神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~ 338

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エルフの里に行くまでがなぜかいつも長くなる編

338 子供の安全

 大森林の間際の町の外に広がる原っぱで、我々はそのまま夕食ののち野営となった。
 トロールである金ちゃんがあんまり宿屋に泊めてもらえないので、間際の町では大体この原っぱでキャンプとしている。
 原っぱの端では相変わらずに最安値の奴隷を扱う商人がいて、ものすごく嫌そうな顔をしていたがなんか用かなとそっちを見るとばっと顔をそらすので別に用ではないらしい。
 ただ単に、町の近くでわざわざ野宿している我々が悪目立ちしているだけと言う気はとてもする。
 そして翌日。
 たもっちゃんが細心の注意を払ったガン見でミオドラグがいないことを確認しつつ冒険者ギルドへ改めて立ちより、大森林に入る冒険者は年一回の受講義務があると言う安全講習をだらだらと受けた。
 大森林の間際の町の冒険者ギルドを取り仕切る、美しきギルド長に呼び止められたのはその講習会が終わってすぐである。
 彼女は前のボタンがほぼほぼ開いたシャツを着て、その下のビキニアーマーをこれでもかと見せ付けてくるかのようだ。
 そして柿渋色の長い巻き髪が乱れるのも構わずに、軽く息を上げながら走ってくるなりぴしゃりと責めた。
「チームミトコーモン! 子供を連れて大森林に入るつもり?」
 声が大きい。
 主にミオドラグとその従者にだけ聞かれてはいけない我々のパーティ名を高らかに呼ぶギルド長に対し、たもっちゃんと私は口の前に指を立て、「しー! しーっ!」と逆にやかましい主張を必死でしたが、よく考えたら彼女はなにも悪くなかった。
 じゅげむの実年齢は六歳程度と聞いてはいるが、それより小さくせいぜい三、四歳くらいにしか見えない。
 そもそも六歳でも充分子供だし、そんな子供を魔獣のうろつく危険の多い大森林に連れて入ろうと言うのがどう考えてもおかしい。
 解ってんのか。
 我々のことです。
 冒険者ギルド主催の講習会は屋根を付け土を踏み固めただけっぽい鍛錬場で行われ、ギルド長が我々を捕まえたのもそこだった。
 周囲には講習終わりの冒険者たちがまだ結構残っててなんだなんだと見ていたが、子供の安全に関わってくる今、そんなのは些末な問題なのだ。ギルド長的に。
 くるぶし丈のスカートの下、かかとの高い硬い靴を踏み鳴らし「子供は! 駄目でしょうが!」と、キレ気味に訴えるビキニアーマーの剣士に我々はぐうの音も出ない。
 厳密に言うとギルド長が剣士かどうかは知らないが、巻きスカートの上にあるごついベルトに細い剣を吊るしているので多分そうかなと思う。
 ギルド長は幼い子供を心配し、どこまでも善良な動機によって我々に厳しく苦言をていした。
 なにを考えているのかと怒るのも解るし、小さい子供を大森林に連れて入ろうとして怒りの原因を作っているのはこちらだ。
 だからこの際、怒られるのはいい。いや、よくはないけども。できれば怒られたくはない。
 ただ、どう考えてもあっちの意見が適正すぎた。
 ホンマそうやなとうなずくことしかできないし、さーせんっしたと即座に謝罪する。
 大体なにも考えてない我々としては、ちゃんとダメって言ってくれるの助かる。
 しかし我々の謝罪に反省の色が薄すぎたのか、大森林と人族の子供と言うバッドエンド待ったなしの組み合わせにまだびっくりしたままなのか。
 悪い意味で興奮しているような、美しきギルド長の怒りはなかなか冷める様子がなかった。
 くり返しになるが、それはいいのだ。……いや、うん。よくはないけど。仕方ない。
 とりあえず、ギルド長からガチのトーンで懇々と怒られているためにめちゃくちゃ目立っているのが諸事情あってものすごく困ると言うだけで。
「あの、何かちょっとどっか別の場所に移動してから話を……」
「子供を連れて大森林に入らないと約束するまでどこにも行かせない」
「なぜなの……」
 服は結構着てるのにどうしてもビキニアーマーが気になってしまう美しきギルド長から凛々しくきっぱり拒絶され、誘導に失敗したメガネが途方に暮れる。
 子供を大森林に連れて行かないと約束すればすぐに解放されそうなものだが、それは嘘になるからムリって言うか。
 じゅげむは大森林へ連れて行く。
 我々がみんな大森林へ行くので、単純に子守りがいないのもある。
 こちらとしては、たもっちゃんもテオもレイニーもいて、大森林に入ったらエルフを求めるメガネによってエルフの里に直行するのが解っていたのでまあ大丈夫だろくらいに思っていたのだ。
 それがまさか。こんなに心配されるとは。
 我々は困った。
 心配する気持ちももっともではあるのだが、それはそれとしていい年して怒られている大人は目立つ。
 講習終わりで元から鍛錬場にいた冒険者や、わざわざ見物にきた奴や、なにごとかと駆け付けたギルドの職員が増えて、鍛錬場の片隅で途方に暮れる我々の周りはすっかり人垣に囲まれている。
 その雰囲気が恐かったのか、心配されている肝心のじゅげむは金ちゃんの肩でびえっと怯え、ぷるぷる震えて半べその子供が周囲の大人を動揺させた。
 そして動揺にざわつく変な空気にまたさらにじゅげむがびえびえと怯え、子供の瞳にじわっと涙がしみ出すと、あわわわわ、と主におっさんたちがあわてる。
 すると大半が冒険者であるいかついおっさんたちの動揺で空気が変にどよめいて、じゅげむが怯え、金ちゃんの機嫌が悪くなり、おっさんたちがまたざわついて、子供が泣いて、なにやってるの! とギルド長がおっさんたちを叱り付け、もう訳が解らない。
 こうなるともはや目立つどころの話ではなくなっている気はするが、我々がなんも考えてなかった以外はそんなには誰も悪くなくて本当に困った。

 余談と言うか、本筋と言うか。
 ただただホントにダメな理由によって、いい大人が本気で叱られる姿は恐らくおもしろすぎたのだ。
 ホントにダメでありながらなんも考えてなかっただけと透けて見えるかのような、深刻さが足りない我々の能天気な感じも悪ノリを助長したかも知れない。
 子供を連れて大森林に入ろうとしたアホがギルド長が懇々と怒られたこの件は、大森林の間際の町でおもしろおかしくあっと言う間に拡散されることになる。
 それがどのくらいの勢いかと言うと、その日の夜には普通に道を歩いてるだけで、おいお前らしっかりしろよ! と、全然知らんおっさんにいきなり声を掛けられるレベルだ。なにあれこわい。
 ここで、できれば忘れていたいところをどうしても思い出さなくてはならないことがある。
 我々が子供を連れていると聞き付け、我々が連れていると言うだけの理由で名前も知らないじゅげむの身を心配し走って現れたギルド長がまず、口を開くなり我々のパーティ名を高らかに呼び上げたと言うことだ。
 いや、呼ぶ。
 冒険者ギルドにはその名前でパーティ登録してるので、用があって呼び止めるなら呼んで当然の名称ではある。
 ではそれでなにが困るかと言うと、我々に報復するためにマロリー家から放逐されているミオドラグの耳に、彼が探したり探してなかったりするチームミトコーモンがくしくも彼の滞在しているこの町に今、まさに今、いると言うただの事実が届いてしまう。
 これは、おもしろおかしい話題を提供してしまい全然いい意味でなく人様の耳目を集めた我々に非がなくもない。ような気はする。でも困る。
 なんかあいつめずらしい虫探すのに忙しいみたいだし、このまま気が付かれないようにそっとしてこっちはこっちで積極的に逃げようぜと言う雑な作戦は、こうしてロクに始まることもなく早々に破綻する運びとなった。
 ただ、結果としてこれは問題とはならない。
「いや、何かー。ミオドラグ、俺らの事とか忘れてるっぽいって言ったじゃん? あれ、違うかも。むしろ向こうが積極的に逃げてるかも。俺らから」
 と、たもっちゃんがガン見によって入手して我々に伝えた情報について、緊張感に欠ける口調で訂正を入れてきたのは数日後。
 大森林に子供はならぬとあまりに正しく強硬なギルド長の反対にぐうの音も出ず、むしろそれなと納得しがちな我々に、大森林の中にあるダンジョンから産出された調味料や日本酒を売るため折よく里から出てきたエルフらの救いの手が差し伸べられてからになる。
 救いって言うか、我々の訳の解らない状況を知ったエルフらが「まあまあ、今回は私たちも付いてることですし」と取りなして、正しきギルド長があっさり引き下がったのだ。
 基本大森林の中で生き、当然子育ても大森林の中でするエルフへの妙な信頼感すごい。

つづく