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8.どっぷりと浸かって

初めてのデート。二人っきりの時間。
久しぶりの男女の関係。

あとで現実を知ることになるが、まだこの時は自分たちだけの時間に、どっぷりと浸かって、本当に幸せな時間だった。

寒かったから、よく手をつないだ。彼女の手はガサガサだったが、それが余計に想いを強くしたのは確かだ。家族愛に満ちた手だと思っていた。

何度も見つめあった。大きな瞳に吸い込まれるような感覚で、言葉はいらないと、本当に感じていた。

人目を気にしながら、よくキスをした。マスクをしていても、少しだけ下ろして触れるくらいの感覚で。いい歳して、なんだか周りが見えなくなるような感覚だった。

手を繋ぎ、見つめあって、唇を触れ合う。少しテレながらまた歩く。
車の中で、強く抱きしめ合ったこともあった。私がグッと押し倒すと思いきや、彼女の方からかぶさってきたくれたこともあった。

楽しい時間が終わって独り。アパートに帰って思い返してみれば、なんてことを、と思うことばかりだった。昼のデートはお酒が入っていないからこそ、想像すると赤面するくらいになる。彼女も、夜の電話でそう言っていた。

生きていると実感していた。


でも、一方で違和感もあった。

まず、彼女は他人の悪口をいっさい言わない。上司と部下のオンタイムならまだしも、本当に言わなかった。あの態度はどうかと思うよ、くらいのことさえ全く言わない。

ためこんでしまわないか、と心配するくらいに。
前向きだったから好きになったのは確かだが、やはりそこは違和感が残った。もう深い関係なのだから、グチの一つも言ってくれて良いのに、とは思っていた。

そして、心配性というか束縛というか。
お互いが信頼し合うオトナの関係なのに、何だか重いと感じたことは多々あった。
先に後輩や部下と飲みに行くと行っていたのに、夜に連絡をくれないと悲しがっていた(すねた)。

また、翌日会うことにしていた金曜の夜に飲みに行っていたとしても、気に入らなかったようだ。夜の電話ができないからという理由で。

会わない休日に私がスマホを置いてジョギングをしていると、夥しいメッセージが届いていたこともあった。たった2時間程度である(走るのが趣味の私は、20キロ・2時間くらい軽く走る)。確かに離れるよ、と事前に言っていなかったものの。いつもは、即レスしていたからそれは悪かったと思ったが。

こんなこともあって、少し心配だな、と思ったことは確かである。

だが、しかし。
恋は盲目である。
久しぶりに、自分を見つめ直し、少なくなった髪の毛やでっぱったお腹を恥じながらも、改めて男に戻っていた時間。

こんなおばちゃんを愛してくれて
こんな幸せなことはないの

お互いが感謝し、立場や役割を離れて素の自分に戻れる、二人だけの時間。

いま、本当に自分を大切にしているとおもう。
今の私は、本当に自分が好きなの。
だからあなたも、もっと自分のことを大切にした方がいいよ。

デートを重ね、関係を持つことで、お互いが自分らしく生きられている。

なんて幸せな時間なんだ、、
リングを見つめながら、毎日そう思っていた。

常に他人からの目を意識して生きてきたからこそ、改めて自分に目を向けると本当の自分がわかる。見えてくる。

自分のことを大切にした方がいい

彼女からそう言われて、ずっと心に残っていた。

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