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サーヴィスについて

さっき、近所の美容院へ行ってきた。この店のオーナーの彼女は、一人で店を切り回している。彼女の腕が素晴らしいので、客はいつも殆ど満杯である。しかしながら、私は昨日から頭痛がひどくて、思い切ってキャンセルか、あるいはヘッドマッサージへの変更を頼んだ。しばらくして、「お身体を大事にして下さい」という返事があったので、ドタキャンで果たして空きに代わりのお客が入るんだろうか、とちょっと心配しながら眠りについた。
次の朝、つまり今日だが、かなりに遅く起きた私が、重たい頭を抱えてぼんやりしながら卵かけご飯を啜っていたら、彼女からLINEがあった。「ヘッドマッサージだけでもお受けになりますか?」と。
これは要するに、私のキャンセル分の空き時間が埋まっていないという状況なので、「時は金なり」という金言を思い出しながら、急いでその辺にあるトレーナーをひっかぶって店へと傘を差して走った。・・・しかし、やはり彼女はあんまり機嫌が良くなかった。
いくつかのやり取りの後、軽いパーマをかけることになった。私の髪は、細くてつやはあるが、量が生まれつき少なく、そんな話を低姿勢でしていると、彼女は「お客様の髪はもうちょっと癖があるといいくらいですね」と、言いながらパーマをかけ始めた。
私が、完全に黙ってしまったので、彼女は少しあわててルイボスティーとクッキーを運んできた。パーマの手順をていねいに説明した。それでも、私が黙り続けているので、彼女も少し引っ込んだ調子で肩のマッサージをしてくれた。流すような手の動きで、頭痛は少しやわらいできた。しばらくして、凄腕の彼女のおかげで、私のぺたんとしたショートヘアは生まれ変わったようになった。
一万円札一枚と、千円札数枚を支払って私は帰路についた。でも、本当は私は、彼女のコストパフォーマンスに対して、その金額を出したのでは決してなかった。少なくとも、お互いの契約としてはそうであっても、私の気持ちとしてはその数分の、ハンドマッサージのためにその金額を財布から出した。
人間は、悪魔のような動物で、決して人の仕事の結果に対して感謝したりは、本当はしない。あくまでも、その人に自分に対する無償の愛情が感じられたときだけ、喜んで財布のひもを緩くする。だからこそ、昔の賢人でそして巨万の富を築いた人は、こう言った。「お客様は神さまです」と。それは、決して心構え論では無くてシビアーな、商売の方法論だったのだ。

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