あなたのものがたり6
あなたとせかいのものがたり ミュータントとあなた
1992年末、雪の積もった夜のことだった。
ニルヴァーナの"Smells like teen spirit"が流れる、田舎町の家電量販店で、その事件は起きた。
新聞では、報道されなかった。
ほとんど誰も覚えていなかった。
三人、人が死んだのにもかかわらず…家族でさえ、その三人が存在したことを覚えていなかった。
その家電量販店には、店員以外に客は三人。
あなたはその中の一人だった。
紫色の薄い霧のようなものが、どこからともなく、一人の男の頭上に発生していた。
その霧は、しばらくその男の頭上を漂っていた。
(まるで迷っているみたいだ)
ぼんやりとその霧を眺めながら、あなたはそんなことを思っていた。
そして、意を決したように、一気にスーツを着たその男を包み込んだ。
男と世界の境界が薄れ、拡散し、そこには少しだけ濃い紫色の霧があるだけ。男はいなくなった。
あなたはただ、ぼんやりとそれを見ていた。何の感想も抱かなかった。
そして、一気に霧は収束して、真っ白な翼が生えた、薄いローブをまとうヒトのようなものになった。
天使。
そうとしか形容ができなかった。
同じようにそれを見ていた、朱いチェックのネルシャツを着たジーンズの小太りの男性が、腰を抜かして口をあんぐりと開いていた。いわゆるオタクのような外見をしたその男性は、スーパーファミコンのカセットが並ぶゲームのコーナーで、その天使のようなナニカを、目を見開いて見ていた。
天使のようなナニカは素早く男に駆け寄り、手刀で男を真っ二つに両断した。
あなたは絶叫し、走り出した。飛び散る血飛沫に恐怖した。
ここから先は
2,560字
¥ 100
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?