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「六人の嘘つきな大学生」朝倉秋成

すごかった。本当にすごかった。
私が最近読んだ本で1番よかった。

構成がすごいし、面白い。最後の方の文章で嶌さんが足に障がいを患っていたことを読者に明かすが、これにより前の文章、出来事の捉え方が180度変わる。具体的には、共に就職活動の最終面接に挑んだ人たちの印象がガラリと変わる。
それだけでなく、序盤の読んでいて違和感を覚えていたものの正体が明らかになる。(嶌さんが歩くのが遅かった理由など。ただ単に女性であり、あまり運動が得意なタイプではないのかな?とスルーしていた。)

この小説は最後まで本当に気が抜けない。
この小説を読み進めて、私は六人の嘘つきな大学生たちを一つ一つの出来事に衝撃を受けながら「善人→悪者→善人」と無意識にラベリングしていた。
しかし、これは作者の罠にすっぽりとはまってしまったなあと気づく。
地球からみえている月の表側を善、裏側の一部を悪、そして裏側の一部の周辺を知って善と考えたのだ。
一部だけを知って、善とか悪とかを判断してしまっていて、またさらに追加情報を得るとすぐに評価が変わってしまう。全く全貌を掴めたわけでわないのに。この作品は、読者に本書全体でこの体験を味合わせたのだ。
結論を述べると、完璧に善良な人も悪い人も存在せず、それぞれの要素をたくさんたしあってその人ができている。一部だけで判断できるはずがないのだ。

この作品は、現代社会への問題提起なのかもしれないと思った。SNSにアップされたほんの一部の情報だけで、その人は悪であると叩き、いや本当は善だと擁護する人もいる。そんなたった一つの情報だけで判断できるはずがないのだ。それは月の表面のさらに一部分でしかない。私たちは、それを自覚するべきなのだ。

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