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耳をすませば

 リズムの違いと聞いて、異なるリズムを組み合わせた曲調をポリリズムというのを思い出しました(Perfumeの「ポリリズム」はまさしくその通りな曲です)。

 違うリズムを持った人が集まって重なれば、違ったリズムになりますね。しかしですよ。リズムとテンポはまた別です。話すテンポではなくて、生きるテンポの話です。

 というのも子どもの頃、祖父に何か音楽をと言われて当時自分が気に入っていたヴィバルディの「秋」第3楽章
(参考:https://youtu.be/EF4K2avg8AA?si=QjBLY6RgYQ2MMBkB)をかけたら

「このテンポは爺には速すぎる。若者のテンポだね、この曲は」

と苦い顔をされたことを何故か覚えていて。

 当時の私は年齢によって合わないテンポというものがあるのか!と軽く衝撃を受けたものです。

 確かにヴィバルディの「秋」のテンポはスキップかツーステップでも踏めそうな軽やかさで、何で「秋」なのにこの軽さなんだろう、と思わなくもない。くるくるハラハラと舞い落ちる落ち葉のイメージなのかなあ。錦秋という時候の挨拶がしっくり来るゴージャスさもありませんか。

 しかし確かに、当時の祖父は戦時を生き延びた70代で、今の70代とは違う、どこからどう見ても年寄り、自他ともに認める年寄りでしたから、まあこんな軽いテンポは似合わないよ、と当時の自分にアドバイスしたくもあります。

 そしてその辺からでしょうか、私は心理職になるずいぶん前から誰か印象深い人と出会うとその人のテンポを探る癖がつきました。すると面白いもので、人によってそれがずいぶん違うのですよ。そして同じ人でも時と場合によって速さが変わる。

「いつもはゆったりしている人なのに、今日は何だか焦ってるな」

とか。

「いつもは軽快なテンポの人だけど今日は停滞してる」

とか、慣れるとわかるようになります(あくまで私の場合)。しかし分かったところで何が出来るわけでもなく。この特殊能力は長らく宝の持ち腐れだったのですが、何の因果か心理職になってみると意外と役に立ちました。むしろ精度が上がってテンポだけでなくその人の曲や歌が聞こえてくるようになったり。

移動中や犬の散歩中にイヤホンでぼーっと音楽を垂れ流すのが習慣化しているのですが、最近はサブスク万歳です。たいてい考えるともなく考えているとふっと聞きたくなる曲が天から降ってくるんですが、その時にすぐ検索してすぐ聞けるのが便利すぎる(散歩の途中にその都度立ち止まらせられる愛犬には迷惑でしょうが)。さらに、幅広い選曲ができるのがありがたい。
話がそれました。人の生きるテンポの違いでしたね。

年代によるテンポの違いももちろんありますが、それよりもやはり個人差が大きい気がします。属するコミュニティや関わる相手とテンポが合わないと大変しんどい。

 これって何だろう。心理学的に言うと力動になるでしょうか?

 そしてまたふと。映画「ボヘミアンラプソディ」で、フレディ・マーキュリーがブライアン・メイから言われていた言葉を思い出しました。「Slow down.」訳は「生き急ぐな」でしたっけ。

 ちなみに祖父がその後気に入っていた曲は、ヴィバルディの「冬」でした。美しい白銀の雪野原を連想させる、繊細で美しいゆったりとした旋律でした。
           (C.N)

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