時ぐすり
我々カウンセラーには、昔から強力な仲間がいる。それは何かというと、時間である。
時間は色々なものを風化させる。心の傷も、心そのものも、だ。味方につければこんなに心強い存在はない。時間がたてばわだかまりがほどけたり、こんがらがった心の糸が緩んでいったりすることもある。だから昔から我々は、時間が持つ治療的効果を時ぐすりとか時間ぐすりと呼んできた。ある意味、人が成し得ないことをしてくれる薬である。
時薬の効能は、例えば愛しい対象との別れの痛みを軽くする時によく発揮される。また、人生によくある、正解かどうかわからないけれどなさねばならない選択における迷いにも、時ぐすりがよく効く。選んだ結果を出すことに急くよりも、天命を待つような気持ちで時が経つのを待っていた方が、物語は広がることもあるのだ。
とはいえ、時間薬には偽薬もあるので注意しなくてはならない。
時間が傷を癒すのを待つことと、傷があることを棚上げして考えないようにすることは、質的に違うことだということを、忘れてはならないと思う。傷や傷の痛みを無かったことにする力は、時薬にはないのだ。
私たちの心の中にある棚はとても上手くできていて、時間の干渉をあまり受けない部分もある。棚上げしておけば外部から傷に無遠慮に触れられることはない代わりに、手当を受けることもない。つまり棚上げしている限り、傷はいつまでも乾かずに血を流し続け、痛み続けるのだ。棚上げの理由は人によってたくさんある。
あまりに辛かったから。
目の前で展開されることの方が傷の手当てよりも優先度が高かったから。
などなど、本当に様々である。棚上げできるのもその人の持つ力だけれど、時ぐすりも効かない領域に放置されたそれを、手当てもせずに放置したままにすることはとても難しい。
それになんらかの理由があって棚上げした傷を、一人で下ろして向き合い手当てすることにも、相当のしんどさと勇気がいる。時ぐすりに浸しても治りきらない傷を目の前にして、途方に暮れることもあるかもしれない。
そんな時のために、私たちがいる。
安心できる場所で、安心できる相手と共に、傷を吟味し手当ての方策を考えること。カウンセリングには様々な技法があるが、どの技法も基本的にはそれを目指して開発されている。時ぐすりにはない、我々の効能だ。
一人で向き合うには辛く、知己とは分かち合えないかもしれない傷を思い出したら、我々のような専門家がいることを思い出していただければ幸いである。
(C.N)
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