milen

小説を書いています。

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ホワイトボード

一緒に暮らし始めた私たちが一番最初に買ったのは、ふかふかの布団でもぴかぴかの机でもなかった。 それはドンキに行けば1000円ちょっとで売っているちょっと大きめのホワイトボード。 真っ白なただの板は、なんにもない狭い部屋の中ではとっても小さく見えた。 ホワイトボードが家に来た日、つまりは私たちがチョコレート箱のように夢の詰まったこの箱の中で暮らし始めた日、私たちは一つルールを決めた。 「人の悪口を言わない」とか「部屋をいつも綺麗にする」なんていうムツカシイことではない。 ただた

    • 美術館に、「異なる」と出会いに行こう。

      美術館に行ったことがありますか?  みなさん、美術館に行ったことはありますか?私は普段からよく美術館に行きますが、人によっては美術館に行くことに対して「ハードルが高そうだ。」と思ったり、「そもそも行ったことがない。」と言うかも知れません。確かに、日常生活を送る中で美術館に触れる機会はそう多くないかもしれませんが、絵画や彫刻作品をはじめとするアート・芸術(この文章ではこの二つの語を明確に区別しません)の中には、生活に刺激を与えてくれたり、生きるためのヒントを与えてくれるものが

      • チカチカ

         ある日の夜、少し夜更かししていた私はチカチカした。私の目がチカチカした。そのチカチカは消えることはなくて、寝る前も、寝た後の夢の中でも、起きてカーテンを開けて見下ろした近所の公園の子どもたちもチカチカした。  チカチカしてから、いいことがあった。ちょっとした顔を見なくて済むようになった。私が何か言った後に、話しかけた相手が何かを思っていそうな時も、ムッとした顔は見ることをしなくて良くなった。他にもある。チカチカしているから、世界の動きがより滑らかになった。例えるならゾートロ

        • やさしい

           その電車は、駅に着くたびにあんぐりと大きなその扉を開けて、人たちをどんどんと乗せていきました。乗ってくる人たちは、みんなぎゅうぎゅうに押し込められています。ゆっくりと電車が走り出します。窓からは半分くらいかじられた月がだす光が入ってきて、真っ暗な車内を頼りなく照らしています。かたんかたん、かたんかたんと、滑るように走る電車と、それをずしんと支えるレールの間の少しばかりの摩擦が柔らかい音となって聞こえます。  月明かりに照らされた人たちはみんな、やさしい顔をしていました。に

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        ホワイトボード

          家に帰る、その途中。

          不意にブランコが漕ぎたくなって、買い物の帰り道、小さな公園に寄った。 いつもならいるはずの子どもたちも今日はいないみたいだった。 ペットボトルやらインスタントラーメンが入ったビニール袋を、そっと土の上に置いた。 ブランコに乗るのは久しぶりだった。 手でブランコの鉄のところを握った時、手が鉄臭くなるのは子どもの頃と変わらない。 足で地面を思いきり蹴ると、ギーという音を立てて動き出す。 変わっていない。 別にここが自分の生まれ育った場所ではないけれど、感覚は変わらな

          家に帰る、その途中。

          SHE&

          私が家に帰った時、彼女はトースターの中の膨らんでいく餅をじっと見つめていた。 正確に言えば、トースターの前にいすを置いてその上に体育座りをしながら寝ていた。 彼女お得意の「観察」も、さすがに眠気には負けてしまったようだ。 こうやって端から白いパーカーに身を包んだ彼女を見ていると、その小ささが普段よりも強く認識させられるようである。ぎゅっと握りつぶしたら、ゆで卵のようにボロボロと崩れ落ちてしまいそうな"か弱さ"さえ感じられる。そんな彼女をお姫様抱っこして寝室に連れて行くつもりも

          中二階の、パパの仲間達へ

          私がここで暮らし始めて早二年となる。 二年前の三月、私の高校入学を目前に死んだ父親は、私と母親という仲の良くない二人を置いてあちらへ行ってしまった。高校入学前ということもあり判が必要であったからしばらくは仕方なく二人で過ごしたが、どうでもいい印鑑という本人確認の慣習につきあわされる事もなくなり学校にも慣れた七月、私が、父親の生前から仲の良かったまだ四十手前の父親の妹、つまりは私の叔母に「母親と別れて暮らしたい」と頼んだのが私の一人暮らしの始まるきっかけだった。 その少し前、世

          中二階の、パパの仲間達へ