神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~ 193

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テオ捜索回収編

193 話が長くなる

 色々とカタが付いたので、そろそろテオのところへお迎えに行ったとでも思ったか?
 残念だったな。我々は今、シュラム荒野のダンジョンにいる。そしてさくさくと探索をしている。
 私もなんでかなとは思っているので、責めるのはまた今度にして欲しい。

 たもっちゃんがDIYに明け暮れたために、昨日はクマの村で一日が終わった。
 窓枠は仕事として頼んでいたので料金が発生していたが、それを家に設置する作業は職人たちが好意で手伝ってくれていたようだ。
 お礼に彼らや彼らの家族を夕飯に呼んでメガネの料理でもてなして、色々話をしている内にいつの間にかきっちり用意されていた大量のベッドを発注する書類にメガネが次々にサインをするまででひとくだりである。
 職人たちの話によると、圧縮木材の加工所も工房も今は販路を模索しているところで採算はあんまり取れてないらしい。
 話を聞いて、この村に圧縮木材を持ち込んだ責任でも感じたのかも知れない。
 そりゃ大変じゃんとそわそわしたメガネが、クレブリの孤児院にベッド入れるわと軽率に大量のベッドを発注したのだ。
 圧縮木材関連は、ローバストの産業として事務長が面倒を見ていると言う。だからなんか放っておいても勝手に軌道に乗せるだろうなって気はするが、まあそれはいい。孤児院にベッドが必要なのは本当だ。
 子供らは冬の間から毛皮と毛布でごまかして床でごろごろ雑魚寝しているが、そろそろあったかくなることもあり、あれも限界が近いと思う。暑くて。
 木製のベッドも寝心地は床とそんなに変わらないだろうが、そこは安宿のようにシーツに干し草を詰めて使うか、マットレスを別にそろえればいいだろう。
 ただし、スプリングマットレスはペーガー商会が開発に乗り出したばかりのはずだ。完成には恐らく時間が掛かるので、やはり最後に頼れるのは草だと。私は一人でうなずき納得を深めた。
 この新しい仕事の発生に、職人たちは任せとけとばかりに盛り上がる。
 これは遅くまで宴会になるやつかなと思ったが、そんなことはなかった。明日から仕事が忙しくなると、職人たちは家族を連れて早々に帰った。職人たちは勤勉なのだ。
 全く関係はないのだが、夕食の席には事務長もいた。そして家具の発注書を手早く作ってサインさせたり、納期に合わせた作業計画をその場でおおよそ練ったりもしていた。
 それを聞いた職人たちが一斉にうちの天井を見上げるなどしたが、彼らの発揮する勤勉さとは全く関係ないに違いない。
 そうして翌朝、我々は大量にできあがってきた焼きそば用のラーメンを受け取り、クマを始めとする獣族や、エルフ、人族の住人に「はいはいまたね」と送り出されて村を出た。
 数日前にもこうして見送られたばかりのせいか、村人の送り出しかたが心持ち雑。
 フーゴとペーガー家の料理人はもう、すっかりまともに旅をする気がなくなったらしい。彼らが王都へ帰る頃になったら、冒険者ギルドにまた送迎依頼を出すとのことだ。
 我々は、船に乗って村を離れた。
 それはいい。最近はドアのスキルで移動する以外は、大体空飛ぶ船を利用する。
 だから我々を困らせたのは、それ以外のところだ。
「たもっちゃん」
「うん」
「悪いんだけど、ちょっと水あめ採りに行っていいかな」
「うん、そうね……」
 たもっちゃんと私が薄暗い顔で会話する、その背後。
 空飛ぶ船の真ん中で、威風堂々とした金ちゃんが進行方向にものすごく険しい顔を向けて仁王立ちしていた。
 これは今朝、村を出る頃になっても水あめを持たない我々に子供らの対応が塩だったことが原因であると思われる。
 幸い、シュラム荒野はテオを迎えに行く途中、一応の目的地であるなんたら砦までの通過点にある。いや、少し遠回りにはなるが、比較的近くではあった。だからなんか、これはもう。一回水あめを仕入れてはどうかと。
 反抗期のトロールを持て余した我々は、ひとまずシュラム荒野の甘いものダンジョンに立ちよることを決めたのだった。

「たもっちゃん、これおいしい」
「タモツさん、こちらのケーキもなかなかです」
 だからこの辺を重点的に狩らないか。
 レイニーとドロップ品のスイーツ片手に願望まじりの提案をしてると、たもっちゃんはがばりと頭をかかえて屈み込んで叫んだ。
「何で砂糖が出ないんだよー!」
 いや、違った。頭は確かにかかえているが、原因は私らではなかった。
 薄暗く延々と地下へと続くこのダンジョンに、しっかり根付いているはずの純白砂糖がなかなかドロップされないからだ。
 当初の目的は水あめである。
 水あめは草として生える。普通水あめは草ではないが、ダンジョンの中では草なのだ。
 茎から真横に伸びた枝先に、ビー玉程度の球体が重たげにいくつもくっ付いているのはぶどうのように見えるかも知れない。その水あめ草は、目に付くたびに根こそぎ行くくらいの勢いで私がむしって確保しつつあった。
 だからそちらは問題ないのだが、しかし白い砂糖が出ないのは解せぬ。
 なにしろ真っ白な純白砂糖はこの異世界で唯一、このシュラム荒野のダンジョンでしか産出されないアイテムなのだ。あれのために結構苦労してんだぞ。えらい人とかが。
 これは結局、なんでだなんでだと納得行かないうちのメガネとダンジョンでだけ有用性が増強されるレイニーがどんどん探索して行く内に、ある程度の階層になるとドロップされることが解った。
 どうやらダンジョンが安定するにつれ、純白砂糖は深い階層でのみ出てくるアイテムに固定されたようだ。よかった。白砂糖だけピンポイントに枯れたとかじゃなかった。
 ごりごりと探索するメガネと天使とトロールの後ろで、草を刈りつつドロップアイテムのスイーツをもそもそ勝手に食べるなどして付いて行くだけの私もこのことにはほっとした。
 利権的にやべえやべえと言われてきた砂糖が、ここへきてもはや存在しないとか言われたらただの恨まれ損だと思うの。
 待て。誰が恨まれてんだ。私だよ。私とメガネだよ。
 みたいな一人芝居をしながら思い返すと、前にこのダンジョンへきたのは我々が最初に王都へ引っ立てられる直前のことだ。
 その時と比べると、ダンジョンの様子はずいぶん違う。
 純白砂糖がレアアイテムになったこともそうだし、モンスターの種類も多い。そしてなにより、ドロップアイテムの品数が増えた。
 私はさ、ダンジョンのドロップアイテムと言うと素材的なものが主体なのかなって思っていたの。なんとなく。
 なぜ、ふわふわクリームたっぷりのケーキとかが出るのか。加工品じゃねえか。甘いベリーソースの掛かったスフレケーキとかもある。なぜなの。おいしい。
 しかしよく考えてみたら、特殊金属の農機具が産出されるダンジョンもあるのだ。行ったことはないが。それを思うと加工品がドロップされても不思議はないのかも知れない。
 あと多分、この数々のスイーツを定着させたのは隠れ甘党とかだと思う。
 王都でもこう言うレアレアしいお菓子は見ないので、甘党たちの夢のスイーツがダンジョンの能力でここに具現化したのに違いない。奴らは本当にいい仕事をする。
 反抗期のうっぷんを斧に込め、思う存分暴れて満足した金ちゃんと糖分で頭がぼんやりしてきた我々が地上に戻ると夕方だった。
 前回訪れた雨季とは違い、荒野の地面は乾いて荒々しくひび割れている。あちらこちらでその上に高くしっかり土台を作り、どんどん建物ができているところだ。
 約一年前にはなにもなかった見渡す限りの荒野の中に、ダンジョンを中心とした街が今まさに生まれようとしている。
 なんだか感慨深いものを覚えつつダンジョンから帰還した我々が、地上の地面を踏んだ瞬間ヤバイ感じに薄茶色の目をぐるぐるさせた冒険者ギルドのグードルンに捕まった。
「ねぇ! 白い砂糖が全然ドロップされないんだけど! 商人からご自慢の砂糖はどうしたんでしょうねぇ? とかすごい嫌味言われるんだけど! どうなってんの? ねぇ!」
 商人ギルドになぜか並々ならぬ対抗心を持つ彼は、逃げ遅れたメガネにつかみ掛かって不遇を叫ぶ。この感じ知ってる。前にここへきた時に、似たようなことがあった気がする。
 グードルンはシュラム荒野のダンジョンに調査段階から参加して、めでたくこの地に新設されたギルド支部を任されたそうだ。
「へー、すごいじゃん。おめでとう」
「ありがと! それより砂糖だよ!」
 新任のギルド長として、目玉の白砂糖が出ないのはゆゆしき問題なのだろう。
 ぐいぐいくるのをなだめながらに話を聞くと、どうやら単に探索者がまだ純白砂糖の階層に到達してないだけだった。
 そうか。我々は白砂糖を追い求めるあまり、未到達の階層にまで足を踏み入れてしまっていたか。これ、話が長くなるやつだな。

つづく