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JFSAとアル・カイール・アカデミーのこと

JFSAという団体がある。正確にはNPO法人日本ファイバーリサイクル連帯協議会。古着の回収を行い、その販売益で長年、カラチのスラムにある学校アル・カイール・アカデミーの運営を支援してきた。JFSAの成り立ち自体も非常にユニークでいつかちゃんと書きたいのだけれど、日本側とパキスタン側、友人としてリスペクトし合う関係性というのがとても気持ちがいいといつも思う。

家の片付けをする時に、父や義父の遺品の背広を捨てるのが惜しくて引き取り先を探していた時に出会ったのがJFSAを知った最初だった。それで、時たま衣類や毛布を送っていたのだが、まさか、自分がカラチに暮らすことになるなんて。

コロナが明けて以来、JFSAのスタッフの方と連絡を取ってアル・カイール・アカデミーを訪問したり、スタディツアーに参加したり、在留邦人向けに活動報告会をしていただいたり。でも正直、2022年の11月に初めて訪問して以来、noteに書こう書こうと思いながら筆が進まなかったのは、やはり、カラチのスラムと子どもたちと教育をめぐるこの状況をどう伝えたらいいのか言葉を持てなかったからのように思う。いや、今だって正直持てないのだけれども、写真に写る子どもたちを見ていたら、とにかく写真だけでもいくらか紹介できたらと思う。まずは、2022年11月の訪問。私もまだ慣れておらず、写真も及び腰。

ここは、日本政府の資金協力もあってできた、郊外の女子校の校庭。周辺は土漠にアカシアが生える村といった感じ。川を越えるとバロチスタン州ということもあり、バルーチ族の子どもたちが多い。部族の習慣的に、男女共学は難しいとのこと。
日本の旗も
ここはアル・カイールのキャンパスの中でもとりわけ条件が厳しい、ゴミ捨て場のスラムにある学校の中。外に作っても子どもたちが歩いて通うのは難しいので、ゴミ捨て場の中に学校を作ったという。
学校の外観。生徒の親たちは、運び込まれたゴミを燃やしてふるいにかけ、金属片や骨などを拾って売り、生活の糧にする。衛生状態も悪いが、学校内は清潔に保たれている。
ノースカラチにある、アル・カイールのメインキャンパス。ここには、幼稚園から高等部まである。

アル・カイール・アカデミーの創設者で学長のムザヒルさんをはじめ学校を運営する皆さんが素晴らしい方々で、会って話をするたび、毎回胸を打たれる。良きムスリムとはこういう方々をいうんだろう。汚職と賄賂と暴力のはびこるこの街で、学校を核にしたコミュニティが着実に育っている。とりわけ、ノースカラチのメインキャンパスでは高等教育へのブリッジがあり、卒業生が先生はじめ地域の仕事に取り組むという好循環も生まれている。

ここからは、2023年9月訪問時の写真。

2022年にも訪ねたゴミ捨て場は酷いことになっていた。某中国企業がゴミを使ったエネルギー事業を行う資源に使うからと、地主がここでゴミを燃やすことを禁じたそうだが、ゴミはうず高く積まれるばかり。危険な状態。
しかし、ゴミ捨て場の学校には明るい変化も。
ムザヒル学長の息子のサードくん。寄付があって、新しい、設備の良い教室ができたと紹介してくれた。
学校内は明るい色でペイントされている。
次に伺ったキャンパスは、やはり郊外。男女受け入れるが中学年からクラスは別というタイプ。先生方がみんなサングラスをかけているのは、結膜炎が大流行していたため。
低学年クラスは混合。Are you sleeping? 英語の歌でお遊戯を。
郊外にあるこのキャンパスは、強盗団にあうという惨事があったばかりだった。IT学習室のコンピューターが全て盗まれてしまった。経済危機が続くパキスタンではインフレや水道光熱費の大幅な値上げなどによる生活苦から、強盗被害が増加している。
前回も訪問した、日本の資金協力のあった女子校キャンパス。高学年の生徒たちに将来の夢を訪ねてみたところ、「医者」「先生」の他に「軍人」という声が多かったのが胸に刺さった。学業を修めて女性がつくことができる職業、資格が取れる職業、自分がそこに就くことで周りの人を喜ばせることができる職業の幅はおそらく狭い。想像力が及ぶところがその辺りなのだろう。理数系の教科が好きと答える子どもたちが多いのも意外だった。10代になった女子が学校に行くということ自体が、おそらく部族のジェンダー規範を外れている。むしろ、ジェンダー的に学習に対する社会の期待、圧力がない分、教科の中では素直に好きなものを見つけられたのかもしれない。
女子学校の門にて。
今回初めて、アル・カイールのカレッジを訪問。アル・カイールの各キャンパスの中でも比較的都市部のメインキャンパス以外からはなかなか高等教育まで進む子はいないけれど、真ん中の少年は郊外のキャンパスから進学してきたという。彼と写真を撮れて、サードくんが嬉しそう。
メインキャンパスへ。給食を作り続けているお母さん。昼時に訪問するといつも給食を食べさせていただくのだけれど、本当に美味しい。心がこもっている。お母さんをみているとわかる。
給食室の前の壁1
給食室の前の壁2
アル・カイール・アカデミー学長のムザヒルさん(右)と、JFSA事務局長依知川さん。後ろの二人は、ムザヒルさんの奥さんで副校長のタスニームさん、長男のサードくん。
アル・カイール・アカデミー始まって以来初めて、奨学金を得て、大学の医学部に進学した卒業生の女性。自宅での学習環境に困難はあったが、先生たちの励ましでここまできたと。
初めて行くキャンパス。アルカイールのキャンパスの中でも、ここはとりわけ治安の悪いスラムにある。徒歩での通学に危険を感じる女子学生も多いと。貧しさ苦しさによる鬱憤がたまることで、攻撃的になってしまう人たちがいる。校長先生は、この学校が起こせる変化にかける意気込みを語ってくれた。
確かにこのあたりは、カラチ中心部より相当状況がひどい。
校内には先生と子どもたちの明るい声が響き渡っていた。
カラチへは、農村部からの流入者たちが多い。カラチ外縁部に流入者たちの暮らすスラム、いわゆるカッチ・アバディ(未熟な町)がどんどん広がっていく。この近辺は、レンガや建築資材など肉体労働の工員を求める仕事が多い、カラチの外縁部の特徴。
最後に訪ねたのは、郊外のいわゆる公立学校、だけれどもNGOとしてアル・カイール・アカデミーが運営を行なっている学校。こういう学校の存在の意味が、最初は全然わからなかったのだけれど。
もともと政府の学校なので、校舎は立派
地域に、学校ニーズはある。ここに通う子どもたちは、シンド系、バルーチ系など母語は別言語。学校に行って初めてパキスタンの公語とされるウルドゥー語と読み書きを教わる。しかし、アル・カイール・アカデミーのような民間のNGOが入らない限り、公立学校の運営が壊滅しているケースがたくさんある。理由は、教職員の政治的な汚職、賄賂、利権構造による、学校崩壊。この学校も、一旦廃校に近いという状態だったところから立て直している。にわかには理解しがたいが、パキスタン、特にシンド州ではよくあることだという。
今や、教室が足らず、高学年は青空教室。

パキスタン、特にシンド州の教育の問題は本当に重層的で、知るほどに簡単に語れなくなるというジレンマがある。学んだからって何になるんだ、という問いさえ、ここでは現在進行形だ。でも、アル・カイールのキャンパスで出会う子どもたちがみな、学べる喜びと、未来への希望を瞳に宿しているのを見ると、そんなことツベコベ言う大人たちの声、どうだっていいじゃないかと思う。学べる機会を、より多くの子どもに。そのシンプルなアクションが開いていくことがあるはずだ。

アル・カイール・アカデミーに通うには、基本的には学費はいらない。学費が払えないような家庭の子どもたちに教育を届けるのがモットーだ。運営は外部資金、つまり個人・団体からの寄付とJFSAのパートナー現地法人のような社会的企業による資金、時に諸外国の補助金などによって賄われている。関わる人たちの熱意と経験によって質の高い教育を作り出しているアクティビズム。
一方で、国や自治体が担う公教育とは何かということを考えさせられもする。特に、この国のように階層が固定化した社会では。あるいは、階層を固定化したいという意図があるところでは、公教育は破壊されていくのかもしれない。パキスタンにおける15歳以上の識字率は58パーセント(男性69.3パーセント、女性46.5パーセント(2019年))、世界で最も低いグループに属している。
(JICAサイトより https://www.jica.go.jp/oda/project/1905102/index.html

おまけ。アル・カイール本校の正門前にいる、日本で言うところの駄菓子屋のおっちゃん。カリカリスナックにソースかけて売ってる、5円くらい。こういうおっちゃんの雰囲気は、なぜか、国が違っても似てる。

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