パキスタン大洪水2022、その後…
8月末にパキスタンを襲った大洪水。9月にはまだ多くの被災地発の情報があったものの、統計が出てからの関心は復興関連の数字に移っており、報道されるとしても今後の資金不足にまつわるトピックがほとんど。また、エジプトでのCOP27の開催もあり、パキスタンのような脆弱な国に気候変動が最も壊滅的な災害をもたらす不公正を訴える「気候正義」に絡む論説が出回りました。一方、被災した土地、人々の現状を伝えるニュースはまず見かけない。11月に日本から戻ったら、水は引かないがニュースは引いている、というありさま。
先週、被害の大きかった地区の一つシンド州のDaduを訪れた知人によると、「3mあった水が1.5mになった程度」という表現でした。畑だった場所はまだ湖のように冠水してボートで移動するしかなく、多くの人々が土手の道路沿いに並んだ避難テントに暮らしていたそうです。食料や日用品などの物資援助はNGOを通して行われていても、自ら生活再建に向けて動くことが難しい、という苦しい状態が続いているものと思われます。
今考えると、10月はじめに一時帰国する直前まで洪水のニュースを読みすぎて、いっとき、気鬱に取り憑かれていたように思います。特に、悲惨な状況に置かれた女性たちを巡るニュースはあまりに重かった。さらに、洪水以前、そもそもの社会システムが生み出しているさまざまな事柄を知るにつけ、胸が重く塞がれるような気がして。いろいろ調べるうち、disposable people(使い捨てられる人々)という言葉を知ったのも辛いことでした。以下のリンクは、備忘のため。
日本にいる間、パキスタンのメディアは見ないようにしていたのですが、会う人ごとに尋ねられましたので、8〜9月にFacebookに投稿していた記事を少し修正してこちらに転載しておきます。リンクを貼ったNGOのサイトの中には現地の状況がアップデートされているものもあります。
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8月30日投稿
パキスタン豪雨、洪水の死者1000人超す
AFPBB
2022年8月28日 17:19 発信地:イスラマバード/パキスタン
「国土の3分の1が水没」「想像を絶する規模の危機」というシェリー・レーマン気候変動相の言葉を引いた衝撃的なヘッドラインのニュースもあり、いろんな方から心配のメッセージをいただいています。モンスーンによる雨季は6月に始まり、カラチは7月中旬に一番ひどく水に浸かりましたが、現在は大丈夫。まだ水が十分はけていない場所もあるようです。
8月30日の現時点では、パキスタンの中南部(シンド州、バロチスタン州、パンジャブ州南部)がひどい状況。農村地帯で水が引かず、今年の収穫は絶望的です、家畜たちも流されています。
北部は氷河湖決壊でひどいことになっています。北西部カイバル・パクトゥンクヮ州のスワット渓谷では川辺のホテルが濁流に飲み込まれていくという衝撃的な映像も流れていました。橋が流されたところも多数……。スワットは、マララ・ユスフザイさんの故郷、ユスフザイ一族が多く暮らす土地です。
モンスーン期もようやく終わりに近づいています。
治安が良くなったら、サッカル(Sukkur シンド州のインダス河沿いの町)にインダス河イルカを見に行って、女性たちが作るクラフトを買って、モヘンジョダロにも行きたいなあとか、来年にはガンダーラ遺跡群からスワット渓谷方面にも行ってみたいなあとか呑気に思っていたのですが……国の財政も非常に悪く(昨日、IMFからの資金提供が決定。洪水以前からの交渉によるもの)、政情も若干不安定なのでインフラ復旧は相当厳しそうです。
今、食べ物、着るもの、暮らす場所を必要としている人たちの元に届けようと、カラチの街路のあちこちに支援物資や寄付を集めるテントが出ています。イスラム系のNGOは地元に根ざしているのか動きが早く、ほうぼうにボートを出して住民救助、食糧ほか物資支援と少額貸付を行なっている様子。国が非常事態宣言を出したことから、ユニセフなどの国際NGOも緊急募金を始めました。
地元の人に聞いたら、寄付をするなら政府系ではなく民間団体の方がいいと。もう少し調べてみます。
洪水で幅100キロの「湖」が出現 パキスタン南部
CNN 2022.08.31 Wed posted at 20:00 JST
うちにある立体地図とつけ合わせてみると、「湖」はインダス川氾濫のせいばかりではなく、アフガン国境側バロチスタンの高地に降った雨が低地に流れ込んで貯まったものだという様子が見てとれます。
「湖」写真の左の頂点のあたりが州都クエッタ。クエッタと近郊はパキスタンのフルーツバスケットと言われています。葡萄の季節がちょうどこれからなのだけれど……水が引くのにどのくらい時間がかかるんだろう。
さらに北部山岳地帯に洪水を引き起こした水がインダス河を下ってきています。米の収穫はかなり絶望的です。ただでさえ食糧危機が囁かれていたのに。9月の中旬にまた大雨が降る恐れもあると……。
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9月5日投稿
洪水の避難者たちが続々とカラチ郊外にたどり着きつつあります。土曜日の時点で5万人、このあとさらに数万人が到着する見込み。避難キャンプはますます大きくなっているようです。
今朝の新聞の衝撃ニュース。シンド州のマンチャール湖で決壊を避けるために堤防の一部を壊し放水したと。この放水で影響を受ける12万5000人は避難を余儀なくされたといいます。日曜日の夕方の時点で、5〜6万人は地区を出たと。30万人が暮らすSehwanの町を救うために5つの地区の12万5000人が家財と生活基盤にダメージを負う。まるでマイケル・サンデルのジャスティスの授業みたいな難しい決断がなされています。
北部洪水の水がインダス川をつたって南部に到達しつつあります。今朝のTRIBUNE紙によると、マンチャール湖が決壊するかどうかはこの10日間くらいがヤマだろうと。シンド州は今年のモンスーン期、この30年の平均に比べて464%の降水。それに加えて、北部での氷河湖決壊。橋や道路が大量に破壊されており、被害の総体はまだまだわかっていないといいます。2010年の大洪水を上回る可能性も……。ただでさえ4〜5月の熱波による不作、8月のインフレ率27%と苦しくなっていたところ、換金作物の綿花とデーツも壊滅。国際機関からは一時的に宿敵インドとの国境を開いて支援物資を入れるようにとのアドバイスだが、軍としてはとても受け入れがたいようです。
本当にどうなっちゃうんだろう……。寄付先をいくつか調べました。
【子ども支援】
■ユニセフ 自然災害緊急募金
【日本のNGO】
どちらも、信頼できる知人がいる団体です。普段からパキスタン北部に事務所を置いて活動していますので、ニーズ把握に信頼が置けます。
■JEN パキスタン洪水被災者緊急支援
■AAR 難民を助ける会
【パキスタンの民間NGO】
信頼できるパキスタン人の知人に聞いて教えてもらいました。
■Karachi relief fund
病院とカラチ商工会議所などがパートナーになっている団体。シンド州、バロチスタン州の緊急支援。クレジットカードでも寄付できる。
■AKHUWAT
マイクロクレジット、教育支援などで貧困問題に取り組んでいる団体。拠点はラホールだが、全国で活動。クレジットカードでも寄付できる。
■Intbau Pakistan
伝統建築や自然素材でサステナブルな暮らしを作ろうという建築系NGOのパキスタン支部(創設者はイギリスのチャールズ皇太子らしい)。パキスタンやバングラディシュで女性たち自身が家を作るエンパワーメントプロジェクトなどを行なっている。シンド州で「竹を使って100の仮設住宅を作ろう」イニシアチブを開始。1つの仮設住宅を作るのに25,000パキスタンルピー(約16000円)。銀行送金のみ。
カラチの避難キャンプに直接物資を届けている人がいるので私はとりあえずそこに少し寄付して様子を聞いてみます。
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9月15日投稿
何度かの人工放流を経て、マンチャール湖の水位はようやく危険水域を脱し始めているそうです。とはいえ相変わらず水は引かず。別の貯水湖の放水で新たな被害も生まれているけれど、雨季も終わり、緊急期は脱した模様です。10月以降のサイクロンに要注意ですが。
一方、被害の大きさが当初の予想を大幅に超えていることが明らかになりつつあります。
洪水関連の損害と救援活動の数字を追跡する政府のポータルサイトが14日に公開されました。
(9月15日当時)避難民、家を失った人の数は相変わらず正確にはわかりませんが、家屋の損壊が176万軒。政府は被災者数を3300万人と見積もっています。国連の関係機関は当面600万人の最も被害を受けた人たちへの支援にフォーカスしていくといいます。
今朝のTRIBUNE紙によると政府は洪水による経済損失額は当初予想の180億ドル($18 billion)の倍以上、400億ドル($40 billion)を越えるだろうと報告。また、これによる貧困の増大が予想され、1200万人ほどが貧困ラインを下回る可能性があるといいます。
驚いた話。
カラチでは街中で女性が表立って働く姿を見ることが少ないのですが、市街地の巨大スーパーの向かいに、小さな餃子&ヌードルカフェを営んでいる女性がいます。名前は、マリア。マレーシアで暮らしていたことがあり、そこで餃子の作り方を教わったんだそうです。もともとケータリングの注文を受けていましたが、去年、イートインもできる小さく居心地のいいお店をオープン。こういうお店はカラチには本当に珍しくて私たちも気に入っており、ちょうど先週と先々週も行こうとしたらなぜか閉まっていました。
そしたらなんと、DAWN紙に彼女が!!
9月に入ってからサッカルに近いハイルプールで炊き出し活動をしているというのです。旦那さんと共に、毎日3000〜5000食も出しているそう。すごい。
現地では食料の他に、蚊が大量発生してマラリアやデング熱の危険が高まっているため、寄付を募って虫除けスプレーや、蚊帳の支援もし始めているそう。
パキスタンにはこういう、まっすぐな意志の、素晴らしい女性たちがたくさんいます。パキスタンという国を外から見ていた時とは、随分違う印象を持つようになりました。
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