見出し画像

世界で戦える新ロゴ完成!~2年を費やしたコーポレートロゴ刷新の舞台裏~

Miletosは2022年7月にコーポレートロゴを刷新しました。

旧ロゴが生まれた2016年から事業ドメインが変わり、醸成してきたカルチャーの言語化も進んだことから、このタイミングでMiletosという存在を表現できる新しいロゴへと刷新しました。今後、SAPPHIREを世界で利用していただけるプロダクトに育てたいと考えておりますが、日本だけでなく世界中の人に憶えていただけるようなロゴになったのではないかと思っております。

画像1

旧ロゴから大きくイメージが変わった新ロゴですが、どういった想いを込め、どういった制作過程を経て生まれたのか、刷新を担当したMiletosのDirector of Artである金子さんにお話を聞いてみました。

まずは無数のスケッチを描くところから

ーロゴを刷新する理由は何だったのでしょうか?

旧ロゴは、SAPPHIRE以前にMiletosが開発していた触覚再生デバイスに着想を得ているとか、モールス信号を表現しているとか、コンセプトには諸説あると聞いていました。そこから事業転換を行い、メインプロダクトがSAPPHIREとなったこともあり、ロゴを刷新する必要が生まれました。

新しいロゴが完成したのは2022年の7月ですが、ロゴの刷新について取り組み始めたのは2020年からです。

ー意味と想いが込められたロゴだと思いますが、どういう思考過程や試行錯誤を経て誕生したのか教えてください。

弊社代表の朝賀から「文字だけで構成されたロゴがいい」という要望があったので、まずは既存のフォントを利用して、方向性を見定めるというステップを踏みました。

画像2

この表を作ったのが2020年ですね。

この手書きのノートも2020年のもので、この頃はこういった手書きのスケッチを無数に描きました。

画像3

ー下の方に3本線で作られたロゴのようなものがありますが、これは何ですか?

以前のロゴのイメージが少し残っています。かつ、ミレトスの「ミ」をイメージしています(笑)馬鹿ばかしいアイデアだとは思いつつも、描いてみたら意外にいいかもしれないということもあるのでとにかく色々描いていましたね。

この辺りでは他にも、3本線でMを表現できないかなと考えていました。当初から、「AIテクノロジーでビジネスプロセスをレガシーからモダンなものへと変革させる会社」などMiletosのコンセプトをロゴに投影したかったので、モダンさを感じさせられるように、幾何学的なイメージで描かれているものが多いです。

古代ギリシャ時代に名前のルーツを持つMiletosだからこそ、ローマン体からルーツを辿ることで先人への敬意を表現

画像4

下記の画像、右側のページの中央にあるTに見えるスケッチはセリフ(セリフとはアルファベットの先端にある小さな飾りのこと。明朝体のウロコに似ているが起源は異なる。)と言います。ローマン体という古代ローマで使われていた文字を起源としたスタイルがあって、当時、石板にノミで字を彫ったり、平筆で書いたりしていたのですが、ノミや筆などの筆記具の癖がセリフ(飾り)の部分となって出てくるんです。Miletosは古代ギリシャ時代に自然哲学を生みだしたミレトス学派に敬意を払って名付けられたのですが、ローマン体を元としたセリフ体のルーツを辿っていくことで、歴史を形作った先人たちへの敬意を表現できるのではないかと考えました。

このアイデアも思考錯誤を繰り返しているうちに生まれてきました。しかし、思いついた当初は、他のアイデアと比較して、強いものではありませんでした。

画像5

最近のロゴデザインはサンセリフが主流となっているように思います。サンセリフは、「セリフの無い」と言う意味です。筆記具由来のセリフが無く、幾何学的な造形のサンセリフは、モダンな印象を演出しやすいのです。


下記の画像の右下は、アルファベットのtのバリエーションについて考えている過程ですね。ここのカーブの描き方でだいぶ雰囲気が変わります。やはりどれがいいのか選ぶときは実際に描いていかないと分からないですね。また、トレースすると全然違った雰囲気になることもあります。

画像6

一旦ここまで考えたところで、次に大量に本を読みました。この頃には、「モダンなシルエットを持つローマン体」というコンセプトが固まってきていたので、文字の書き方や成立みたいなところからもう一度考え直そうと思って、実際にローマ時代に書かれてたストロークを真似て描いたのが次の画像ですね。この右のページを見るとわかるように、ノミだったり平筆だったりで文字を書くと、このように文字の入りと抜きが広がってセリフができるんです。

画像7

そういうことをしながら、ロゴ自体についても試行錯誤をしていましたね。下記の画像は、まだトレードマークがあったほうがいいだろうかと試している過程ですね。

画像8

この頃同時に調べていたのが、ギリシャ文字の【Ι/ι】イオタについてです。アクセント記号のついた【ί】は、英語の【I/i】アイに見えるので、取り込もうと考えていました。モチーフとしてギリシャを中心とした文明のイメージを入れたいと考え始めたのもこの時期からですね。

下記の画像の右下で、完成形に近いアイデアが出ていますね。

画像9

では、実際に作ってみようというのが次のステップです。ここでは、モダンであること、有機的なものというよりは幾何学だったり科学だったり数学的だったりっていう、人間理性みたいな部分に基づいたデザインを意識していました。

ー下記の画像のOの周りに四角がたくさん描かれているのは何ですか?

黄金比で作ったグリッドですね。よく使うんですが、これに一旦「Mietos」と投げ込んでみたものです。これはロゴを作るための骨格の比率を考えるために作成したもので、実際のロゴへ直接の繋がりを持ったものではないです。

画像10

一旦さっきお見せしたスケッチをトレースしたものが下記の画像です。確認のために、ポップなものも含めてトレースしたんですが、こうすることで目指すラインややりたいことが見えてきた感じですね。

画像11

目指すラインが見えてきたので、その範囲の中で幾つかロゴを作ったのが下記ですが、ここで先ほどお話しした【Ι/ι】イオタを取り入れたものになっています。

画像12

微調整を根気強く繰り返して完成形に

さらに詰めたものが下記です。この時までは、文字を手で描くときのストロークを感じられるようなデザインになっています。

画像13

この後はもう詰めて詰めて、という作業でした。でもまだこのあたりはモダンな印象とは言い難く、有機的でクラッシックな要素が強いです。それをよりシャープでモダンなものに調節していくという作業が次のステップで、何十回も調整を入れました。

画像14

下記の画像辺りで、人間がやってきたことが一気に形骸化するというか、記号化するというか、大きな変化がありましたね。ハンドドローイングに基づく可読性はあまり変わらないんですけど、理想とするものの原型が出来上がった感じです。でもこれだけだと平凡なんですよね。違和感のようなものがなくて。このままセリフを太くしたり細くしたりの微調整をまた何十回も繰り返しました。

画像15

次の画像で、Mの角を取ってみたんですよね。流れを作って一体感を増したらどうなるかと思って。ロゴとしての強さが出るんじゃないかと。流れとして引っ掛かりがなくなるので、シュッと目が右側に視覚的に動いてくんじゃないかなと思ったんです。そうしたことで、「i」の両側が括弧にできるのではないかというアイデアに気づきました。

画像16

括弧を作ることで【Ι/ι】イオタの部分、つまり【I/i】アイの部分が強調されて強い想いを込められると思いました。このとき同時にMiletosのStoryを読み込んだり、色についても考えていたんですが、そのすべてが繋がった感じがして「これだ」と思ったんですよね。

この【I/i】アイによって、自分自身という意味での「i」から、Miletosが以前から大事にしている「identity(アイデンティティ)」だったり、「intelligence(知性)」「integrity(誠実)」を表現できる気がして、ここからはブレずに微調整を繰り返しました。

次の二枚を見比べてもらうと分かると思うんですが、括弧の太さを大きく変えました。洗練された印象にするために、シルエットを変更しました。骨格をワイドにしてすっきりした感じにしたんですね。これで今のロゴに近づきました。

画像24

次が97パターン目です。

最終的に微調整して、完成です。

画像18

ロゴに込めた「identity(アイデンティティ)」「intelligence(知性)」「integrity(誠実)」「Unity(結束)」「Success(勝利)」

ー括弧を細くしたことですごく雰囲気が変わりましたね。インテリジェンス感が出ました。ロゴにはどういった意味や想いが込められているのかお聞かせください。

ロゴを制作する上で大切に考えていたことは「identity(アイデンティティ)」「intelligence(知性)」「integrity(誠実)」そして「Unity(結束)」「Success(勝利)」の5つテーマです。

「i」にあたる部分は、アクセント記号を持つギリシア文字の「ί(イオタ)」と、アルファベットの「i」とのダブルイメージとして象徴的にデザインされています。

「ί(イオタ)」という文字では、Miletosという社名の由来にもなった、古代ギリシャ時代にミレトス島において、物事の本質を探求し自然哲学の礎を築いた哲人たちへの敬意を示しています。ミレトス島に集まったタレスを中心としたミレトス学派は、それまで神々によるものだと考えられていた自然現象を、自然哲学という新しい考え方を通して理解することで人類に科学への扉を開きました。

一方、【I/i】アイでは「intelligence(知性)」、「identity(アイデンティティ)」、「integrity(誠実)」を示しています。そして【I/i】アイを括弧付けにして主張させることで多義的なものとして成立させることを目的としています。

また、Miletosとそこに関わる人間ひとりひとりとの理想的関係が表現できていたらいいなとも思ってます。

Miletosの発するメッセージを色に落とし込む

ー色についてはどういう経緯で決めたのでしょうか?

まず経営陣とディスカッションした際に「赤っていうイメージはありますか?」という問いに対して「無い」という回答をもらっていました。「赤や黄ではなく、青系な気がするよね」ということで全員の意見が一致していいました。前述したミレトス学派の提唱した自然哲学に「万物の元は水である」という考え方があります。神々がすべてを作ったという神話的世界観が一般的だった世界にあって、神話以外に原因を求めるような考え方をしたのはすごく偉大な一歩だったと思うんです。その水を想起させるブルー系にするのは、良い選択だと思いました。

作り始める前に色についての資料集めもしました。モダンに見える色の系統を調べたり、色の持つ意味を調べたりしました。
調べていくと、ブルーは「清潔」「誠実」「安心」「信頼」「信用」といった印象を与えたり、歴史的にも古いネイビーブルーは「忠誠心」と「誠実」に結びつく色で、世界中で海軍のカラーとしても用いられてきたようです。
また、日本には「勝色」と呼ばれる、紺よりもさらに濃い藍色があるそうですが、こちらの「かつ」は藍を濃く染みこませるために布などを搗つ(かつ)(叩くの意)ことから『搗色』『褐色』の字があてられ、そこから「勝つ色」として武士などに好まれた歴史があるそうです。Miletosは「ビジネスで勝つ」ということを大事にしている会社なので、ネイビーブルーはテーマと近い色だなと感じましたね。

視覚的な印象でネイビーの中から色を選ぶのではなく、やはり何を表すのかを言語化してから数あるネイビーの中から選ぶことを大事にしました。アイデンティティを持たせる上で、選び取った色がきちんとした文脈の上に成り立っていることが必要でしたし、この辺はすごくしっかりやりたい部分でした。

カラーに関してもやはり、Miletosがウェブサイトで公開しているStoryや会社紹介の文章を読み込み、重要なポイントを抜き出しました。そのメッセージをカラーに反映させたいなと考えました。

そこまでしてから、やはりネイビーブルーで間違っていないということを確信して、色を選ぶプロセスに入りました

まずはたくさんのバリエーションを出し、可能性を限りなく広げたところから始めました。

画像19

画像20

「これがいい」って選ぶのは難しいですが、「でもこれは違う」っていうのは分かるんですよね。例えば上記の中の57番は、この中にあると黒に見えちゃうから違うな、とか。こっちは紫に近いかな、という感じでどんどん消去していくっていう作業をして、残ったのが下記の色ですね。

画像21

次に色の検証をしました。この辺りは技術的な問題ですね。パントーンカラーという色見本があるんですが、それに合わせて破綻しない色みに調節していくとか、グラデーションパターンをを作ってみたりとか。

画像22

あとは実験ですね。光を反射したときに紫っぽい色が出ないかとか。

画像23

検証を経て最終的に残った色が下記のものです。

画像24

ロゴ制作にはいろいろなやり方があると思います。例えば作家のような方が「その人にしか描けないラインで描く」というような方法であったり。

今回に関していえばインスピレーションで完成させるようなスタイルではなく、「モダン」であることを念頭に置きつつ、Miletosの持っているコンセプトにより近い変数的なものを選び取っていくっていう作業だったなと最終的に思ってます。そのため、制作期間は長くなってしまいましたが、Miletosのコンセプトを深く反映したものになったと思います。ご覧になられた方の心に少しでも残っていただければ嬉しく思います。