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川崎 昌平著『重版未来 ―表現の自由はなぜ失われたのか―』

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表現の自由が「表現規制法」で厳しく取り締められている世界(違反者は処刑される)で、なんとか本を世に届けようと奮闘する出版社社員の漫画。そしてそういう世界になるに至った原因を述べるエッセイ(漫画の中に出てくる本の内容、という位置づけである)の、二部構成となっている。

表現の自由が失われる、というとき、まず私などは国家による統制を想像する。本書の漫画においても同じである。しかしその原因を、著者の川崎氏は社会のあり方に見ている。検閲制度ではなく、2020年現在の表現者および、ユーザー、消費者など、表現の受け手の姿勢の中に捉えている。

第一から第四まで語られる原因の、すべてを私自身の中に落とし込めている自信はない。私にとって肌感覚で拒絶する内容ではなかったが、しばらく頭の中に入れておいて、反芻し、咀嚼し、自分の答えを見つけたい。

答えが見つかっていないのにこのレビューを書こうと思ったのは、何かの危機感を感じたときに、たとえ拙速でもアクションが必要と思ったからだ。上記で触れた「表現の自由が失われた原因」の中に、「文化庁は文化を殺すな」と銘打ったアーティストのキャンペーンに対する言及がある。これはあいちトリエンナーレ展覧会中止の動きに対し起こったキャンペーンであるが、その開始が2019年9月、本書のあとがきの日付が2020年1月であり、相当な短期間で本書を企画、出版されたことが伺える。「自由は決して当たり前のものではないのに、それが失われていく」という焦燥感、何より川崎氏の並々ならぬ熱を感じた。まとまらないレビューになっていると思う。私の言いたいことはこのレビューのタイトルに尽きる。

『1984年』の作者、ジョージ・オーウェルは言う。「そもそも自由とは、誰かが聞きたくないことを、その人に言える権利である(If liberty means anything at all, it means the right to tell people what they do not want to hear)」と。川崎氏の主張には、「自由」の持つ残酷な側面も提起しているように思う。そこもまた賛同したい部分である。

最後に一点。本書の「はじめに」の部分に、「本書には、全く絶望しかない」との言葉があるが、本書にはちゃんと希望が感じられたことを指摘しよう。漫画にも、エッセイにも。今私に何ができるかわからないが、共に闘いましょう。

(本記事は2020年4月18日に「アマゾンレビュー」に掲載のものと同じ内容です)

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