あなたのものがたり3
わたしのものがたり ジース
これは、私の、物語だ。
雑居ビルの一室…カッシーノ研究所から出て、スズキくん…ジョーカーは語りかけてきた。
「タナカさん、走ろうか。琵琶湖に、ミュータントが出てる。”姉川”と妹川”っていうナニカ。姉妹でコロシ合ってる。休ませてあげたいな…協力してくれる?」
うん。確か、実際の川の、姉川はもう、なくなっているんよね。
「みたいやな。飛ぼうか。となると、ミューテーションしないとできひんな。」
そやな。ニケーには翼があるから。スズキ君は、飛べるん?
”エラー”?
「エラーでは変異しないから、物理的に飛べへんやろ。エラー起こしてから走る。」
「エラー…」
スズキ君の瞳が紅くなる…ルビー色の燃えるようなまなざしだ…かっこいいな…
「”エラー”知ってるやんな。ミューテーションなしで、ある程度能力が使える。ミューテーションって言わなくても、使えるから恥ずかしないわ。」
そういうと、優しい笑顔で、笑いかけてきた。
私も、エラー使う。一緒に行こか。
エラー
「そやな。タナカさんのエラーは、銀色の瞳。」
そう。なんでしってるんやろ。
「えーっと、こっちにまっすぐ100キロくらいかな。1時間くらいか。着く前につかれそうやなぁ…まぁ、タナカさんいるからええか。僕はバックアップ。」
支援得意?
「そやねん。僕は裏方があってる。
いこか」
そういうと、予備動作無しで、ジョーカーはまっすぐ走り出した。
速い…なんて速い脚。
あわててわたしも追いかける。
林を飛び越え、道路も飛び越し、まっすぐ琵琶湖に向かっていく。伊吹山の頂上には、初雪が観える。
速すぎる…エラーでこの速さ…
ミューテーション
「ん?ああ、ごめん、周りが見えなくて。そらフラれるわけやわ」
「おっと、速いな!音速越えたら、周りに迷惑やで…って、やるわけないか。タナカさんやし。」
空を飛ぶのは気持ちがいい。
私は今、ニケーにミューテーションしている。
銀色の体に、翼が生えている。勝利を象徴する女神。
わたしは、わたしを誇りに思う。
「ちょっとまってまって…ミューテーション!プリンシパリティ!」
振り返ると、天使になったジョーカーがいた。
「速いて!」
お互いさま。
すぐに琵琶湖の南岸に到着した。鳥人間コンテストの跡地で、二体のミュータント”姉川”と”妹川”がコロシあっている。どちらも鬼の形相で、鎌をもって首を切り合うところだった。
つらかった…一人の人を、取り合ったのかもしれない。
「大丈夫、問題ない」
振り返ると、ジョーカーがヒトの姿に戻っていた。瞳の色は、元通り、いつもの漆黒だ。
ジョーカーは、血を流し、痙攣する二体のナニカに両手を当てた。右に姉川、左に妹川。
「ミューテーション・キューブ」
二人が、少しずつ薄くなっていく。境界が薄くなっていく。
ジョーカーが、変わった。
「疲れたわ。少し癒してくれない?」
女性の言葉遣いだ。見た目が中性的になっている。
「ミューテーション、カワジリコウサク」
トクチョウノナイ、タダノヒトになった。身長177センチほど。長身痩躯で、スズキタロウに似ている。なんの特徴もない、ただのサラリーマンのようだ。黒いスーツを着て、センスのいい腕時計をしている…いや、よく見ると安物だ。
「ミューテーション、スズキタロウ」
スズキタロウ君に戻った。
(…スローバック(先祖返り)じゃないの?)
何やったん?
「僕の能力は、”サイコダイブ”。記憶を読み取り、吸収する能力だよ。内緒だよ。二人の記憶を吸収して、僕の中で二人は生きている。ヒトが死ぬときは、忘れられた時。」
僕は、ジョーカー。ワイルドカードは、なんにでもなれる。僕の能力は無限にあるよ。
最初にダイブしたのは、カワジリコウサク。ただのヒトだった。彼のおかげで、僕は、サイコダイブを制御できる。
何もできないことは、それが能力なんよ。
(あたし・・・
あなたのことが・・・・・
好きに
なってるわ・・・・・・・)
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