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そんなわけねえだろ。

大人がドヤ顔で「もうあれ10年前か!」と語るのを聞く事が好きじゃなかった。10年前なんてかなり前で、そんな驚くことでもないだろうと思っていたから。「いやー、全然もっと最近だと思ってた!」と続く言葉に「そんなわけねえだろ」と心の中で言っていた。

しかし考えてみれば自分の10年前なんて実はもう中二だったし、ギターだって始めていた。5年前だって実はもう大学に入っていたし、そのころの思い出を語る時には「えっ、あれもう5年も前!?」と口走ってしまう。
自分でその気持ちを味わうまではそんなことありえないと思っていたのに。

僕は自分が知らない世界のことをなんとなくずっと「おとぎ話」くらいに考えている節がある。
例えば映画の中とかで見るケンカのシーンとか。よくよく考えれば自分が恵まれた環境にいたおかげでそういう場面に出くわすことがなかっただけで、実際に目の当たりにしたことがないことはまるで想像の中だけだと思ってしまっている。
だから、例えば知り合いなどに喧嘩をした話を聞いても、なんとなく飲み込みきれない。心のどこかで「そんなわけねえだろ」と思っているのかもしれない。

別にその人が「嘘をついてる」と思っている訳ではない、ただそれを真実として受け止めきれない。

他にも、「飲んでて気づいたら〇〇にいた」みたいな話。これに関しては確かに僕も一瞬だけ記憶が飛んでいたことはあるが、派手なものはない。せいぜい家の前までたどり着いて鍵を開けた次の瞬間に布団に倒れていた、くらい。
だから、された話は信じていてもどこかで「さすがにそんなわけねえだろ」と思っている。
と同時に、自分もいつかそうやって記憶をなくしてみたいという気持ちもどこかにある。本当はそんな経験なんてないほうがいいんだろうけど。

あとは「〇〇万円ぼったくられた」だの、「マジで死にかけた」だの、「そんなわけねえだろ」と思ってしまう話はいくつもある。
断っておくが、だからそんな話は聞きたくないという訳ではなくただ単に僕の中でそれらが「おとぎ話」と同じような引き出しにしまわれるというだけで、全然そういった類の話は聞きたい。むしろ面白いので前のめりだ。

もしかしたら僕が誰かに話していたことも、その人にとっては「そんなわけねえだろ」ってことなのかもしれない。

「吉祥寺まで歩いてたら最終的に立川まで行ってしまった?そんなわけねえだろ」とか。

いや、この件に関しては自分自身も「そんなわけねえよな、」と思いたいところではあるが。

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