重度のうつ病診断を受けた人間が残していたメモ。

赤い薔薇の現実

朝、起きると窓ガラスに真っ赤な薔薇が突き刺さっていた。
夢だろうか。
眠たい目をもう一度開けてみると、
ご覧の通り、奇妙な現実だった。
だからといって私は薔薇に触れたいと思うような勇敢な主人公ではない。
ただの鬱病患者だ。

診断は二週間前。
どうにも私の様子がおかしいと職場内で噂話をされるほど、私は私でなくなっていたようだ。
医者から即日休職の診断書を貰い、
私はこうして今日もベッドから起き上がれないでいる。
仕事に復帰することはもうないだろう。

ぼんやりと考えながら、赤い薔薇の現実を見て見ぬ振りをしようとした。
そんなふうに都合良く目の前のことをやり過ごせていたら、今頃こんな状態にはなっていなかっただろうか。
考えても無駄なことではあるが。

これはきっと、幻覚なのだろうなぁ。
考えてしまう。
何かの暗示だろうか。
深層心理の表れだろうか。
花言葉を調べたところで私は元々知らないのだから、その行為は無意味だろうか。
延々と薔薇について考えを巡らせたところで、
ゆっくりと目を閉じる。
最早布団の中での生活はどこからどこまでが現実なのか分からないのだ。

深呼吸をして、問いかけてみる。
赤い薔薇は、本当に現実か。
目を開くと窓ガラスは元通りになっていた。
ああ、良かった。
赤い薔薇の現実なんて嘘だったんだ。
そうして私はもう一度目を閉じる。
鬱病は、本当に現実か。

視界は机の上の診断書を探す。
机の上にはやはり何もない。

ああ、良かった。
私の精神は至って健康じゃないか。

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