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庵野秀明監督『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

『新世紀エヴァンゲリオン』はウィキペディアによると1995年から1996年に放送されたテレビアニメ作品である。当時の影響はすさまじく、黒や赤の画面に、縦横無尽にメッセージが散りばめられた表現の衝撃はよく覚えている(蛇足だが、同時期に同じく人気を博したNHKドキュメンタリー番組『映像の世紀』のオープニングにも似た手法が使われていて、そちらも格好良くて好きだった)。テレビシリーズ終了後も、映画作品として『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』として『序』『破』『Q』が公開され、いずれも話題になっていたように思う。カラオケに行けば「残酷な天使のテーゼ」もフルコーラス歌える。

しかしながら、私はこれらの作品を一度も観たことがなかった。「なんか辛そう」というぼんやりした理由によるのだが。したがって『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以下(「本作」)が私にとって初の「エヴァ」となる。正直言って、理解できるかどうかの不安はあった(これまでのシリーズを予習しようとは思わなかった)。何故わざわざ観に行こうと思ったかは、映画館での体験は自分にとって特別なものであること、また「アニメーション作品として破格のクオリティ」との評に心動かされたからである。

結論から言えばとても良かった。ストーリーやキャラクターについては、理解不足なので言及しないが、単純に楽しめた。『風の谷のナウシカ』ですでに萌芽が出ていた、大きなロボットの歩き方。吸い込まれそうなスリリングな空中戦、ベテラン陣の声優さんたちの安定した演技、田舎の風景の美しさや、印象派の絵画のような夕やけ雲の描写。庵野監督のルーツである「特撮」を思わせるユニークな演出。予想以上にワクワクする映像体験となった。

何よりよかったのが音楽だった。クラシックの名曲や、合唱による聖歌。ニーノ・ロータの『太陽がいっぱい』をイメージさせる切ないインストゥルメンタル。決戦のさなかにメジャーコードの華やかなオーケストラ曲や、クリスマス・キャロル「もろびとこぞりて」を当て込んでくるのも素晴らしい。もちろん、宇多田ヒカルによるメインテーマ曲も、ラストにふさわしい印象と余韻を残してくれるものだった。

「エヴァ」はファンの作品への思い入れが並外れている作品である。感想の振れ幅は相当だろう。しかし、本作に対する「期待外れだった」という声は気にする必要はないはずだ。好きでも嫌いでもわからなくても、観た人ひとりひとり、作品と対峙すればいい。私にとっては「クリエイターとしてトップランナーたる庵野監督の、古今東西のアートに対する強烈な敬意と愛情が、随所に感じられた映画」として、観てよかったと思っている。そういう楽しみ方もありではないだろうか?

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