ都合の良い展開を読まされている感じがあり、自分としては主人公の主体性が欲しいところ。
あとから登場する要素が、「嘘」から導かれている必然ではないのがそう感じる理由でしょうか。

真中 當 「虚胡桃 実無しクルミのゆりかご」

アンドロイドと少女の交流、「文字どおりの理解」=誤解から始まる物語。
マリとステラの閉じた世界の内部と、そこから見える外部の虚実によって、ステラの「愛情と狂気」(のように人間が感じてしまう「論理」)が面白そうだと思いました。
梗概の書き方は白黒はっきりさせるべきものだと思うのですが、解釈の余地があるような気がします。
最後に「ステラは嘘をついていた」とありますが、どこまでが事実で、どこからが嘘なのでしょうか。いちおう、マリは天涯孤独で免疫疾患のために他の人とは一切触れあえず、医療施設の外側との交流はすべてステラ経由のためその言葉を信じていたが、戸籍番号のごまかしから始まって日本の崩壊まですべ作り話、と受け取りました。外の世界が本当にすべて崩壊している可能性もありますが、それだとステラが外部に対して力を持ちすぎるように思いました。どちらでしょうか。
アピール文で梗概の字数制限に収まらない悩みを書かれていましたが、会話文を使いすぎないほうが良いと思います。作中で予定されている会話をそのまま再現せずに、最小限の、決め台詞になるような重要な言葉だけを梗概に残したほうが短くなりますし、台詞も印象的に残ります。

宿禰 「サイズがあわない」

「嘘」そのものが、あるいは世界観全体が、クリアになっていないように思いました。アピール文も含めてですが、人間の身体と心理のギャップとは何か、未整理なままという印象です。
冒頭のこの作品世界における「結婚制度」と「配偶者登録制度」の違いが不明で、とくにその後の展開にも絡んでいないのですが、元々は何かの意図を持たれていたのでしょうか。
「最初の嘘」に当たるのはギャプフィラーという製品が開発されたということだと思いますが、心理的/生理的な「サイズ」とは何を指すのでしょうか。中途半端なトランスジェンダー対応商品ではなく、もしもあらゆるギャップへの対応を謳う商品ならば、ルッキズム、エイジズムの問題を解決する、あるいは欲望を実現する福音になるのかもしれず、今持っている肉体から離れる願望の実現を可能にするならば、リアルVTuberとなれる可能性すら持つようにも思いました。
結末の覇権国家の考え方を読むと、本質主義と構築主義の対立をどう考えるかということであったり、人間身体におけるこの対立をテクノロジーで(暴力的に)解決する話になるのかな、とは思いました。

水住 臨 「付喪神狂想曲」

読者と交信できる魔術がかけられた古書との交流の物語。
読者と書物の交流は純粋な精神的なものであったはずなのに、主人公のハンスが良かれと思ってクローズドな場からオープンな世間は公開していったらば、スピチュアル商法や投資に絡め取られ、本人も新興宗教を始めてしまうというという展開は、ひとつの嘘からドミノ倒しの連鎖になっていると思いました。ただ、「裕福になって大事なものを失った」という結論に落ち着いてしまっていて、梗概を読んだ限りでは平凡な終わり方という気がします。
アピール文で古書との会話が実際にはもっと出てくると書かれていますが、この話の魅力の有無は、ハンスと古書との交流をいかに描くかしだいではないでしょうか。これが、アドバイスを与える端末やマスコット的なキャラにとどってしまうならばつまらないので、書物との交流ならではの読み応えがあると良いなと思いました。

霧友 正規 「クレタ人はみな嘘つきであろうとする」

クレタ人のパラドックスもの。
どちらに転ぼうとも、起きる事象は「嘘」か「実は本当」のいずれかなので、読者にとっては、意外性は感じられない印象です。このパラドックスから導かれる新たなロジックの展開が果てしなく続く、哲学的な論理の奇想のようなものがあると楽しめるような気がします。
ドタバタコメディを目指すということですが、梗概でコメディの面白さを伝えるのは難しいところでもあり、ドタバタ感が感じられませんでした。実作で、意外に話が転がっていくといいなと思いました。

花草セレ 「アルカエオプテリス・アゲート」

最初の嘘である「愛してる」から拡がっていく物語。不思議な質感があります。
おそらく実作では、水面下で生じている無意識や分子レベルの作用を、答えを明確に説明せずに想像させるような語り、論理の上に幻想が乗るような語りになるのでしょうか。絶妙なバランス感覚がいると思いますが、ぜひ読ませて欲しいです。
冒頭で主人公が岩肌(シダ植物?)にキスをする罪悪感から出た嘘の言葉ですが、この「岩肌にキスして罪悪感を覚える」という感覚がとても不自然な気がして、違和感を覚えます。人間相手ではないので。実作では、冒頭でこの主人公の価値観?、人と異なる感性? をうまく語って読み手を引き込んでもらえると、納得した上で、その先が愉しく読める気がします。
主人公の恋愛観はアセクシャル的、アロマンティック的なものなのでしょうか。主人公の感じ方を丁寧に書いて欲しいと思います。ここで丁寧な記述がないと(細かく全部説明するという意味ではないです)、キスの拒絶1回で破局というのが陳腐なラブストーリーのように取れてしまうとも思いました。
植物の求愛行動について、磁気感覚によって作用することが中盤語られていて、最後に主人公がオーストラリアに向かうのも、その作用だと想像できますが、人間同士の求愛行動の原理についても、何か語ったら良いのではと思いました。
課題に対する答えという意味では「愛してる」の前に「設定のたくさんの嘘」があるため、答え方としては微妙な気がします。

中野 伶理 「ゲームチェンジャーは当惑する。」

ネズミのキャラを描いたら、戦争と宇宙人のビジネスに巻き込まれる話。
宇宙人が月面にマッキーを描いた広告ボードを置き、それを地上の政府がジョナスが描いたものと勘違いしてかれが事件に巻き込まれる、ということで合ってるでしょうか。前半のドタバタは「月に人類が行ったのは嘘だ」系陰謀論のドタバタの逆を行く感じでしょうか。
(予告編しか観てないけど、NASAに頼まれてキューブリックに偽の月着陸シーンを撮らせようというプロデューサーが、人違いで巻き込まれた主人公に撮らせようとする映画があった)
後半の宇宙人の先物投資の発想、人類滅びるから売るよって発想が楽しいですね。恒星間宇宙における投資とは何か。わりとジョナスに簡単に騙されている感じのおバカさんなところもチャーミングです。
中野さんの今まで書かれているのとは毛色の違ったスラップスティックなもので、どうなるか興味があります。

向田 眞郵 「幾何の泡(いくばくのあわ)」

水中作業向けに改造された人間の物語。ラボが閉鎖されることになり、やがて、人間が海中で暮らすようになった真相を追求していくことになる。
今回の課題へ応えているかといえば、アピール文で悩まれていたようにちょっと難しいところではあると思います。隠された真相(予め用意された結末)を追求していく物語は、嘘を起点にしてのドミノ倒しの展開とは相性が悪いので。
話自体は、水中作業者と通常の人間たちの関係、研究施設の真実の姿、地上の廃墟と、魅力的な道具立ての世界観なので、面白いのではないでしょうか。
気になった点はいくつかあります。まずラボが本当に閉鎖された場合、まず「僕」たち水中作業者の生活はどうなるのでしょうか。放り出して勝手に路頭(海中)に迷ってくれという訳にはいかないと思うので、何らかの背景設定が用意されているべきと思います。また途中で発見される「計画」の断片には何が書かれているのか、そして地上の都市が廃墟である原因は何なのか(核戦争?)、曖昧にされているいくつかの点を明確にしていけばSFミステリになるように思いました。海を舞台にした海中都市や水棲人、ポストヒューマンなどの話は小説でも漫画でも色々あると思うので、どのようなトーンで描くかで何が魅力かも変わると思います。
あと、アピール文はボツにした話のことは書かずに、提出したものについて語る方がよいと思います。今回ボツにしたものも、別の機会で作品に仕立てることができるかもしれないですし。

(以上。次の記事で、他作品の感想へ続きます)


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