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環境を整える

 三寒四温を経て桜が満開を迎え、やっと春と言えるだろうか。

 2024年春の今現在、わたしのなかで、みこと心理臨床処三茶庵緑化計画が進行中である(プロジェクトリーダー・わたし、プロジェクトメンバー・わたし。)

 手始めに、出先で見つけたお手頃のネモフィラ・インシグニスブルーを買ってきて、大きめの鉢に植え替えた。実はこのネモフィラ、種から蒔いて育てようとしたが大変難しく、発芽はしたけれど大きく育ちはしなかった。

 これはやはり、いつも目の届く範囲に置いておかなかったからでは、と思い、今度は春にタネを巻くタイプのハーブの種を数種類買い込んで、蒔いてみた。種類はカモミールと、ミントと、ラベンダーである。ミントは庭に直播きすると大変なことになるとネットでも専門書でもたくさん書いてあるが、ミニプランターならどうということもあるまい、と軽い気持ちで蒔いたのだが、これがなかなか、発芽までが待ち遠しくてならない。カモミールは発芽までにやや時間がかかるとどの園芸サイトにも書いてあり、こまめな手入れが必須なようで、これもドキドキしながら発芽を待ったが、先日やっと芽が出て、ワクワクしているところである。

ここまでは順調。あとは大本命のイングリッシュラベンダーである。

ラベンダーは、あの香りも色も立ち姿も大好きで、わたしの中では育ててみたいハーブ、ナンバーワンなのだが、これがまた特段に手がかかる。まず、タネは1週間以上冷蔵庫で冷やしておかねばならない。寒さを経験しないと発芽しないというのだ。そしてその発芽率も大変に低いらしい。そのため、遅効性肥料を薄めた水に一晩浸した小さな小さな種を土に蒔き(というかそっと置き)、薄く土をかけて霧吹きで水をやる。

そうして待っていたのだが、10日経っても2週間たっても、一向に芽が出ない。加湿に気をつけながらしかし表面が乾かないように、という育て方教書に則って毎日シュッシュっと水を噴いても、全く出てこない。

これはもう発芽しないのではないかと半分諦め、しかし何がいけなかったんだろうか、と諦めの悪いわたしはさらに調べた。そして知った。ラベンダーの種子は、嫌光性が強い、つまり光が苦手だということだったのだ。

日向よりも日陰で栽培を、というのは読んで知っていたけれども、光が嫌いな植物がいるなどとは思いもしなかったので、これは目から鱗である。慌てて厚紙をミニプランターの上に被せて2日。なるべく光が入らないように夜寝る前、厚紙をそうっと取り除いてみると、ヒョロリと1つ、芽が出ている。翌日、翌々日、とどんどん芽吹いていき、今は両手で余る程度の芽が見にプランターに控えめに育っている。

ここまでやってみて思うのは、環境調整と一口に言っても、本当に色々難しいものなのだということである。冷涼な気候を好む植物があること、ラベンダーがそれに入ることは知っていた(だから北海道で有名なのですよね)。しかしまさか、光合成をする種である植物が光を嫌いながら発芽するとか、植物学者ではないわたしには、ちょっと意味がわからない。芽の時は光合成しないの?ちゃんと緑なのに?そう問い詰めたいところだが、遮光した環境で発芽したことが、何よりの証拠である。

 植物と我々人間には共通言語は今のところない。あるという話はそのうち出てきそうだけれど、少なくとも今はない。だから何が彼らにとって快か不快か尋ねようがなく、ただ黙々と栽培について試行錯誤を重ねたり、生態を調査したりして、植物との共存を図るしかない。

 対動物はもう少し進んでいるような気がする。猫や犬などペットはもちろん、家畜一般について、人は表情や雰囲気、体つき、鳴き声から色々察することができる。それでも驚かされることの方が多いのだろうけれども。
では人同士はどうだろう。表面上の共通言語はあるけれど、それは話し合いに足る豊かなものとして機能しているだろうか。

 自分にとって、相手にとって、あの人にとってこの環境はどう感じられているだろうか。そう思ったときに、語り合う言葉を私たちは持っている。でも、その言葉を選んで、尽くして、話し合えることの幸運さを、私たちは容易に忘れてしまいがちなのではないか。

 日々強く育っていくハーブたちの芽を観察しつつ、そんなことを思う春の宵である。
 
 ちなみに夏にはミニひまわり、秋には桔梗かコスモスの切り花を持っていけるようにするために、緑化計画は着々と進行中である。

               (C.N)

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