まいきぃ

主に掌編を書いています。 ホラー、ヒューマンドラマ、純文学が好きです。 どうぞよろしく…

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主に掌編を書いています。 ホラー、ヒューマンドラマ、純文学が好きです。 どうぞよろしくお願いします。

最近の記事

【掌編小説】放課後の駄菓子屋にて

奇妙な館に迷い込んでから3日くらいになる。キッカケは、学校の帰りに駄菓子屋に寄ったことだった。 昼休みのことだった。図書室の隅で昼寝をしようと一人でいたところに、同じクラスの山田が僕の向かいに座った。  「なぁ、帰りに駄菓子屋行かねーか?」 山田は興奮してか、鼻息を荒立てていった。山田に誘われるのは珍しくない。けど、駄菓子屋でここまで興奮するのは珍しかった。駄菓子屋は僕と山田が住む団地の近くの住宅街にポツンとあって、多分100歳くらいになる老婆が店の主人だ。  「今日

    • 【掌編小説】話題をほしがる僕らについて

      今年の梅雨は、近年類を見ないほどの豪雨が街全体を襲っていた。今日は珍しく澄み渡る青空に風がそよそよと吹き、街は久方ぶりの陽気に浮き足立っていた。僕らのクラスも例外じゃなかった。 けれど、街から取り残されたように前田の葬式は陰鬱で湿っぽく、汗と線香の匂いが会場を包んでいた。 みんなの口から出る言葉の多くは、いたって個人的なものばかり。  「あちぃ」  「だりぃ」  「ねみぃ」 誰一人として、前田の死を悲しみ、祈りを捧げるクラスメートはいなかった。言葉を発するたび黒い

      • 【掌編小説】雨の日におきたこと

        その日、クラスの話題は前田の件で持ちきりだった。朝のホームルームのことだ。僕は普段通り時間ギリギリに席に着くと、ハンドミラーを取り出して前髪を整えていた。始業のチャイムが鳴る終えると、先生はいつになく静かに教室に入ってきた。 教壇の前に立ち、深呼吸をするやいなや、神妙な面持ちで僕らに「悲しい知らせがある」といった。先生はうつむき、二三秒ためて顔を上げると、悲しげな目をして教室を舐め回した。僕らに、自分が悲しんでいることを強調するようで白々しかった。  「昨日、前田が亡くな

        • 【掌編小説】彼から聞く彼女のウワサ話

          休み時間のことだ。前の席の前田が振り返るって、こんなことをいいだした。  「なぁ、聞いたか?あのウワサ…」 授業が終わったばかりというのに、周りには僕以外に誰もいなくなっていた。前田が僕に話しかけているのは明らかだった。 「ウワサ?」僕はつっけんどんに答えた。前田の話は長い。だから、話を聞く気にはなれなかったけど、状況からして逃げられない。  「隣のクラスに兵藤っているだろ?ほら、一年の時クラスが一緒だった」 前田はよほど嬉しかったのか、目を爛々と輝かせながらいった

        【掌編小説】放課後の駄菓子屋にて

          【掌編小説】彼女のガベルとカタルシス

          「人間だけよ、愛だの恋だの騒ぎ立ててるのは」 彼女は、辛辣にいうとグラスを煩雑に置いた。ガタンと音を立て揺れるテーブル。今にも酒の中身が飛んできそうだった。シャンディガフ、彼女が管を巻くときに好んで飲む酒だった。 隣に座るミカが驚いて飛び上った。「そうだね」わたしはうなずいた。わたしは覚悟を決め、背筋をピンと、彼女にわかるように伸ばした。 彼女が「人間」というフレーズを使う時は、たいてい話が長くなる。 哲学的になる。 そして、わたしの耳はちくわになる。 彼女は一方

          【掌編小説】彼女のガベルとカタルシス

          【掌編小説】彼女と笛にまつわる物語

          日曜の優雅なティータイムに差し掛かる頃、彼女は好物のシャウエッセンをほおばっている。パリッと肉を噛みちぎる音がするたび、肉汁が飛び散り、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。 「それがね…」 彼女は、頬いっぱいに肉片を含めながらいった。 「慌てなくていいから」 僕は苦笑いしていった。ファミレス「ミトス」で彼女が食べ始めてから、かれこれ30分。もしゃもしゃと食べ続けているからだ。 彼女から相談があると連絡を受けたのは、昨日の夜中のことだった。ひどく落ち込んだ様子だったのだけど

          【掌編小説】彼女と笛にまつわる物語

          【掌編小説】彼女は生きてくのがめんどくさい

          「ぶしつけな質問だけど…」彼は、言葉を詰まらせながらいった。金曜日の午前9時。人通りはまばらで、他のテラス席に誰もいない。喫茶「リバーサイド」にしては珍しい光景だ。  「彼女、死にたいんとちゃうん?」 彼はいつになく、声を低くひそめていった。彼は東北の出身なのに、こういう時はなぜか関西弁になる。それだけ、彼にとっても理解できない状況なのだろう。  「いや…それがさ、どうやらそうでもないんだ…」 僕が頭をかきながらいうと、彼は首を傾げた。  「どげんなっとーと?おまん

          【掌編小説】彼女は生きてくのがめんどくさい

          【掌編小説】ある夏の回想録

          1999年の夏、わたしたちは罪を犯した。世間がノストラダムスの終末論で騒がしいなか、わたしたちは陽炎みたいに揺らいでいた。 わたしは、市街地から30分ほど離れた霊園に来ている。ヒンヤリとしているから不思議だ。あれだけ自己主張の強い蝉たちが大人しいのは、その異質さからなのかもしれない。わたしはお墓に手を合わせ、祈りを捧げた。 (ユリカ…) 10年前のあの夏以来、ユリカはわたしの心の中にひっそりと影を潜め住み着いている。 はじめはちょっとした悪戯感覚だった。わたしとユリカ

          【掌編小説】ある夏の回想録

          【掌編小説】ちいさな箱にまつわる物語

           彼は陳腐なポップスを好んだ。よく使われるフレーズばかりを羅列しただけ、そんな唄を好んだ。 「魂を揺さぶる歌詞なんだよね」  彼は得意げにいうのだ。はじめは鼻歌混じりに歌い、次第に熱が入ってくると拳をマイクにして前屈みになる。築40年の狭いワンルームのアパートは、武道館ライブさながらだ。  わたしが食器を洗いながらテレビのボリュームを上げると、彼のボルテージも一緒に上がるから不思議だ。そして最高潮に達したときの「ありがとう!」シャウトからドンッ、隣住民から壁の殴打がお決

          【掌編小説】ちいさな箱にまつわる物語

          【掌編小説】ある旅の前日譚

           聞き慣れない単語を耳にしたので、すっとんきょうな声を上げてしまった。  「あなたって、funkyでanarchyでガキね」  彼女は自慢の黒髪をかきあげ、ハリウッド女優さながらに言った。柑橘系の香りがほのかに香った。  「それどういう意味」  僕は細い目をさらに細めながら言った。  「あの頃と変わらないわね」  彼女はくすりと笑って言った。しかめ面になる僕。  「ちょっと待って。それじゃあ、全然成長してないってことじゃないか!」  少しだけ声を荒げ、しばらく

          【掌編小説】ある旅の前日譚