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現実の林檎

現実の林檎

 暑い暑い夏。ロンドン五輪が終わろうとしている。
「ソーシャルワーカーの大村さん、最近姿が見えませんが」
「ああ、辞めたのよ」
「辞めた?」
「ええ」てきぱきしたチーフの万梨子さんは肘をついて言った。あたしは面談室の扉をあけた。旧型のクーラーが全開運転している。階段を降りると1Fだ。ここはジャムを煮る香りで充満している。片隅に手芸のコーナーがある。
「林檎……売れたんですか?」
「ああ、敦美ちゃん

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