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食産業のパーソナライズは実現するのか?Part1


ごあいさつ

こんにちは。株式会社MiL 代表の杉岡侑也です。
MiLは2018年に創業し「the kindest (カインデスト)」というブランドでベビー・キッズフードを展開し、皆様に支えられ成長してまいりました。
まだまだ小さなブランドですが、いつの日か社会に無くてはならない会社になり、多くの社員、ステークホルダー様に応援いただくようになった時のためにも、MiLの仲間達とともに、私たちのビジネスの裏側にある”想い”を少しずつ書き留めています。


顧客体験のパーソナライズが求められる背景


私の3回目の投稿は「食産業のパーソナライズは実現するのか?」です。

近年の小売マーケティングのトレンドのひとつとして、一般的になりつつある「パーソナライズ」。顧客体験のパーソナライズが時代に求められる背景には、価値観の多様性があげられると思います。

昨今の不安定な世界情勢や経済の動きが私たちの生活に及ぼす影響を見ても、私たちは世界に繋がり、急速に加速するグローバル化の渦中に居ることがわかります。価値観の多様性やダイバーシティの必要性が叫ばれるのも必然であったと、改めて気づかされます。

さて、顧客の立場に立つと、そうして多様になったそれぞれのニーズを満たす商品やサービスを求めるようになるわけです。

例えばアパレル業界。
アパレルはラグジュアリーから古着まで、あらゆるライフスタイルを支える多様性を持つ産業に成長してきました。

アパレルの成長の背景には、SPAと呼ばれるバリューチェーンの発展があったと言われています。SPAは企画、製造、小売までを一貫してコントロールする製造小売業のことを指します。
デジタルを活用し、小売店の売れ筋をすぐに生産に反映する。つまり、小売店から吸い上げたデータを、スピードと効率をもって企画、生産、流通に流し、リードタイムを極限まで縮める。まさに、スマートバリューチェーンです。

先駆的なところではGAPなどが知られていますし、最近では中国初でZARAを超えたと言われるSHEINのような新興アパレル企業も台頭しています。SHEINのオンラインショップを覗いてみてもわかりますよね、時代は多品種を求めているわけです。

一方食産業はどうでしょう?

たとえばマヨネーズ。いまだにコンビニの棚に並ぶマヨネーズはキユーピーだけ。圧倒的なシェアを持っています。
そして醤油といえばやはりキッコーマンです。市場シェアを見るとキッコーマンとヤマサ醤油でマーケットシェアは40%弱。大手5社が市場の半数以上を占有しています。

消費者の選択肢が少ない寡占市場からは、イノベーションは産まれません。
というより産むメリットがありません。

食産業は今後、消費者のニーズに合わせて多様化するのか?
適切なプレッシャーのもと、進化していくのか?

まず、食産業が消費者ファーストになりにくかった理由を3つ、食産業の構造を私なりに分解しながらお話ししたいと思います。


構造の問題点1:参入障壁

私たち消費者は、毎日利用するような食品を購入する際、単価が安くて品目が多く、自宅に近いスーパーやコンビニなどの小売店を活用します。

ただ、そんな便利な小売店にメーカーが商品を並べようとすると、物流、商社との契約が実質必須になります。
在庫管理、物流、品質管理基準(当然与信審査も)など、さまざまな点で、流通業者はそれぞれ特殊なルールを持っています。
その複雑な構造から、零細メーカーが直接小売店と取引を行い、最大化することのハードルは高く、結果、多くの商品は商社を通して全国の小売店舗に配架されています。

食品メーカー、かつ規模の拡大を目指すスタートアップが少ないため、明るみになりませんが、大手メーカーには当たり前の商社との取引条件一つひとつが、スタートアップにとっては非常に高い障壁となります。
したがって、資本や実績が小さい企業は簡単には商社と取引を行うことができず、小売での展開が難しくなります。

大手食品メーカーにおいても、「新しい商品で失敗して商社や小売に迷惑をかけるくらいなら、既存の商品流通を必死に守ろう」というパワーが働いてもおかしくありません。

メーカーが、商社・小売に迎合することなく自由に消費者に商品を届けることが極めて難しかったことから、結果消費者よりも商社、小売を向いて仕事をする構造になっていました。

この構造下で、どうやって新しく挑戦する企業が生まれ、消費者ファーストなものづくり、流通が実現出来るのでしょうか。

構造の問題点2:低コスト戦略・大量生産モデル

日本の食品メーカーは、世界に比べても100年企業が多数存在する特殊な産業です。
溜め込んできた利益(これ自体は素晴らしい)、強いバランスシートに更にレバレッジをかけ、コスト競争に持ち込むことで成功してきたという背景も非常に大きな特徴です。

先輩方の世代において、この勝負は私たちの生活を豊かにしました。
一方、コスト競争を続けた結果、業界自体が安すぎる価格で勝負をせねばならぬ構造に陥り、同質化を招きました。

当然新興企業が参入する余地もなく、この低コスト戦略が顧客体験の差別化に踏み込めていない一因と私は見ています。

インターネットが無かった時代には、バランスシートの強い企業群にチャレンジするにはあまりに参入コストが高すぎました。そのため新規参入が起こらず、結局市場や消費者からのプレッシャーも少なく、低コスト戦略から業界全体が抜け出せなくなったのです。

アパレルにおけるラグジュアリーブランドは、2000年頃からこのスパイラルを脱しています。
アパレルが確立したSPAによるイノベーションがそれです。しかし、食品業界では商品数を絞って大量生産し、価格競争力で戦うモデルから抜け出せていないのです。

つまり以下のように整理できます。

前者が単一商品をたくさん作り、コスト競争力で戦う製造➡︎小売モデル
後者が顧客のニーズドリブンに商品を作りに行く、顧客視点の小売➡︎製造モデル

当然ですが、お客様のニーズに合わせた多品種展開の方が、高い満足度に繋がります。しかし、それでは効率性が上がらないのです。

結果、食産業は少ない商品を磨くことで成長して来たのです。

一方、インターネットにより、今の時代は「限界費用0社会」(ジェレミー・リフキン氏が唱えました)とも言われています。
インターネットテクノロジーは、あらゆるモノやサービスのコストを極限まで下げました。
多くのことがインターネットに置き換えられ、私たちの生活を急速に変えたように、いよいよ食産業も顧客視点に立った産業に変わる日が来ているんじゃないかと思います。
スマートバリューチェーンを含め、少なくともゼロに近づくのは間違いありません。

ですが、それに対応するプレイヤーが少ないのが現状です。

従来型の食のサプライチェーンでは、小売店舗にしか消費者との接点がありませんでした。そのため、顧客の多様なニーズに合わせた商品を作るにも、そもそも消費者のニーズがどこにあるのか、メーカーには分からなかったのです。

それが食の業界でSPAが進まない理由だと、私は考えています。顧客のニーズにフィットした商品作りを可能にするには、まずメーカーが自分たちのお客様を持ち、自分たちで販路を持つことから始めなければいけないのではないか。

私たちカインデストがメディアからスタートした理由はそこにあります。


第三点目のポイントは、次回お話ししたいと思います。


photo :著作者 Freepik


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